独自の研究力を背景に企業・地域との連携を幅広く展開/近畿大学


近畿大学 学長 細井氏、リエゾンセンター長 竹原氏


 日本の国際的な競争力の底上げに作用するものの一つが、個々の大学が企業や地域と連携して研究成果を社会に還元し、産業の創出・振興に寄与していくことである。この点で、近畿大学(以下、近大)は、2021年には338件の民間企業からの受託研究を実施し、全国の大学の中で6年連続1位となる等、研究力を基にその成果の社会への還元を積極的に行っている大学と言えるだろう(2022年度科学研究費助成事業採択数は582件:図)。積極的に産学官連携を進める背景や今後の方針について、細井美彦学長と竹原幸生リエゾンセンター長に伺った。


科学研究費助成事業採択状況


大学が自ら社会に出て進める共同研究と実学教育

 近大が産学官連携を積極的に進める背景には、建学の精神である「実学教育」と「人格の陶冶」があると細井学長は話す。「創設者である世耕弘一が、戦後の食糧難の時代に地上の食料の増産だけを考えるのではなく、『海を耕せ』と海水魚の養殖研究に乗り出したことを端緒に、研究を社会の技術として伸ばし、そこで生み出された資金をもう一度研究に投資し、実学教育として育てていった。この精神を現代社会に合う形で展開していく方法が、研究成果や技術を持って大学の外に飛び出していくことでした」と細井学長。「企業との共同研究や公的機関との連携、様々な社会組織の共同運営といった形で、学生や教員が大学の外に活動を求めて出て行き、そこでの学びを学内に持ち帰ることで、これまで以上に実学にフィットした学生を育て、社会での活躍を期待したい」と続ける。

 この実学教育の実現と産学官連携において大きな役割を担っているのが、近畿大学リエゾンセンター(KLC)である。共同研究や技術相談等、産業界から近大へ、また、近大から産業界へアクセスする際の「全学の窓口としてワンストップソリューションを実現する組織」であると竹原リエゾンセンター長は説明する。大きな特徴は「企業の課題を自ら探しに行くところ」(細井学長)で、年2回、大阪と東京で「近畿大学研究シーズ発表会」を開催して代表的な研究成果を発表するとともに、多様な課題に対する解決の種を持っていることをアピール。ほかにも、様々な展示会に参加して研究成果の発表を行っているという。「企業が大学に来るのを待つのではなく、『どうぞ我々の研究成果を使ってください』という姿勢で出ていく。こうした活動によって、お互いの問題解決の成果を次の一歩に活かすことができている」と細井学長は話す。企業からの問い合わせは年間300件を超え、コーディネーターを務める6名(うち1名は弁理士)がまずは対応する。知財の相談に関しては別途1名の知財コーディネーターが専門で対応する。コーディネーターとセンター長は週1回のミーティング等で課題を共有して、各学部の教員数名ずつからなるKLC所員と連携を取りながら、各企業の問い合わせや要望に適した研究室・教員を探し、つないでいく。こうした取り組みの成果として、冒頭に挙げた受託研究実績があるのである。

組織の多様性が、イノベーションの源泉に

 さらに、近大の産学官連携のもう一つの特徴として竹原センター長が挙げるのが、「理系だけでなく、文系のゼミ・研究室との共同研究が多いこと」だ。株式会社近鉄百貨店、株式会社新魚栄(共に大阪府大阪市)との産学連携により、農学部の学生が農産物の生産や商品名の提案を、文芸学部の学生がお重を包む風呂敷などのデザインを行った近鉄百貨店オリジナルおせち「近大味めぐりおせち」などが一例で(写真)、「擬似体験ではありますが、まさしく学生が現場に出ていく経験をすることができ、実学教育の一端を担っています」と竹原センター長は話す。

 そして、多様な共同研究が実現する土壌には、学生や教員の多様性がある。「在学生は3万4000人を超え、スポーツに力を入れている、デザイナーとしてバリバリ活動している、情報技術に長けている等、多様な学生がいて、目指す職業も研究者、公務員、会社員、教員、起業家と多岐にわたります。大学からは、『自分の好きなところにとんがればいい』と伝えており、授業だけでなく、学生達の能力を引き出す様々なイベントやビジコン、プログラムも行っています」と細井学長。「その中で、『やりたい』という積極的な学生をまずは周りの教員がうまく支えて、その学生を『まねしたい』『追いつきたい』という学生が出てくるような大学になっていければ」と続ける。


画像 おせち


起業教育を実学教育の次の柱の一つに

 そして、今後実学教育に加えていくファクターとして近大が注目しているのが、アントレプレナーシップ教育だ。2023年4月に実学社会起業イノベーション学位プログラム(修士課程)を開設。また、2025年までに100社の大学発ベンチャー企業創出をミッションとし、学生と教員の起業マインドの醸成から法人設立・事業展開まで一貫して支援するベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」を2022年から実施している。「全員に起業を求めているわけではなく、起業するロジックにある実学として使える要素を学んでほしい。技術やその運用の仕方を知っているだけでなく、その技術が経済的・社会的に有効なものか、また、そもそもその産業に必要なものなのかというところまで起業の過程で考えること自体が、今後、新しい技術やアイデアに出会った際に『分からない、理解できない』と思うのではなく『分からないけれど、可能性は理解できる』と受け止められることにつながる。そんな学生を育てていきたい」と細井学長は力を込める。

 「2040年には大学が存在するのかという議論もある中、大学はいかにして大学らしさを持ち続けるのか、大学の役割や本学の独自性とは何かといった点において今後も我々は価値をつけていかなければならない。それを可能にするのが、社会との共同事業をはじめ、大学が外に出ていくことを進めていくことだと思います」と細井学長。近大の産学官連携や起業の取り組みのさらなる飛躍が期待される。



(文/浅田夕香)


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