第一次提言の狙い~内閣官房 教育未来創造会議担当室 髙見英樹企画官に聞く~

内閣官房の教育未来創造会議が2022年6月に公表した第一次提言が大学経営に与えたインパクトは大きかった。現在、その内容に即した様々な政策が進んでいる。改めて、提言の位置づけや内容について、髙見企画官にインタビューした。


教育未来創造会議担当室 髙見英樹企画官


―教育未来創造会議はどのような位置づけの会議なのでしょうか。

 教育未来創造会議は、日本の未来を担う人材を育成するために、高等教育をはじめとする教育のあり方や、教育と社会との接続の多様化・柔軟化を進める方策を議論する場として2021年12月に立ち上げられました。「高等教育をはじめとする教育のあり方」「教育と社会との接続の多様化・柔軟化」と明記されているのがポイントで、これまでは教育と社会の接続に問題があったところをシームレスにしなければ、日本の国力は復活しないというのが問題意識の起点です。

 そのうえで、社会で必要な能力は高等教育だけで培われるわけではありません。初等中等教育段階から、高等教育を経て、社会に出た後も学び続けるスタンス醸成も大事です。そのため、初等教育段階から社会人教育まで議論のスコープを広く捉えながら議論を進めています。大学はどう変わる必要があるのか、社会は変わった教育で育った人材をどう受け入れるのか。それを、国を挙げて横断的に議論する場とも言えます。

 政府の会議としては、安倍・菅内閣時代には教育再生実行会議がありました。それとの違いは、目的と委員の構成です。当時は内閣総理大臣、官房長官、文部科学大臣、有識者という組み合わせでしたが、教育未来創造会議では経済産業大臣、厚生労働大臣なども招集されています。社会との接点を考えれば、労働行政や企業・産業との関係等もスコープに含まれるわけで、これからの日本社会を支える人材をどう育てるのかを、教育に限らず省庁横断的に広く議論し、その方向性や具体的方策を示していくことがこの会議の目的になります。なお、CSTIはイノベーション・科学技術の観点でSociety 5.0実現を先導する役割を担っていますが、本会議は「教育を通じて新しい未来をどのように創造するのか」という視点で議論が行われています。

 提言資料では多くのデータが出てきます。あらゆる観点から現状を分析し、これからの日本社会をどう作るのか、政府をはじめ、それぞれの機関がなすべきことをファクトベースでフラットに議論しています。

 なお、第一次提言当時の有識者15名のうち8名が女性、年齢層も30~60代と幅広く、ダイバーシティを意識した構成です。現在も同13名中7名、年齢層は20~60代とさらに広がっています。このあたりからも、多様な方々によって多角的な視点から議論がなされていることが分かると思います。

―第一次提言の軸となるコンセプトは何でしょうか。

 前提として、在りたい社会像として描くのは「ウェルビーイングの実現」です。即ち、多様な個々の幸せとともに、社会全体の豊かさがあるという考え方です。経済的な成長のみならず、精神的な豊かさや健康も含めた豊かな社会を目指したいという考え方です。こうした社会を目指すために必要な方策として、「総合知」というアプローチも強調されています。

 日本は少子化がより一層進むなか、成長分野の人材不足、理工系志向の低さが国際的に見ても際立っています。単に、理系を学べば成長分野で活躍できるという話ではなく、理系分野の知見を持つ人々の視点や思考が、今後の社会のあらゆる分野において必須になっていくと考えています。また事実を客観的に捉えて自ら課題を設定し、その解決を通して社会に対して価値をどう創出するのか、という観点も必要です。人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積と、自然科学の「知」の融合により、文理の壁を越えて協働し、あらゆる分野の知見を総合的に活用しながら社会に貢献していくという考え方が重要です。日本では高校段階で文理選択をすると、それ以降お互いの道が交わることはほとんどない。しかし、日本の目指すべき社会像において、早期からの文理分断を正さなければ、社会の発展が見込めない。そこは各高校や大学の努力だけでなく国として今後向き合っていくべき課題です。

―社会側の課題は何なのでしょうか。

 まずは人材不足です。これからの成長産業を担う人材不足、既存の産業でもデジタル化に対応したパラダイムシフトが起こっており、それに対応した人材は必須です。企業側が求める人材要件も変わってきています。

 次に、リカレントやリスキリングといった学び直しです。また、社会で働いている人材についても、社会の変化に応じて学び続けていかなければ、すぐに立ち行かなくなります。学び続けアップデートしていかないとより良い社会作りには貢献できない。企業成長やウェルビーイングにつながるように個々の学びが大事であり、その素地を備えた人材をしっかり高等教育で育成してほしい。また、学び直しする人材をどう評価できるか、企業側の体質や視点のチューニングが必要です。処遇等も含めた評価をして、学び直しの事実が社会で評価されて還元されるようなサイクルを構築していく必要があります。

―提言以降、大学の基幹教員制度創設、東京23区の定員抑制への例外措置、成長分野を牽引する高度専門人材育成への支援3002憶円予算等、大学関連のアジェンダが大きく進んでいるように感じます。大学はどのように受け止めたら良いでしょうか。

 提言のアジェンダは大きく3つあり(図1)、このうち第一に「未来を支える人材を育む大学等の機能強化」が掲げられていますが、これは多様かつ柔軟な教育と社会との接続の実現という冒頭の視点に照らし、大学等が今のままでは立ち行かないという考えの下から、成長分野への大学等の再編促進に関し、初期投資や開設年度からの継続的な運営支援とともに、規制緩和を通じて、各大学の自助努力的な改革を促進することとされています。

 先日の第5回会議で、第一次提言工程表の主な進捗状況が確認されました(図2)。特に大学経営に係るアジェンダも着実に進んでいます。第一次提言の付属資料では、我が国や国際社会が現在どのような状況にあり、今後、どのように変化していくのかなど様々なデータが示されています。大学経営者の方々には、このような資料も活用頂きながら、これからの社会を担う若者の育成機関として、今後の人材育成や大学教育がどうあるべきかを再確認して頂きたいと考えています。今回の提言は大学だけはなく、初等中等教育機関や地方公共団体、企業も含め、社会全体が変わらなければならないというメッセージが示されていますが、大学がその中で担う役割は極めて大きいことは言うまでもありません。


図1 第一次提言のアジェンダ
図1 第一次提言のアジェンダ


図2 「大学等の機能強化」アジェンダの主な進捗状況(2023年3月17日)
図2 「大学等の機能強化」アジェンダの主な進捗状況(2023年3月17日)


―大学のアジェンダのうち、特に成長分野の人材育成について、そもそも教員等のリソース不足で取り組みづらいという大学が多いように思います。

 より横断的に人材を確保できるように、大学設置審査でも実務家教員の定義を明確化するとともに、基幹教員制度の創設により、民間企業からの実務家教員の登用促進や、複数大学でのクロスアポイントメントなども進めやすい仕組みとなります。

 大学等の改革を促進するために、ボトルネックを解消する措置は講じられていくので、こうした仕組みをどう使ってどのような人材を育てていくのか、議論を深めて頂きたいと考えます。国としてデジタル・グリーン等の成長分野を牽引する高度専門人材の育成に向けて新たな基金の創設をはじめとした環境整備は行われていきますが、最終的にどう動くかは個々の大学に委ねられており、あくまで「意欲ある大学の主体性を生かした取り組みを進める」ことが大前提。大学の自主性の下、各大学の改革の文脈のなかで取り入れて頂きたいと考えています。

―第一次提言には、高等教育段階で身につけるべき知識・能力についても言及されています。

 未来の日本を担う人材に必要な知識・能力として、高等教育には「リテラシー(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、語学力・コミュニケーション能力等)、論理的思考力、規範的判断力、課題発見・解決能力、未来社会を構想・設計する力、高度専門職に必要な知識・能力を培うことが示されています。いずれも未来を担う若者にとって基盤となる力であり、その修得は文理横断的になされていくことが必要です。

―人生かけて学び続ける必要がある社会において、高等教育以外では何をなすべきなのでしょうか。

 初等中等教育で育むべきスキル・リテラシーについては、提言22~24Pに記載があります。ここでは、生涯にわたって学び続け、課題発見・解決を他者と協働しながら行っていくための基礎となる力、様々な体験活動において理数的な興味関心を持って取り組む力を、初等中等教育段階で身につけることの必要性や、多様な子どもの「個別最適な学び」「協働的な学び」を一体的に行うことで、「そろえる教育」から「伸ばす教育」へと転換していく必要性が示されています。キーワードは課題発見力、協働力です。課題解決力だけでは、与えられた課題への取り組みとして受け身になります。そうではなくて、「自ら」課題を見出し、多様な他者と協働しながら、その解決方策を設計し、取り組んでいくことが求められます。

 社会がデジタル化したときに、課題を見つけて解決の手立てを多様な人々と協働しながら講じていく発想力や設計力がこれからの必須スキルといえます。その時に必要なデジタル人材とは、理系バリバリの専門家だけではなく、コーディネーターとして技術と課題をつなぐ存在も重要。様々な立場でデジタル化にアプローチできることが大切で、各大学においてはそれのどこを担うのかを軸にした教育方針を打ち出して頂きたいです。

―デジタル人材育成という観点において、こうした初等教育から社会変化という連続性をどう担保していくのでしょうか。

 提言で書かれた内容を具体的に推進していくために、134もの項目にわたる工程表を公表しています。これを省庁横断的にしっかりマネジメントしていくことが第一です。134項目それぞれについて、短期~長期スパンで、何を誰がどうやるのかを決め、関係省庁と協力して推進しています。それぞれの施策は担当省庁が実行していきますが、全体のフォローアップはとても重要と考えています。

 工程表は教育未来創造会議担当室が作成しました。担当室は関係省庁の出向者で構成されており、各省庁と密に連携しながら取りまとめて行っています。まさに、分野横断的に協働的に価値を創出する次世代型のプロジェクトと言えるかもしれません。国の予算審議や骨太の方針等の政策動向の動きと連動して施策の着実な実行に努めていきたいと考えています。



(取材・文/カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓)