「地域貢献」の教育理念とSDGsをつなぎ、教職員と学生が幅広く活動を発信/常葉大学

 常葉大学では2022年9月、公式ウェブサイト内「地域貢献」のページにて、地域貢献活動の取り組み事例発信企画「常葉大学×SDGs-地域と共に持続可能な社会の実現へ―」の掲載をスタートした。同学の教職員や学生によるSDGsに関連した活動を51例公開する企画で、SDGsの17の開発目標に沿った取り組みが並ぶ。この取り組みの背景や意図、期待する効果について、常葉大学地域貢献センター長の木村佐枝子氏に話を聞いた。

画像 常葉大学地域貢献センター長 木村氏

教職員、学生、ゼミなど多彩な立場からSDGsの取り組みを発信

 常葉大学は、「知徳兼備」「未来志向」「地域貢献」の3つを教育理念として掲げる。今回の企画では、この中の1つの柱である「地域貢献」活動をSDGsの取り組みとして整理、発信している。その背景には、〈地域社会の一員である大学には地域発展の一翼を担う責任がある〉との大学の思いがある。また、静岡市と浜松市に計4つのキャンパスを有し、学生のおよそ9割が静岡県内出身者であることから、これからの静岡に貢献し得る人材を1人でも多く育成し地域に還元する意図もある。

 社会環境学部、健康科学部等SDGsと親和性の高い学部も有する常葉大学では、以前から各キャンパスで学生や教職員が個々にSDGsまたは地域貢献につながる活動を展開していた。それらの行動をSDGsの目標と結び付け、全学共通の取り組みとして発信しようとスタートしたのが「常葉大学×SDGs」である。

 発信の目的は4つある。学生や教職員の地域貢献活動を広く発信し地域に根差す大学としての存在を示すこと、SDGsと教育研究を結びつけ世界的な取り組みへの全学でのアクションを表明すること、地域課題の解決が地球規模の課題の解決につながることを認識し諸課題に対峙できる人材を育成すること、全教職員・全学生がSDGsの当事者であることを意識して活動することだ。こうした活動の中核として機能しているのが、木村氏がセンター長を務める地域貢献センターである。

 今回の取り組みでは、センター内に設置された地域連携推進委員会に各学部の教職員が集まり、木村氏を中心に個々の活動の可視化と発信に向けた議論を開始。また、学生主体の発信に期待したいとする江藤秀一学長の意向もあり、全学生にも発信を促した。結果、教授や准教授、講師といった教える側だけでなく、学生、ゼミや組織単位での取り組み等、様々な立場から事例が集まった。

学生が主体となった取り組みを大学が支援

 発信された51の事例の中に学生が主体となった取り組みが複数見られるのは、常葉大学がここ数年積極的に取り組んできた学生支援の1つの成果でもある。2017年、学生の主体的な活動をサポートする『主役は学生プロジェクト』をスタート。そのプロジェクトの進展として2018年、地域貢献センターに「とこは未来塾-TU can プロジェクト-」が立ち上がった。学生が企画した地域貢献活動に対し大学側が財政面での支援をするもので、5万円から最大15万円を助成する。

 助成を受けた活動にはSDGsと結びつくものが多い。例えば、健康プロデュース学部心身マネジメント学科卒の高橋明子さんは、「健康(ヘルス)だけでなく、健幸(ウェルネス)について楽しく学ぶことのできる教育教材を開発し、それらを使って小学校で授業をすることで、子どもたちの健幸に関する興味・関心を高めること」を目的に『健幸カルタ』を制作した。また、社会環境学部社会環境学科4年で2022年度の大学学友会会長を務めた佐々木健太さんは、学友会企画のイベント『防災?SDGs?なんだそれ!?解決しちゃいマルシェ!!』で主体的な役割を担当。100名を超える来場者に向けて防災やSDGsに関する情報を届けた。


画像 健幸かるた


認知はしているが、身近ではなかったSDGs

 常葉大学にはもう一つ、学生主体の特色ある組織として「学生評議員会」が存在する。これも『主役は学生プロジェクト』から生まれたもので、学生が大学に対して意見する機会を作ることによって、学生の主体性を育成することを目的としている。学友会活動の最高決議機関と位置付けられ、評議員は各学部・各学科から1学年2名~5名ずつ選出される。2020年末には草薙・瀬名キャンパス評議員会が主体となりSDGsに関する認知度調査を学内外に向け実施。その結果、SGDsという言葉の浸透度に対し、その目標達成に自らが関わっている認識やSDGsそのものへの興味関心は決して高くないことが見えてきた(図表)。


図表 学生評議員会が実施したSDGs認知度調査結果


 そこで翌2021年、外国語学部グローバルコミュニケーション学科卒で2021年度の学生評議員議長を務めた大石健太郎さんは『SDGs講演会』を企画。学内だけでなく静岡大学の教授やSDGsに取り組む地元企業の担当者にも登壇を依頼し、その講演から「自分達にできること」を考える機会を学生に提供した。また、その成果を静岡市企画課主催の『SDGsユースサミット』で発表。自治体と連携したSDGsの周知活動にも貢献した。評議員会のSDGs関連活動は次年度の議長となった教育学部生涯学習学科3年の風間涼太さんを中心に2022年も継続。『常葉グリーンプロジェクト2022』として、節電や節水など、身近なところからSDGsにつながる取り組みを学生一人ひとりに呼びかける活動が行われた。

身近なところからのアクションが拡がる

 Webサイトによる発信の成果もあり、最近では附属の中学・高校との連携の動きも模索される等、取り組みの動きは多角化している。木村氏は、「SDGsは決して特別なことではなく、私達の日々の生活と密接につながっているもの。その意識の醸成のために、まずは身近なところからアクションを起こした。今後そのアクションをさらに地域課題と紐付け、発展的に取り組むことで、大学の使命である〈教育研究に基づく地域と連携した社会貢献〉を実現させたい」と語った。



(文/髙橋晃浩)


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