学ぶと働くをつなぐ[42]世界で生き抜く力を育む「ゼミの武蔵」/武蔵大学


画像 武蔵大学キャンパス


武蔵大学 学長 高橋徳行氏

ゼミ教育を通じて、多様性を受け入れるマインドを育成

 武蔵大学の教育上の特徴は、1年生から4年間、全学生がゼミ(ゼミナール)必修ということだ。1つのゼミが平均13人という少人数制。1950年代から続くこの教育法について、高橋徳行学長は「本学の建学の精神の1つである『自ら調べ自ら考える力ある人物』の養成に適したものとして、ゼミ教育に重点を置いたと思います」と言い、そこに加わる現代的意義についてこう語る。「大学のカリキュラムは、4年間は科目を変えられません。一方ゼミは、先生方の専門分野が固定でもその中での自由度が高く、時代の変化を捉えた内容で密な少人数教育を展開できるのが強みです」。

 また高橋学長は、ゼミ教育、少人数教育を通じて育みたいのは「世界を生き抜く力」だという。その実体は「多様な考え方を受け入れるマインド」だ。「大学にはさまざまな専門分野を学んだ学生がいますから、他の専門の人と話すときに、心をオープンにして耳を傾けることが必要だと思います」。

専門の横串を通す「学部横断型ゼミナール・プロジェクト」

 必修ゼミの内容や教授法は様々だが、共通するのは、「学びの継続性の担保」だ。担当教員の指導のもと、卒業論文・卒業制作などの最終成果物に向けて学びを積み上げていく。「何か1つ、大学で何を勉強したのかが残る、ゼミならではの体系になっています」。

 ゼミ教育は、継続的に専門を学んで、その専門の中で意見を交わすなかでさらに専門性を深めていける良さがある。しかし高橋学長は、深さだけでなく幅広さも必要だという。

 「社会に出たときには、1つのプロジェクトにいろいろな分野の専門家が集まる。違う専門を学んできた人たちと会話して課題解決を目指す、幅広い能力が絶対に必要になります」。

 そこで、「学部横断型ゼミナール・プロジェクト」(横断ゼミ)が、2007年度経済産業省の「産学連携による社会人基礎力の育成・評価事業」採択を受けて本格的に始まった。産学連携のもと企業から課題をもらい、経済、社会、人文、国際教養の4学部混成のチームで解決策を提示するPBL型の授業だ。選択科目で、履修者数は20人前後という。

 例えば、企業分析の課題に対して、経済系※1の学生は、いわゆる経営分析を行う。そこに社会学部の学生が企業と社会との関係という視点を加え、人文・国際系※2の学生が企業の持つ文化や歴史の重要性を指摘する。1つの学部で分析するより、広く深い成果が得られるという。

 「学部の専門性によって物事へのアプローチが違うので、最初はぶつかり合う。それを乗り越えて、1つのゴールに向かって協働作業をするのが、このゼミです。そういう経験を、学生時代に1回はしておく必要があると思います」。

幅広い力を育むリベラルアーツ&サイエンス教育センター

 高橋学長は、必修ゼミや横断ゼミで身につくものを「深く考え、しつこく考え、コミュニケーションをとりながら考える能力」と表現する。また「少人数のゼミでは、自分の意見を話す・人の意見を聞くということができないと、そこに存在していられない」と言い、とりわけコミュニケーション力が培われることに自信を見せる。

 成果が顕著な一方で、ゼミ教育の課題は「どのゼミであろうと、武蔵大学の卒業生はこれをきちんと学んでいる」という大学のメッセージを出しにくい点だと高橋学長はいう。「『ゼミの武蔵』の強さと裏・表みたいなもの」というこの課題の解決に向けて、2022年4月に「リベラルアーツ&サイエンス教育センター」を開設した。

 例えば人文学部の学生が横断ゼミをきっかけに経営学に興味を持ったとする。経済学部の科目の多くは他学部の学生にも開放されてはいるが、「経営学入門」のような基礎科目は経済学部の学生で定員が埋まり、実際に受講可能なのは学部の専門科目になってしまう。

 こうしたニーズに応えるため、いわゆる一般教養に加えて各学部学科の入門的な科目を揃え、自分の専門以外の基礎を学ぶことで、物事を幅広い視野で捉えられるようになることがリベラルアーツ&サイエンス教育センターの目的だ。「大学全体としての特徴を打ち出せる体系づくり」に向け、27年度に予定するカリキュラム改革の大きな柱の1つとして、さらに強化を図っていくという。

グローバル教育とデータサイエンス教育

 近年、武蔵大学のグローバル教育は、「かなりいい形になってきた」と高橋学長は言う。ロンドン大学とのパラレルディグリープログラムを軸とする国際教養学部の2022年度開設、多様な留学プログラム、公用語を英語とした学内空間・MCV(Musashi Communication Village)などだ。

 次の重要課題としているのは「データサイエンス」だ。「『武蔵大学は、こういうデータサイエンス教育を受けた学生を卒業させます』と、外から見えるようなものにしたい」。また高橋学長は、統計学や数学は「語学力の弱さをカバーしやすい分野で、国際的にアドバンテージを出せる能力でもある」と位置づけている。「数学が嫌いな学生も多いのですが、そこを鍛えれば、もっと良さを発揮できると思いますし、国際社会で生きていく日本人の強さをつくることにもつながるので、しっかり取り組んでいきたいと思います」。


  • 経済学部+国際教養学部経済経営学専攻
  • 人文学部+国際教養学部グローバルスタディーズ専攻


(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)


【印刷用記事】
学ぶと働くをつなぐ[42]世界で生き抜く力を育む「ゼミの武蔵」/武蔵大学