入試は社会へのメッセージ[8]「一般選抜未来構想方式」のその後/産業能率大学


入試企画部長 林氏


 産業能率大学(以下、産能大)では、2021年度入試で一般選抜未来構想方式を導入した。その導入後の状況と成果検証について、入試企画部長の林 巧樹氏にお話を伺った。

探究活動の成果を評価するための一般選抜方式

 「未来構想方式」は一般選抜で課題発見・解決力を評価する目的で導入された。探究を進める高校からの要望もあり、探究学習支援を中核とする高大接続に注力してきた経緯から、探究で培った資質・能力の正しい評価を入試(特に一般選抜)で設計することには大義と必然性があった。そのため、探究同様に「答えが必ずしも1つではない問い」への対峙力を問う設計とし、未来構想レポートをその軸とした。詳細については紙幅の関係上、図1及び小誌ウェブサイトを参照されたい(※)。


図1 未来構想方式の概要


探究に熱中した国公立志望層がメインターゲット

 入試のターゲットは、「国立大学進学希望者が多い高校の在籍者で、探究活動にのめりこんだ結果受験学力が国公立水準に達しなかった生徒」を想定していたが、その現状は「ヒット率は高いが、母数を増やすのが課題」と林氏は述べる。図2は入試結果の3年間の推移だ。初年度から2年目にかけては大きく志願者を伸ばしたものの、3年目には落ち込みを見せた。まだ認知・志願動向が平準化しておらず、ブレが大きい様子である。

 こうした状況について、林氏は「入学者は、山形県、石川県、大分県等地方進学校が多く、これまでとは異なる高校から来ています。これは首都圏よりもリアリティ高い社会課題に接する機会が多いことと無縁ではないように感じます。また、従来の偏差値ランクではなく、成長可能性や学びの楽しさという新たな選択軸で本学を選んだ層が獲得できていると受け止めています。ただ、まだまだ道半ばです」と述べる。


図2 未来構想方式入試結果(2021~2023年度)


入試は大学教育の第一歩

 産能大では2007年から実施している「総合型選抜キャリア教育接続方式」が文部科学省「令和4年度大学入学選抜における好事例集」に選ばれた。高校のキャリア教育を頑張った生徒を評価する方式として設計されたもので、今やこの方式の入学生がゼミやPBLで高い成果を上げていることは学内で周知の事実だが、志願者が恒常的に集まるようになるには10年かかったという。「教科科目の変更レベルであれば短期的な検証もしやすいですが、入試方式の新設、特にコンピテンシーをも測ろうとする選抜は、これまでの入試と大きく思想が違ううえ、どの大学でもやっているものではないため、認知にまず時間がかかります。最低でも導入してから初年度生が卒業するまでの4年は我慢の時期。卒業後のエビデンスと含めて検証し、その結果が募集広報に循環できるようになるには10年程度は必要です」と林氏は説明する。

 現在は、入学生が学年を上がっていく中での成長感を追うことに注力している。林氏によると、未来構想方式の入学生は総じてGPAが高く、またPROGのリテラシー・コンピテンシースコアも共に高い。「初年次ゼミの段階から、自分の探究経験を大学教育でどう価値として発揮するかを教員が丁寧に見ています。スタートダッシュが速く、協働や議論をまとめるのが上手な学生が多い印象です」。そもそも共通テストをハードルとして課している以上、高学力層であると想定されるが、林氏は「学力よりも、投げ出さずに何かをやりきった経験があることに注目しています。そういう学生が本学の教育によりフィットするだろうという狙いからです」と述べる。

 また、林氏は「本来は志願倍率1.0を目指したい」と言う。「正解のない問いとの対峙というハードルの高いことを課すので、それを超えてきた人なら誰でも合格させたいというのが本音です。志願倍率よりも、大学教育のレディネスとの整合性を丁寧に見ることが本質ではないでしょうか。特に18歳人口減少期にあって、数を集めるよりも大学教育につながる質をどう見極めるのかは大事な観点です」。高校までの探究学習を正当に評価し、入学後の大学教育と有機的につなげるために、入試を大学教育の第一歩としてどう機能させるか。それが設計の肝である。

初年次ゼミのクラスに戦略的に配置する目標

 現在の目標としては、初年次ゼミのクラス数分、35名程度の入学者確保を見据える。「従来、一般選抜と総合型選抜の学生は強みが真逆だったのですが、未来構想方式の学生は、一般選抜の学習も総合型選抜の探究もやってきているため、ハブになって全体を調和させ、共創のドライバーになってくれる。結果、全体の教育成果が上がる傾向にあります。そうした役割の担い手として戦略的に1クラスに1人配置できると、本学の教育価値がさらに高まるのではと期待しています」と林氏はその意図を説明する。教育起点の目標設定がいかにも産能大らしい。

 また、こうした「探究経験者」が相対的に増えることを受け、大学教育のチューニングも同時並行で行っている。「より歯ごたえのあるカリキュラムにするべく、新たな科目設置のほか、既存スキームについても企業連携の強化、学ぶ内容の高度化といった検討を随時進めています」。今後は探究が高校でどう根づくかに応じて大学教育が担う内容やレベルも変わってくることが予想される。「高校側の進捗に合わせて、大学としての提供価値の変化にも積極的に取り組みたい」。林氏の言葉は意欲的である。

(※)https://souken.shingakunet.com/higher/2021/05/post-eee9.html



(文/鹿島 梓)


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