アクティブラーニングを活用したユニークな入試で多様な受験生を確保/創価大学 総合型選抜 PASCAL入試


創価大学 アドミッションズセンター 中山雅司センター長


主体性の高い学生を呼び込む入試制度

 創価大学は2018年度から総合型選抜「PASCAL(パスカル)入試」を実施している。これは“PerformanceAssessment of Students' Competency for Active Learning”を略したもので、アクティブラーニング(AL)を行うための学生のコンピテンシー(能力)を(ペーパーテストではなく)パフォーマンスによって評価する試験のことだ。具体的には、課題教材をもとに予習ノートを作成したうえで受験当日のグループディスカッションに臨むLTD(Learning Through Discussionの略。話し合い学習法)方式(文系学部)と、事前に用意したスライドを用いて発表を行うプレゼンテーション方式(理工学部)の2通りがあり、それらを通じて受験生の能力を評価するものだ。アドミッションズセンターの中山雅司センター長は、PASCAL入試の狙いや位置づけについてこう語る。

 「本学では2000年以来、全学的にLTDを含めたALを授業へと積極的に導入してきました。その方法を入試にも取り入れることで、そこで必要とされる能力・適性を持つ学生を広く募り、入学後の学びにもつながるようにPASCAL入試を取り入れたのです。文科省は学力の3要素を①知識・技能②思考力・判断力・表現力③主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度と示しています。本学では、一般選抜等で①を、小論文と書類審査・面接試験で合否判定を行う『総合型選抜 小論文方式』等で①②を、PASCAL入試等では②③を合わせて測ることにより、多様な学生を集めようとしています」。PASCAL入試はその性質上、議論を得意とする受験生も多く挑戦する。ただし、中山氏によるといわゆる『仕切り屋タイプ』を求めているのではなく、むしろチームとして他者と協働・協力して意見を述べ、議論を作っていける人を求めているという。実際に集まってくる受験生もむしろ社会性が高く周囲に気遣いできる人が多いそうだ。ALにとって必要な協働の資質を持つ人が多いとも言える。

 2018年度におけるPASCAL入試の募集定員は100人、全学の募集定員の7%程度だった。ところが2024年度の募集定員は168人、全学の募集定員の11%あまりにまで拡大している。このことから分かるように、PASCAL入試に対する学内の評価と期待は高い。

 「PASCAL入試で合格した学生のGPAは、全入試形態の合格者の中でも高くなっています。また、大学生活を通じて自らがどの程度成長できたか学生に問う調査でも、PASCAL入試合格者の成長実感値は全学生の平均値を大きく上回っているのです。入学時の学力が高いことはもちろん大切な要素ですが、主体性や協調性等の分野で強みを持つ学生、そして志願度が高い学生のほうが入学後も伸びていく可能性が大いにあるのではないかと、私たちも認識を新たにしているところです」(中山氏)。

高大接続支援のため受験生向け講座を提供

 教育機関の大事な役割は、伸び代の大きな学生を合格させ鍛えることだというのが同大学の考え方だ。そうした方針をさらに発展させたのが、2022 年度から導入された「PASCAL入試チャレンジプログラム」である。これは高3生を対象にし、PASCAL入試で評価される学力の育成を目指して開かれるオンライン講座。入試本番と同じようにグループワークを行う「LTD体験」と、高校生の能力や経験を棚卸しして大学で学ぶ意味や志望学部等について考えを深める「キャリアプランニング」の2本立てとなっている。

 「PASCAL入試では出願要件に、調査書の評定平均値3.5以上を求めています。しかしなかには、本学への志願度が高いのに評定平均が基準に満たず、受験できない人もいます。そこで、私達が受験生向けの講座を提供することで、志願度の高い受験生への機会を広げようと考えました。そして、プログラムを修了した場合は、評定3.0以上でPASCAL入試に挑戦できるようにしました。

 大学への志願度と教育効果の間には、かなり強い相関関係があると感じます。だから本学への進学を強く希望する受験生がいたら、可能な限り入学の可能性を高め、本学で成長させたいのです。また、PASCAL入試は毎年10月に行われるのですが、早い時期に志願度の高い入学者を確保できることは、大学側にとっても大きなメリットがあります」と中山氏はその意図を説明する。

 PASCAL入試やチャレンジプログラムの実施には、一般的なペーパーテストよりはるかに大きな手間が掛かる。そこで同大学では、教職員の負担を少しでも抑えるため、様々な工夫を凝らしているという。「チャレンジプログラムの『キャリアプランニング』で行われるグループ面談では、現役の有志の学部生がサポートする仕組みづくりを行いました。また、講座参加者とのやり取りやプログラムのアレンジといった事務作業では大学院生のスタッフが活躍してくれています。受験生にとっても現役の学生や他の受験生と触れ合うことでモチベーションが高まるとともに、他者に貢献したいとの思いを強く持つ本学の学生にとってもやりがいを感じられるという点にこのプログラムの真価があるように思います。このような手厚いサポートに支えられたプログラムによってPASCAL入試から本学の理念にかなった意欲と能力の高い学生が入学してくれているのは確かです。一方、あまりに手間ひまが掛かりすぎるのも大変ですので、そのあたりのバランスを上手にとることが今後の課題かと考えています」。


画像 PASCAL入試チャレンジプログラム


探究学習で得た力を生かせる入試を模索

 2019年度までのPASCAL入試では、受験生を大学に一堂に集めて実施していた。ところがコロナ禍によって対面でのやり取りができなくなったことで、オンラインでの実施に切り替えた。必要に迫られた結果ではあったが、これが意外なメリットを生んだと中山氏は振り返る。

 「最大の利点は、距離の制約がなくなったことです。地方から参加する受験生は以前より増えましたし、海外からの受験者も現れました。また、以前のグループワークでは受験生同士が互いに向き合いながら話をしていたため、評価する側は受験生を背後から見る感じでした。しかしオンラインになったことで、全員の表情がよく分かるようになったのです。導入前は通信環境に関する不安もあったのですが、受験生への事前の通信環境テストの実施やトラブル時の対応マニュアルを作るなど準備を整えた結果、大きなトラブルもなく実施できています」。

 こうした実績の成果として、延べ704大学・短期大学が回答した大学入学者選抜実態調査から文部科学省がまとめた『令和4年度大学入学者選抜における好事例』でも、総合型選抜入試8事例の一つとしてPASCAL入試が選ばれている。

 「高校では2022年度から探究学習が本格スタートしましたが、これを頑張った受験生は、問いを立てて考え、議論し、協働する力を問うPASCAL入試との相性が良いのではないかと思います。本学でも、高校で学んだことが入試でも役立てられる仕組みが作れないかと模索を続けているところです。本学はこれからも教育や入試の改革を進め、能力と志が高い多様な学生を集めたい。PASCAL入試はそうした取り組みの目玉として、今後も改善しながら発展させていくつもりです」。中山氏の言葉は力強い。



(文/白谷輝英)


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