「地元」の魅力の発見や持続化に挑み「世界」ともつながってSDGs達成を目指す/和歌山県立田辺高等学校

学校DATA
■生徒数821名(男子369名、女子452名)
■進路状況(2021年度)大学218名、短大15名、専門学校27名、就職・公務員13名、進学準備等35名

画像 和歌山県立田辺高等学校 ESD推進班 小竹氏、進路指導部長 清水氏

郷土への誇りを持って世界に打って出る

 和歌山県立田辺高等学校で、今で言うSDGsの視点を持った教育が始動したのは、2014年度からだ。この年より文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH、文末も参照)事業がスタート。同校もSGHアソシエイト校となり、グローバル人材の育成を推進する。その際に、そもそも「育てたいグローバル人材とは何か」という根本の議論から始め、結果、ESD(持続可能な開発のための教育)に着目。校内にESDの推進室を立ち上げ、2014年度より「持続可能な社会づくりに貢献することができる」ようなグローバル人材の育成を目指すようになったのだ。

 併せて思い描いた構想もある。まずは生徒が地元に目を向け、「郷土への誇りを持って、世界市民の一員として活躍する」という方向性だ。同校でESDを推進する小竹博允氏は、その意図を次のように語る。

 「取り組みの原形をつくった先生がよく言っていたのは『生徒が自信を持てるようにしたい』ということです。本校の生徒の多くは、大学に進学し、その際に一度は県外に出ます。気がかりなのは、本校入学時のアンケートでは『地元に愛着はあるが誇ることはできない』『自分にも自信を持てずにいる』という生徒が想像以上に多かったことなのです。そうした生徒達が、自ら地元の魅力を発見し、その地域社会をどうすれば持続できるかも自分達で考え、『郷土への誇り』と『地域に根差した活動の経験』を持って、全国や世界に打って出られるようにしたい、と考えています」

 2015年に国連でSDGsが採択され、持続可能な開発に向けた17の目標が示されると、生徒が郷土の持続性を考える土台としてこの概念も共有していった。

ツアーの企画を通じた地域探究と発信

 同校のSDGs教育の核は、総合的な探究の時間だ。

 1年生は「地域の魅力と課題」を探究。コロナ禍前は、生徒がフィールドワークを行い、地元の魅力や課題の発見、解決策の提言を行った。コロナ禍で校外の活動が制限されてからは、生徒が主にネットで情報収集し、多様な講演(下の写真も参照)でも学びながら「地元のスタディツアーのプラン」作成に取り組んだ。ツアー参加者がこの地元の魅力を学ぶことのできる旅行プラン――具体的には「この地域の歴史や伝統・文化、豊かな自然、環境保全と人間生活を調和させるシステム、地域課題解決に向けた先進的な取り組み等」を学べる旅行プランを、生徒が考えるのだ。その際は、ワークシートを活用して次の点も明確にする。

  • ターゲット(ツアー参加者)の特徴
  • ターゲットに与える効果(メリットや影響)
  • ③地域社会に与える効果
  • SDGs達成に向けての効果

 2年生は「地域と世界のつながり」を探究。和歌山県は、戦後の世界中への移住者が多かった地域であり、その移民や2世、3世の人達が集まる「和歌山県人会」とオンラインで交流する。ほか、JICA職員の国際貢献活動の話等も聴き、国内外の比較研究をしたうえで、SDGsの視点からレポートも作成する。

 3年生は「自己の生き方・あり方」を探究。今までの活動も踏まえて進路を考え、自らが地域社会や国際社会にどのように貢献していくかも文章にまとめる。

対面とオンラインでハイブリッドの交流を

 こうした探究活動を進めていくと、生徒のなかにはより踏み込んだ地域貢献や国際交流をしたい者も現れ、有志によるSEEKER(生徒国際委員会)という組織も発足した。登録生徒数は50名前後で、おのおのがやりたいと思った活動に参加している。具体的には、世界遺産の熊野古道の保全活動、地元の梅農家と連携した商品開発、和歌山県人会との移民学習等だ。

 進路指導部長の清水昌樹氏は、一連の活動によって進学の面にも好影響が出てきたと見ている。

 「探究テーマを基に防災や観光等の分野に進学した者もいますし、地域社会や国際社会への貢献まで生徒が意識し出したことで、そのための地力をつけようと、日々の学習への意欲も高まったのを感じています」

 課題もある。コロナ禍でフィールドワークが制限されたこともあり、「生徒達が主体的に楽しんで取り組む探究になりきれていない面もあった」(小竹氏)という。一方で、広がった可能性もある。小竹氏も清水氏も強く感じているのが、「オンラインの普及で外の世界とよりつながれるようになった」ことだ。地元や和歌山周辺の人々に加え、全国各地の高校や大学、世界中の人とも、交流できる機会が格段に増えたのだ。「SEEKERの活動で、ある生徒達は岩手県の高校とオンラインでつながり、互いの地元にある世界遺産の保全や活用について意見交換しました。別の生徒達は、地元の民間団体や大学生と連携し、ブラジルの和歌山県人会の皆様をオンラインで取材し、外部のシンポジウムで発表もしました。そうした場で堂々と話すようになった生徒達を見ると、外の世界との関わりが成長を促すのを実感します。本校は探究活動や進路学習で既に多くの大学の力をお借りしていますが、対面とオンラインのハイブリッドの交流で、高大連携を一層深めることができればうれしく思います」(小竹氏)

  • スーパーグローバルハイスクール……グローバル人材の育成に取り組む高校を、文部科学省が審査・認定。指定校とそれに準ずるアソシエイト校がある。

画像 1年生のスタディツアーの様子


画像 探究活動の様子



(文/松井大助)


【印刷用記事】
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