全学体制の下、学生が主体となり、社会実装を重視でSDGsを推進/金沢工業大学
金沢工業大学は、4年連続で文部科学省「SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業」に採択される等、その全学的なSDGsへの取り組みが常に注目されている。そのSDGs推進の具体的内容やポイントについて同大学SDGs推進センター所長の平本 督太郎氏に話を聞いた。
SDGsの正しい理解を深めるカードゲームを開発
「本学では、全学部全学科で学生が主体となってSDGs達成に関わる取り組みを展開しています。そのため、その内容も多岐にわたり、SDGsの17のゴールに幅広く分散しているのが大きな特徴です」
各学部学科で授業の一環として行われる取り組みもあれば、SDGs 推進センターあるいは学生団体主導のプロジェクトもあり、多くの学生が何らかのかたちでSDGsに関わっているという。教職員は学部学科の枠を超えて連携し、学生の活動をサポートする。このうちSDGs推進センターでは、教育、地域デザイン、ビジネスの3つを重点分野に定めており、象徴的な取り組みを展開することで、全学のSDGsをリードしている。その教育領域に関する代表的な取り組みの一つが、ゲームを活用したSDGs 教育の普及・促進だ。
「小中高校の多くの子ども達にSDGsへの正しい理解を深めてもらう目的で、最初に開発したのが『THE SDGs アクションカードゲーム X(クロス)』です。経営学の視点から、どうすればイノベーティブなアイデアが生み出されSDGsの課題が解決されるのかという考え方を学習するためのゲームです。英語版とスペイン語版もあり、現在67カ国8万5000人以上が体験しています」
その後もESD(持続可能な開発のための教育)を目的としたゲーム開発を幅広く展開し、現在はタカラトミー等74組織と共同開発した「Beyond SDGs人生ゲーム」を全国の小中高校へ無料配布し、これらの教材を活用した授業法のトレーニング等の取り組みを進めている。
また、ビジネス領域においては、率先してSDGs推進に取り組んでいる企業と連携し、各種製品開発を行っている。その一つがANA初のスタートアップavatarin社との連携による、アバターを活用した自動車リサイクル工場の見学システムの開発だ。この仕組みを利用して、途上国にも自動車リサイクル技術を普及させていきたいというのが将来的な目標だという。
地域デザインの領域においては、石川県白山市の山間部における地域活性化活動が代表例。その取り組みは重層的で、全学部の共通科目である『プロジェクトデザイン』の一環として、学生が現地に入って調査・研究に取り組むほか、前出のカードゲームを開発した学生が立ち上げたベンチャーのメンバーが現地の空き家に住んで活動を展開。高齢の住民との対話を重ねながら、SDGs推進センターとも連携し、地域の魅力や課題に関する学びの機会の創出、地元企業の協働、観光の推進等多岐にわたる「白山市SDGs 未来都市計画アクションプラン」を実践している。
分野横断的な教育の土壌がSDGs教育にフィット
金沢工業大学がSDGs推進に舵を切ったのは2016年。国連がSDGsをスタートさせたこの年に着任した平本教授の提言を学長が受け入れるかたちで、提言から2週間後には全学的なSDGs 推進が始まった。このようなスピーディーな展開を可能にした要因はどこにあるのだろうか。「本学は教育重視、社会実装の2つを柱としてきた大学です。教育重視なので、もともと学生の教育のためには何が必要かという観点からカリキュラムや授業を考える土壌があり、教員同士も学部学科を横断して協力する体制がありました。本学は、就任1年目は全学部の全教員が全学共通科目の『プロジェクトデザイン』のみを担当します。1年目の教員は大部屋で一緒に過ごし、交流も活発。そんな本学独自のシステムも大きく影響していると思います」
社会実装に関しては、教室内での学びにとどまらず、地域や企業と連携して、実際に社会課題を解決するための教育を実践。前出の「プロジェクトデザイン」は、全学部の学生が4年間にわたって取り組む科目で、学生のアイデアが地域に取り入れられ、課題解決に繋がった例も多いという。
SDGs推進センターは前出のような象徴的な事業の推進に取り組むほか、学内外で分野を超えた連携を図るために横串を通すハブとしての機能を果たしている。学生・教員・地域・企業の間で分野横断・セクター横断の対話・連携をサポートすることで、全学のSDGs推進を支えている。
このようなSDGs推進の取り組みは、学生の教育面での効果も大きいと平本教授は話す。
「実際に、SDGs活動を通して学びの重要性を理解した学生は、実社会に活かすという観点から、学部学科での専門的な学びに取り組むモチベーションを高めていきます」
このように全学的なSDGs推進は教育面においても大きな成果をもたらしているという。
(文/伊藤 敬太郎)