調査報告/現大学1年生が受けた入試のリアルを知る
2021年度から始まった新入試、そして2022年度から高校で本格導入となった新課程。
新課程を経て大学入試を受験した現大学1年生対象に、どのような入試を経験したのか調査した。
※文中の「年内入試」は学校推薦型選抜・総合型選抜を、「年明け入試」は一般選抜・共通テスト利用入試を指す。
※割合(%)は、小数点第2位四捨五入。四捨五入の結果、数値の和が100.0にならない場合がある。
自分の学力を軸に大学も入試も選ぶ年明け入試層
高校までの活動を評価してほしい年内入試層
まず図表1に示す通り、「どの入試で合格・入学したか」に対して、年内入試37.7%、年明け入試59.7%で、年明け入試がやや多いのが本調査の母集団である。第一志望率が高いのは年内入試で、最も第一志望率が低いのは共通テスト利用入試。図表2より大学を選ぶ基準上位項目は、年明け入試が「偏差値・学力」「大学の教育力」「立地」であるのに対し、年内入試、特に総合型選抜は「キャンパスの雰囲気」が49.5%と高く、それに付随してか「在校生の雰囲気」も26.6%と高い。大学に求めている価値がやや異なる様子が分かる。入試を選ぶ基準を問うと(図表3)、年明け入試では「偏差値・学力が合っている」「得意科目を活かせる」、年内入試では「合格時期が早い」「高校での活動実績を評価してくれる」「面接で自分をアピールできる」と、評価してほしいポイントも異なることが分かる。
学力の3要素を問われるようになったことに対しては(図表4)「問われたと思う」44.3%、「思わない」「分からない」55.7%と後者のほうが多い。年内入試は比較的「問われた」傾向が強いものの、どの入試でも明確に違いを感じるような変化ではないようだ。ただし、問われた要素を聞くと、一般選抜では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」が問われたのに対し、総合型選抜では「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」が高く、傾向が分かれる(図表5)。
年明け入試と年内入試は主体性等評価が大きな違い
学力の3要素それぞれがどうやって問われたと思うかを示したのが図表6~8である。知識・技能は、年明け入試が共通テストや学力考査が中心であるのに対し、年内入試は調査書・書類・小論文・口頭試問等のスコアが高い。思考力・判断力・表現力は、年明け入試は記述式問題ほぼ一択であるのに対し、年内入試は面接と、そこで用いられる書類等が挙がる。最後に主体性・多様性・協働性は、年内入試で面接でのパフォーマンスを中心に見られたと答える人が多かった。全体的に、多様な要素評価が求められる状況においても対応した評価手法がまだ少なく、面接の負荷が高い様子が垣間見える。
高校までの活動を大学につなげる起点としての入試
高校までに頑張ったことを中心に、何が身についたか、それを入試でアピールできたか、大学入学後につながっているかという接続を問うたのが図表9~12である。まず、高校までに頑張ったことを問うと、教科の勉強、クラブ活動はどの入試方式でも50%を超えて高い。探究活動については最もスコアが高い学校推薦型選抜(公募制)でも30.7%と、導入期でそこまで高くはないようだ。全体的に、特定の入試が何かに特化して高いということではなく、高校までに全方位的に頑張ってきている人が多い様子である。それによって身についたものを聞いた図表10でも、各活動で最もスコアが高い項目はばらける結果となった。
では頑張ってきたことは入試でアピールできたのか。入試でアピールできたことは学力の3 要素の並びとほぼ同じで、知識・技能が最も高く、主体性・多様性・協働性は相対的に低い傾向が表れた。これは点数化等で評価が分かりやすい順とも言えそうだ。ただし、何をどう評価されたのかが受験生には正確には分からない状況であるためか、全体的に「総合的にアピールができた」とする結果となった。
最後に、高校時代に頑張ったことが大学入学後どうつながっているかを聞いた。全体で見ると「とてもつながっている」「まあつながっている」の合算が63.2% で、比較的つながっていると考える人が多い。入試方式で見ると「とてもつながっている」が最も多いのは総合型選抜で、最も低いのは一般選抜であるが、FAを見ると、高校時代に頑張っていた学習やボランティア等の活動が「継続できている」、高校時代に頑張った活動で培った技能が「今に活かせている」、高校時代の学習や立てた問いが「高度化できている」の3つに大きく分類できそうだ。「つながった」といってもその定義は多彩である。大学は高校時代の活動実態を見極め、引き受け、それをさらに発展させる観点で教育を設計できるかが問われている。
「今」の自分で早く確実な進路を確保したい高校生
入試は「『今の』自分に合っているか」が選択の軸に
進路選択の早期化・安全志向が定着
まず高校生にとって入試選びで大事なのは、周りに入試制度や自分に合う入試について教えてくれる人がいるか。また、大学等に興味を持つ初期認知段階でも、行きたい学校が決まって入試方式を決める段階でも、信頼の置ける目上の人の影響を受けやすいのは共通しています。ただ、現在の入試制度は昔に比べて複雑なので、「今の入試制度を知っている」身近な先輩や兄弟姉妹にアドバンテージがありそうです。
今の高校生のなかでも、特に志望校は決められても併願校を選ぶ(志望校に不合格だった場合を想定する)のが苦手な人は、志望校自体も「早く確実な道を選ぶ」傾向が強いと感じます。自分が合格する可能性が高い学校や入試を見極めたい意向や、受験機会が複数あるほうが安心という感覚は、コロナ禍×入試改革で先輩達の苦労を見てきた彼らの、世代的な感覚なのかもしれません。
無理をするよりも、手の届く範囲で等身大の進学をしたい
関連して、大学選びでは大学のブランドよりも「等身大の自分に合うかどうか」という感覚が強い傾向があります。半年間受験勉強を頑張った後の自分の可能性よりも、今現在の自分で選べる範囲で選ぼうとする。身の丈に合ったところで、年内で入試が終わるほうが嬉しいという人が多い印象で、早い人では高校入試の段階で生徒数に対しての指定校推薦枠数までチェックしている等、世代として「手堅い」。コロナ等の影響で「先がどうなるか分からないから早く安心したい」という思考に拍車がかかっているのかもしれません。
また、今の高校生は保護者との会話が多く、その傾向はコロナ禍でさらに顕著になりました。リアルの進路指導が満足に行えなかった期間、高校生の主な相談相手は保護者でした。そうした相談相手がいることも、「今の自分を肯定し、今の自分で勝負する」ことの後押しになっていそうです。
また、大学がこれだけ多いなか、少し頑張れば手が届くランクに自分を受け入れてもらえるところを探せる環境も影響していそうです。
多面的評価は自分の個を認めてくれる入試形態
入試制度を「早く進路を決めたい」「今の自分に合っているところを選びたい」を軸に見た時、基礎学力で勝負できる高校生は、自分の成績をベースに一般選抜で偏差値上位を狙っていく感覚である一方、自分の強みを色々出せる高校生は、多面的に自分を見てくれる総合型選抜を選びます。そこでは大学のブランドよりも自分とのマッチング・フィット感が大事になるはず。だから、総合型選抜で評価されて入学できるのはとても嬉しいことではないかと思います。本質は多面的に評価してくれる枠があること。企業の採用と感覚が似ていそうですね。
(文/鹿島 梓)
【印刷用記事】
調査報告/現大学1年生が受けた入試のリアルを知る