座談会/10年後に存在価値のある大学であるために 理事長は何をすべきか
将来予測の困難な時代において、学校法人経営の舵取りを担う理事長・学院長は何を目指し、どのような責務を担い、組織をまとめていくのか。
これまでのキャリアが異なる3名のトップにお集まり頂き、現状の課題認識と共に今後の方向性について語り合って頂いた。
――最初に、皆さんの学校法人経営における現状と課題についてお聞かせ下さい。
井原 私は1969年に早稲田大学に職員として入職してから、同大学の理事、実践女子学園の理事長、現在の白梅学園理事長と、3つの法人経営に携わってきました。大規模、中規模、小規模、共学、女子大と様々で、予算規模も早稲田が1000億円、実践が90億円、白梅が30億円とどんどん小さくなるような経験をしますと、私自身も色々なことを学んできました。
そのなかで学校法人の経営における課題として言えることは2つあります。1つ目はコミュニケーションの問題です。私は規模が小さくなるほどコミュニケーションは良くなると思っていたのですが、小さくなるほど会話が少なくなり、意思疎通がどんどん悪くなるという、非常に不思議な体験をしたのです。組織が小さいとムラ社会になり、隣の人に気を遣って萎縮してしまうのが原因です。早稲田のように大きな組織ではみんなが言いたいことを言っていましたし、会議等の意思疎通のコミュニケーションシステムも揃っていました。つまり大規模ほどコミュニケーションが良く、小規模ほど悪い。これが日本の大学界の最大の弱点だろうと私は思っています。
2つ目は、教学と法人の一体的運営です。小さな法人はコミュニケーション不足に加え、教学サイドと経営サイドの仲があまり良くありません。我々のような小さな大学にとって、教学と法人の一体的運営は、これから生き残るためのキーワードだと思っています。
濱名 私どもは2020年4月1日に学部譲渡方式で神戸山手大学を統合し、翌4月2日に濱名学院と神戸山手学園が法人合併することで、新たに濱名山手学院という法人になりました。ただ法人合併というのは考えていた以上に大変でした。合併のタイミングでコロナが感染拡大し、いわば学部譲渡方式の合併がコロナの波に飲み込まれ、募集が十分にできないところでつまずいている状況です。それに加え、神戸山手女子中学校・高等学校は、私が若いころは神戸で良く知られた学校であったものの、この10年くらいでブランド力が低下していました。ですから経営上の課題の1つ目は、法人としての一体的なチーム力というのがまだまだ形成途上であるということです。
これはミクロに考えた場合の課題ですが、我々の今の市場におけるポジションをマクロに考えた場合には、縮小していく18歳人口という伝統的な市場にフォーカスするよりも、募集市場に対する発想をどう転換していくかということが2つ目の課題と言えます。
文部科学省の試算によると、2040年には現在の総入学定員数の2割程度の入学者数が減少すると予測されています。2割を割るのであれば、その分留学生を増やして定員充足し、労働力不足も解消するだとか、社会人のリスキリングで大学の役割を果たすだとかの方向に本来は行くべきところです。しかし教育未来創造会議の留学生比率の目標は3%増と、退場を促進するような政策議論は違和感があります。諸外国を視察すると、世界で一番少子化に苦しむ韓国も、人口増のイギリスでも、留学生をいかに拡大するかが共通の議論となっているのです。
それには外国の教育機関との連携強化や、中高から内部進学を増やすための高大接続の強化、収容定員の管理や配置の仕方の見直しが必要になります。収容定員は従来の5月1日基準から通年基準で捉え、中退者や編入学者を含め、4年間を通じてのマネジメントを考えなくてはいけません。
――小川さんは昨年、民間企業から梅花学園の理事長に就任されましたが、学校法人の経営は民間と比べてどのような点に違いがありますか。
小川 私は阪神阪急ホールディングスでエンターテインメントに関わってきまして、事業運営と経営を一体で担う経験をしてきました。2015年に梅花学園の小坂 賢一郎前理事長から「梅花女子大学に新たに梅花歌劇団を設立したい」とご相談を頂いたことからご縁が始まり、2021年に学外理事となり、2023年7月に理事長に就任しました。
学校法人の経営に入ってみて、寄附行為等の文言含め民間とは勘定科目が全然違うので、利益や剰余金がいくらでどれだけ投資できるのかが最初は分かりませんでした。漸く慣れてきたものの、民間に比べ非常に難しいと感じる点が多いです。例えばエンターテインメントの企業の場合、コロナ禍で観客が劇場に来られないならライブ配信等新事業を展開するといった経営の多角化ができました。しかし学校経営はほぼ授業料収入のみで、選択肢が少ない。
しかし、学校としてやるべきは、マーケットが縮小していくなかでもどうやって学生を集めるか、そのために中身と個性を伸ばしてどう勝ち抜くかというシンプルなこと。まさに今が関ケ原なんだと思います。
そんななか、井原さんが実行された実践女子学園の改革を知り、私がやるべきことを教えて頂いた気がしました。やはり先を見据えて10年ピッチで考えなければダメだと思い、まずは5年先に生き残るために、2028年の創立150周年に向けた新ビジョンを策定しました。
――実践女子学園のお話が出ましたが、井原さんは3つの法人を通じて、これまで経営においてどんなことに注力されてきたのでしょうか。
井原 現在の白梅学園では、まず今までのダメだったところを全部ひっくり返してやり直しているという段階です。先生方は「白梅は学生と教員の距離が近くてアットホームな雰囲気が良いところです」と言われますが、経営というシビアな観点から言えば、正直生ぬるい。問題が起きても先送りしてしまい、誰も手を付けないまま忘れてしまうことが往々にしてある。2022年に創立80周年を迎えましたが、これまで賃金を下げたことは一度もなくて、私が就任半年後に財政再建策として、3年かけてボーナス1.5カ月カットを掲げたらみんなたまげてしまいました。財政再建策を打ち出した理由はその時の校舎が築54(現在は築59)年にもなっており、建て替えが必要でしたがその資金が2億円しかなかったからです。
実は実践の渋谷キャンパス開設も、予算が足らない分をボーナス1.0カ月カット(5年間かけて)で実現しました。今から10数年前になりますが、当時の教職員に「5年、10年、20年先にこのまま日野の地でやっていて、実践女子大学は生き残れますか」と聞いて回りました。すると意識の高い人達は「5年は持つ、10年もまだ存在するんじゃないか、でも20年と言われたらちょっと危ないんじゃないか」と言うのです。だったら渋谷に戻ろうと、総工費90億円、18階建ての新校舎を建てました。渋谷キャンパスを見た女子高生達は「この大学で学びたい」と目を輝かせていました。
経営者の最大の役割として、良いところは踏襲すればいいですが、いざという時には今までの悪いところをひっくり返せるぐらいの腕力を発揮しなければいけません。それまで実践はずっと教員が理事長をしてきました。教員は研究者としては尊重できますが、経営は素人です。その点、小川先生は経営のプロとして学校法人の経営を学ぼうと奮闘されていますし、濱名さんもオーナー系理事長なのでトップダウンがしやすいのではないですか。
――日本の学校法人はざっくりと3分の1が宗教系、3分の1がオーナー系、3分の1がそれ以外に分けられるなかで、濱名さんはオーナー系と言われるポジションになると思うのですが、どんなことに注力されてきたのでしょうか。
濱名 私のこの市場におけるプレゼンスは、高等教育研究と経営の両方をやっている人間であるというポジションだと思います。オーナー系私学だと楽に決められるだろうと思われる部分は確かにないわけではないですが、だからこそ心がけてきたことが2つあります。
1つ目は、本学のような後発の学校は、教育力を高めて学修成果を可視化していかなければいけないということです。これを1つの大きな柱として、研修と評価の強化を大切にしてきました。
まず研修について、本学ではプロフェッショナルデベロップメント(PD)と呼ぶ研修を、1年に3回(8・9・2月)開催しています。8月に問題発見、9月にその答え、2月に次年度に向けた確認をテーマに、丸1日から2日かけて議論を行い、学生オブザーバーからコメントをもらうという内容です。評価については、学生の教育評価にはGPのみならずルーブリックで定性的評価による可視化を行い、教職員の評価には目標管理制度による評価の可視化を行っています。つまりオーナーだからこそ、納得性を高めるための可視化をかなり意識して、「組織的な仕組み」でマネジメントすることを心がけてきました。早期にルーブリックを導入できたのは高等教育研究という自分のバックグラウンドがあったからです。
もう1つは、中小規模の大学にとって大事なのがネットワークの構築・活用です。これまで「(社)大学コンソーシアムひょうご神戸」や「(社)学修評価・教育開発協議会」といった大学連携推進法人を立ち上げてきました。特に後者では、他の地域の5つの中規模大学でネットワークを作り、情報交換やノウハウを活用しています。また兵庫の大学として、全学部で防災士の資格を取れる安心・安全教育の強みを海外展開すべく、東南アジアの大学と「ACPコンソーシアム」を立ち上げました。文部科学省「大学の世界展開力強化事業」を2カ年にわたり獲得できたのも、自分達の規模や人材の少なさをカバーしようと構築してきた国内外のネットワークに助けられた成果です。
――梅花女子大学は、「美しく、梅花女子」のキャッチや「チャレンジ&エレガンス」のスローガン等、特徴的な方向性を示されていますね。
小川 前理事長のもと、女子大学としての個性に打ち出す改革で、入学者数のV字回復を実現してきました。しかし、理事長に就任してから各学校を回ると、茨木の大学施設はきれいですが、中高は発祥の梅田から豊中に移転して100周年を迎えようというなか、シンボルの円形校舎も老朽化していました。やはり、女子学園の学び舎は絶対に楽しく、きれいでないといけない。剰余金を聞いたのはそのための予算がいくらあるのかと考えたわけで、その一部を設備投資に回せばいいのです。
そのうえで、一人ひとりの学生を見て心根の美しい人を育てたいと考えています。本学は小規模な大学ですが、そういう人を1人でも多く育てるのが我々の建学の精神であり、その部分だけは譲らずに経営者が努力していかないとだめだと思うのです。2024年4月からは中身の学びも変えます。「目指すは、仕事力のある真におしゃれな女性」をキャッチに、主専攻×副専攻×教養科目の掛け合わせで、ワンランク上のキャリアを目指す、全国初となる取り組みもスタートします。
――学校法人のトップとしての今後のビジョンと戦略をお聞かせください。
井原 私が大事にしている格言みたいなものに「遠くに行きたければ、みんなで行け」という教えがあります。近くなら1人で決めてもいいのですが、5年先、10年先の長期ビジョンを形成するには、みんなで文化・伝統・風土、そして現実を作っていかなければいけません。
冒頭で、教学と経営の一体的運営が私の今の最大のテーマだと申し上げましたが、それを実現するための一丁目一番地がグランドデザイン策定です。実践でもそれを行ってきて、白梅でもグランドデザイン策定会議の第一回会議を開いたばかりです。教学側の自主性を尊重しながらも、教学と経営が一体化しなければその学校の存在がなくなるというのが私の主義主張ですので、大短高中幼と5つの学校がありますが、まずは各学校の責任者に各々の分科会で教学グランドデザインを作ってもらっています。一方、ヒト・モノ・カネを要素に法人全体を維持していくための経営グランドデザイン策定のほうは、別の分科会を作りました。そして最終的には、教学系の夢と理想と、経営系の現実の厳しさを併せたものが法人全体の未来像になるので、学内には「10年先を見据えて考えて下さい」と言っています。
濱名 我々が法人合併をした時に、私学関係者から1番無理だと言われた最大の理由が、それぞれの建学の精神をどう統一するかという問題でした。そこで過去は変えられないけど未来は変えられると、両方のミッションの上に新たな共通ミッション「濱名山手学院教育ミッション」を作ったのです。教育ミッションなので教職員に対する呼び掛けなのですが、「『他者を尊重しつつ、主体的・能動的に自らの人生を切り拓く』ことができる人間を世界に送り出す」ために、3つのC(Communication・Consideration・Commitment)を実行できる人材の育成を、それぞれの学校レベルで考えていくという内容です。
そもそも合併を考えた理由は、関西国際大学の校地への課題感です。三木だとロケーションの面で厳しく、尼崎はロケーションはいいが収容力が限られるということで、神戸に出たいという話のなかで生まれました。そして神戸を中心に展開するなら、「グローバル」は意識せざるを得ません。そこで冒頭にお話しした募集市場の発想転換をし、今後は留学生を積極的に受け入れ比率を高めていくつもりです。大学は現在の11%から2割でも多くないと思いますし、中高も同様に考えています。国際化という多様性を取り入れることなく神戸のロケーションを生かしたとは言えないでしょう。
そのためには、海外の学校との提携や、日本語が不十分でも学位が取れるような教育体制を確立する必要があります。また入ってくる学生が多様になると、ここまでに成功体験を持っている子が多数派ではなくなります。そこで重視すべきは経験学習で、本学はこれまでも経験学習を通してモチベーションや自己効力感を高めていく教育に力を入れてきましたが、さらに強化していくべきだと思っています。
世界では留学生の学費が自国民よりも高いのは普通ですが、その分、高い学費を頂いてもよいと言えるだけの教育システムやサポート体制や学習環境を作り上げ、グローバルマインドを育てていくことが最大の課題だと思っています。
――小川さんは創立記念日の1月18日に新ビジョンを発表されると伺いました。
小川 我々は2028年に学園全体で創立150周年を迎えます。今まさに梅花学園リニューアル部会を設定して取り組んでいるところですが、こういう作業は経営の経験を積んでいるので、組織をこうしよう、予算は5年で毎年6億ずつの30億円を投資しよう等と指示をしながら進めています。
ただ会社なら本部長が「これをやろう」と言えば全社を挙げて実行するのですが、学校は学生と直接向き合う教員に協力を仰ぎ、動いてもらう必要がある。そこで中高の先生にアンケートを投げ掛けて、リニューアルで学校に望むものは何かといった意見をもらっています。熱意ある教員の共感を得て、原点である教育「学び舎は楽しく美しく」の実現に向けて、教員と経営側の考えのベクトルを合わせて戦っていこうとしています。
――今回の調査結果は、「重要度が高い課題は多いが、緊急度は低い」というのが全体の傾向でした。しかし皆さんのお話を伺っていると、今が重要なターニングポイントのように感じます。そこで、これからの経営に必要な視点とは何かをお聞かせ下さい。
井原 小川さんの「心根の美しい人を育てるという建学の精神だけは譲りたくない」という言葉に、芯の強さを感じました。白梅学園は短大を徐々に共学化して、2005年には短大に加えて4年制大学を設置しました。現在男子が2割在籍していますが、学問領域は子ども学と保育ということもあり、男子が大幅に増えるような予測は立てていません。しかし、幼保はAI にとって代わられる職種ではないと捉えています。ですから私はグランドデザイン策定会議で、拡大拡張はなくむしろコンパクト化し、学問領域も既存の子ども学で勝負するという意向を伝えています。
女子大にとって共学化の議論は避けられない問題です。実践でも共学化の話は出ましたが、実践は下田歌子という学祖が、「女性のゆりかごをゆらす手が世界を動かす」と女性を鼓舞する理念を持って設立した学校です。私学にとって建学の精神は大切であり、私は共学化するくらいなら一旦解散して法人を変えるぐらいの覚悟を持って経営すべきだと主張し、共学化はしませんでした。だから建学の理念が違う学校を一緒にして新ミッションを作るなんてことをやり遂げた濱名さんはよくやられたなと感心しています。
濱名 本学院は神戸に進出してグローバルに展開するなら、少なくともダイバーシティとグローバル化をセットに、新たな展開を考えざるを得ないと思っています。
本学院は来年で創立100周年になります。これを転機に次の世紀に向けて経営に何が必要かと考えた時、教育ミッションの実体化が我々の生きる道だと思っています。ミッションの3つのCが目指すものは、「視野の拡大」と「認識の共有」です。これを教職員と学生がどう実現していくかというと、先ほどの経験学習なんだと思います。そのための海外とのネットワークや留学生の国内留学等も今考えていて、2024年度から「外国ルーツを持つ学生」を積極的に受け入れる入試制度と奨学金制度を始めたのもその1つです。そういう方たちがいるという認識の共有と、コミュニケーションを通じた視野の拡大が、学生や生徒だけではなく教職員にも必要だと考えたからです。
そういう点で、100周年を1つの節目として、これまでお話ししたような内容の新ビジョンを策定し、2024年の9月の100周年記念式典で打ち出そうとしています。
――文部科学省も人口が減少するなかで大学のリソースを共有していこうということで、連携や統合を大きく打ち出しています。そのなかでいち早く学部譲渡という新しいスキームを使われた理事長として、連携・統合を考えるうえでどのようなメッセージを送りたいですか。
濱名 やはり思っている以上に大変だということです。それとデューデリジェンスを元にシビアな現状分析を共有していかないとだめだと思いました。旧山手は、合併前に校舎のメインテナンスを計画的に行えていませんでした。また中高は無借金だったのですが、校舎をノーケアでやってきたからです。痛んでいる箇所に手を入れるとかなり費用はかかりますが、今日お二人の話を聞いて、決断・実行しなければいけないと分かってはいるけれど後回しにしているようなことは、早くやっていかなければいけないと改めて教えて頂きました。
それから連携についても、(一社)学修評価・教育開発協議会は“スープの冷める距離連携”という表現をするのですが、近隣の学生募集の競合校とはできることとできないことがあるので、文部科学省にはそこについてもう少し考えてもらわないといけないと感じます。
――――連携・合併は言うは易しですが、実際に行うのは経営として乗り越えるべき壁が非常に多いということですね。
最近は企業経営者が大学の理事長になられることも多いですが、小川さんから皆さんにメッセージをお願いできますか。
小川 やはり学校経営ははっきり言って企業より大変だということは言いたいですね。でもやるからには、やはり聖職ですから、学生や生徒のことに関して、どれだけ愛情を持って接することができるかです。人1人の人生を決めるのですから、そこは大事にしたいと思います。
梅花学園は、阪急沿線にある女子学園です。私は阪急に育てて頂いたので、阪急沿線の街は安全安心で、文化がないとダメだと考えています。そして女子大というのは街の文化を担う存在です。これから梅田を大改装していくので、我々は小さな女子大、女子高ですけれども、女性が持つ高いポテンシャルで沿線の地域を盛り上げたいと思います。
そのために私にできることは、今までの企業経営で教えて頂いたものを学校経営に役立てることです。それは何かと言えば、やはり一番の根幹はしっかりと財務状況を把握しながら、先を見据えた次の投資を考え戦っていくことです。そして梅花を良い学校にしていこうという思いを、しっかりと全職員、先生に対してご理解頂き実行する、その実践あるのみだと思っています。
井原 企業から来られた小川さんとは感覚が違うかもしれませんが、大学にどっぷり浸かってきた者として申し上げたいことがあります。私は55年間、大学職員と経営者をやってきたので、プロパーの職員も企業からの転身者もたくさん見てきました。そこで良い点、悪い点が見えてきたのですが、企業出身者の悪い点は、大学の生ぬるい文化風土を「だから職員はだめなんだ」と言葉に出して馬鹿にしてしまうところです。反対に大学職員の悪い点は企業に学ばないところです。小川さんもご覧になると分かりますが、納期を確認して仕事をする職員はほとんどいません。納期の確認がないから段取りも取らないわけで、達成水準の感覚が抜けている。コストの感覚も非常に低いです。
だから私は、職員を鍛え上げて質を高め、戦士にすることが大学改革の一番手っ取り早い近道だと思っています。教職協働が大学改革の要とは言いますが、まず教員にパートナーとして認められるような職員にならなければ平等じゃないのです。そういう意味でも職員を鍛え上げることは、これからの大事な作業だと思っています。
濱名 私も職員の戦力化についてお話ししますが、本学では部局ごとに年間目標を立てて、期中と期末にオンラインによるポスターセッションを行い、達成度合いを情報共有しています。教員も職員も一緒に、管理職は全員参加します。大学は結構縦割りなので、そういう形で認識の共有をしないとクロスしていきません。
ですが一方で、大学の教職員というのは基本的に論理的なんです。だからこそエビデンスベースでしっかりと提示していくことが重要だと思います。
期中、期末でどこまで進んでいるかを自分達でスケジュールを自覚してもらい、次のステップを考えてもらう。そのように納得して動いてもらえる仕組みこそが、職員が鍛え上げられることにつながるのではないかと思っています。
――大学のコストで一番大きいのは人件費であり、それをどう戦力化していくかというのは、大学経営において一番大きな関心事ですよね。
今日は経営トップとしての貴重なお話をありがとうございました。