学ぶと働くをつなぐ[41]全員発揮型リーダーシップ教育で育む 「未来への実践力」/甲南女子大学


画像 甲南女子大学キャンパス



甲南女子大学 学長 秋元氏


生き抜く力を持つ自律した女性を育成する

 甲南女子大学は「生き抜く力を持つ自律した女性を育成する大学」を人材育成目標として掲げる。「『自分で立つ』と書く自立ではなく、『自らを律する』と書く自律。そのことに私自身はこだわりを持っています」と秋元典子学長は語る。

 この目標に向けた全学ディプロマポリシーが「未来への実践力」。「少し抽象度が高い言葉ですが、言い換えると、自律的に判断し、責任ある発言と行動をする力のことです。『知る』『他者との関係を築く』『考える』という3つの力に分解することもできます」(秋元学長)。「未来への実践力」を実質化する具体的な施策の大きな柱は、「女性教育」「リーダーシップ教育」の2つだ。

 「女性教育」では、全教員が担当科目のうち1コマ以上を、意識的に「女性」の視点を取り入れた内容とし、シラバスにもそれを明示する。この全学的な取組には、「女性として、一人の人間として、激しく変動する社会の中でしっかりと生き抜いてもらいたい、という強い願い」があると秋元学長は言う。「女性は、生物学的な特徴によって心身の状況がライフステージごとに変化しがちですし、意思決定をしなければいけない場面が男性よりも多くあると考えております」(秋元学長)。

1人が引っ張る形ではない「全員発揮型リーダーシップ」

 もう1つの柱である「リーダーシップ教育」は、キャリアと学びとをどう結び付けるかという発想のもと、2017 年度に全国の女子大で初めて正課に取り入れた。

 リーダーシップという言葉は「1人誰かが引っ張っていく」イメージが強いが、甲南女子大学では「リーダーシップは誰にでも備わっている」という前提に立つ。その「全員発揮型リーダーシップ」をキャリアセンター長の森本真理教授(国際学部)は、こんな例で説明する。「いま私がこの話をしているのを、とても真剣に聞いてくださっているのを見ると、すごく安心して話せる。これは聞き手が『リーダーシップを発揮している』ということになります」。学生たちは、たとえファシリテーションが苦手でも、会議の時間を計ったり、メモを取ったりするのが得意なら、それが自分のリーダーシップだと学ぶ。「チームの目標の達成のために、それぞれの良さや強みを活かし、他のメンバーに与える良い影響力」が、「全員発揮型リーダーシップ」の定義なのだ。

3段階積み上げ型のリーダーシップ・プログラム

 現在のプログラムは「基礎」「応用」「発展」3段階の積み上げ式となっている。「基礎」のSTEP1は主に1年生が、グループワーク中心の授業で自己のリーダーシップを開発する。STEP2「応用」は、STEP1を履修した学生が学習アシスタントとして授業を運営し、他者のリーダーシップ開発を支援する。

 「共学の大学では、グループワークを仕切るのがつい男性になるとか、役割がジェンダーで決まってしまうこともあると聞きます。女子大だからこそ、性別の役割から解放されて個人として役割を担い、自分自身を見つめ直す、いい場ができています」(森本キャリアセンター長)。一方で、女子大学のクローズドな場だけでは不十分との考えから、正課外のSTEP3「発展」では、他大学と合同の短期集中講座「リーダーシップ・キャラバン」への参加など、主に学外で、自己と他者のリーダーシップ開発を行っている。

 履修人数は、STEP1が3学部(文学部、国際学部、人間科学部)の2割強にあたる約130人、STEP2とSTEP3は20人前後だ。ワンキャンパスのメリットを生かして3学部8学科横断で学ぶ一方、実習科目の負担が大きい看護リハビリテーション学部と医療栄養学部で実施できていないなどの課題もあり、拡充、さらには全学導入の構想があるという。


“3 段階積み上げ型”認定プログラム


実就職率をKPIとして徹底したキャリア支援

 甲南女子大学が「就職に強い大学」との評価を高めだしたのは、看護リハビリテーション学部を開設した2007年頃。以来、キャリア志向をも明確に打ち出し、実就職率をKPIとして、教学とキャリア支援とを両輪としている。

 深澤貞信キャリアセンター副部長は、実就職率ランキング上位への定着は、「1学年約1100人という小規模ならではの個別サポートを継続してきた成果でもある」と言う。「23年卒の学生では、600人程度が1回以上キャリアセンターの個人面談を受け、延べ人数では年間4000人ほどになりました」。

 リーダーシップ教育の成果は、就職実績などの明確にはには表れていないものの、学生が採用面接で「あなたがいるグループは、何だか楽しそうになるね」と高評価を得たなどの事例は出ているという。就活シーンで問われる「自己肯定感」の観点からも、リーダーシップ教育には期待がある。「自己肯定感がある学生は、就活で何度落とされても、自分なりにフィードバックして何かしら自分の糧にし、次に挑んでいくことができる」(深澤副部長)。このような力が入社後の活躍にもつながることは、想像に難くない。

性別を意識することなく、自分の特性や生き方を見つめる女子大学に

 秋元学長は、卒業生に「生き抜いてほしい」と強く願う一方で、大学自体についても「女子大学の生き残りが、大変厳しいことは承知しております」と言う。しかし女子大学には、今でも存在意義があるとも考えている。

 「性別を意識することなく自分の特性を見つめ、一人の人間としてどういうふうに生きていくのかをひたすら考え、その根幹となる力を養うことができる大学ということです。本学はワンキャンパスという規模ではありますが、きらりと光るものを持った女子大学として、生き抜いていきたいと考えております」(秋元学長)。



(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)


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