協働・共創を軸に 新たな地域創りを志向する人材育成/龍谷大学
龍谷大学(以下、龍大)は2022年1月に「龍谷大学カーボンニュートラル宣言」を発出し、国が目標とする2050年に先駆け、創立400周年を迎える2039年までにカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げた。そのほか、図に示すようなカーボンニュートラルの動きを積極的に進めている。こうした動きを進める背景について、深尾昌峰副学長に伺った。
どういう社会でどのように生きていくのかを再考する
深尾氏はまず、これまでの延長線上にない社会を冷静に見つめる必要性に言及する。「人類は産業革命で蒸気機関を発明して以降、技術によって豊かな生活を獲得してきました。しかし、現代の地球環境問題に照らして、従来のあり方を今後も続けることは人類の危機につながります。脱炭素は国際合意のもと政府主導で考えることというより、どういう社会を作ってどう生きていくのかという人の根本が問い直されていることでもあるのです」。必要なのは、今までの価値観や世界観を理解したうえでそれを疑い、新たな社会を構想し実現できる人材だ。「大学の知の還元、ではなく、地域社会の一員として、社会構造がこれだけ変わるなか、具体的な貢献をできるかどうかが問われれている」と深尾氏は強調する。
また、龍大は浄土真宗の教えを建学の精神にする大学である。仏教は、「全ての物事は因果関係により成り立つので、無関係に独立して存在するものはない」という真理を示す。そのため、こうした現状についても「社会や世界は本来自然との関係性も含めて描かないといけない、人間が自然との関係性を無視して進めてきた結果が現在である」と捉える。どのような社会を目指し、どうすれば関係性を含めたリデザインができるか。2039年の400周年に向けた「龍谷大学基本構想400」において、その使命を図表2の通り定め、育成・輩出する学生が「社会変革の中核的担い手となる」ことを見据える。龍大にとって「大学として脱炭素を進める地域の拠点となること」「グリーン人材を育成すること」は特段振りかぶらなくても自然に為すべき使命であるのだ。
グリーン人材とは、自然科学の専門知識を持って多様な主体と協働・共創できる人材
「400周年に向けて大学の基本構想を策定するなかで、教育・研究・社会貢献という従来の役割に捕らわれず、社会変革に対して役割を担う大学でありたい、社会をより良くするハブになりたいと定めました」と深尾氏は話す。そのために重要となるのが、「社会の様々な主体と協働して目的に即した価値創出していくプロセスをいかに重ねられるか」である。また、2022年より龍大は、3キャンパスそれぞれの特性と立地を活かした個性化を追究する「キャンパスブランド構想」を打ち出している。瀬田は自然科学を中心に価値創造や社会変革を牽引するキャンパスと定められており、その瀬田において前述した大学のスタンスを実現する方策として、グリーンという分野が選ばれたということなのである。
こうした経緯を踏まえると、龍大で育成するグリーン人材とは、「自然科学の専門知識を持って、地域の多様な主体を巻き込んで協働・共創し、地域循環共生圏※を実現できる人材」と定義できる。深尾氏は、「脱炭素はテクノロジーなしで解決はできません。単なる資源の奪い合いになればそれは戦争です。我々は資源をテクノロジーにより最適化し、課題解決したい。幸い、瀬田には食を軸にデザインされた農学部があります。持続可能な社会を作るうえで、食とテクノロジーを扱うことができるのは大きいのです」とその意義を説明する。グリーン、デジタルの活性化を手掛け、価値創出をする拠点としての瀬田キャンパスなのである。
なお、この文脈にある一つとして、低酸素社会を実現するデジタルマインド・スキルを持った「アグリDX人材育成」を行い、文部科学省の大学改革推進等補助金(デジタル活用高度専門人材育成事業)「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する 高度専門人材育成事業」にも採択されている。グリーン分野である「食と農」における実践的な産業DX人材の育成だ。2学部で協働して実施・申請・採択に至っていることが、グリーン人材の議論にかなり勢いをつけたという。
価値創造の担い手は大学の全構成員
龍大の改革は最初から整った絵があったわけではないという。「同時並行的に起こっている様々なチャレンジを同じ文脈上に重ねることで、腹落ち感が醸成され、議論が盛り上がっていった」と深尾氏は振り返る。アジャイル型の改革推進と言えそうだが、「社会や時代は変化することを前提に組み立てているだけ」と深尾氏は補足する。「本学が目指すビジョンに即して改革を位置づけること、多様な活動を包含できるコンセプトを上位概念に置くことが大事と心得ています。大きな構想400を考えるなかで、小さな動きをその流れに沿わせていくのです」と深尾氏はその真髄を説明する。
ビジョンがあり計画がありアクションプランがある、といった硬直的な思考ではなく、実現したい社会像と、大学としての方向性のクロスするポイントを時代に即して探すことで、多様な活動を一つの目的に集約し、さらなる発展に結び付けているのだ。
もう一つ大事なのは、「価値創造の担い手は全構成員」という意識が徹底していることである。「例えば、ソーラーパークの所管は財務部で、財務運用を持続可能に位置づけていく動きです。価値創造というと教育・研究サイドでやることであり、業務組織はそれを支援するものと思いがちですが、本学はそうではないのです」。グリーンへの注力は環境配慮だけではなく、教職協働における大学としての価値創造の方策の一つであるのだ。日常の大学業務のなかでいかに価値創造を意識した動きができるか。「大学の営みとして、部署を超えた教職協働を実現することが大事」と深尾氏は述べる。そうした動きが大学への帰属意識を高めることにもつながり、より強い大学組織につながっていく。龍大の迅速な改革は、そうした日常と目的の往還がキーでありそうだ。
今後は、「世界平和のプラットフォームになる」という抽象度の高いビジョンのもと、具体的な社会実装のチャレンジが誘発される組織をどう作っていくのか、その実質化が課題であるという。また、他キャンパスにおいてもそれぞれの強みを活かしたグリーン人材育成や教学連携、共通教養教育でも検討を始めている。深尾氏は「グリーン人材育成を本学の核である宗教教育としての仏教の文脈で捉えなおすことで、別の視点が生まれるはず。各自が自分のフィールドにおいてグリーンを捉え直し、社会への価値創出へとつなげていく動きを多くつくりたい」と次を見据えている。
(文/鹿島 梓)
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