学長による理念説明を筆頭に多様なプロセスで学科とのマッチングを図る/大谷大学 アドミッション・オフィス入試


大谷大学 入学センター長 社会学部教授 渡邊拓也氏


 大谷大学(以下、大谷大)は、総合型選抜「アドミッション・オフィス入試」(以下、AO入試)において、2日間で2段階の選抜を行っている(下図)。第1次審査においては「エントリーシート」と、「学長による理念説明」「学科講義」を聴いたうえでの「小論文」で、第2次審査においては「セミナー」及び「面接」で学生を多面的・総合的に評価するという選抜プロセスだ。その狙いと経営上の効果等について、入学センター長で社会学部教授の渡邊拓也氏に伺った。


図 アドミッション・オフィス入試の流れ


自学の理念を理解した多様な学生を受け入れるために

 まず、AO入試の狙いは大きく2つあると渡邊氏は話す。「1つは、仏教精神に基づいた人間教育を行うという本学の教育理念をよく理解している学生を、もう1つは、専願制の入試として、本学で学ぶ強い意思を持っている学生を募集するという狙いがあります」。加えて、多様な学生を受け入れることも目的の1つとしており、「偏差値偏重の教育では評価されてこなかった点を評価できる設計にしています」と補足する。

 現在の内容になったのは2021年度入試から。この時、「学長による理念説明」を新たに導入し、全学科で小論文を課すことを始めた。背景には、文学部のみの単科大学から、2018年に社会学部と教育学部を、2021年に国際学部を設置し、4学部体制になったことがあったという。学科ごとにバラバラの組織にならないよう、扇の要のごとき大学の共通基盤である建学の精神や教育理念を再確認するという目的で、学長が受験生全員に対して大学としての理念説明を行う。関連して、理念のあらわれである「人間学」、即ち人間を見つめ、人間について考えるという大谷大が重視するアプローチとの整合性を問うため、読んで理解して自分の意見として書き表す「言語化能力」を測る評価方法として、小論文を全学科で導入したという経緯がある。

学科ごとに示された「学科の目標」「求める学生像」をベースに評価方法を構築


図 「学科の目標」「学科が求める学生像」


 各選抜方法の設計意図について聞くと、多面的に各学科とのマッチングを見ていることが分かる。まず、大谷大のアドミッション・ポリシー(AP)は学部別に設定されているが、それに加えて「学科の目標・学科が求める学生像」を定めている(上図)。この「学生像」では、学生に何を求めるのかがスキルレベルで端的にまとめられており、この解像度の高さが、学科ごとの評価方法の設計につながっていると察せられる。「学科の学びに即して受験生が選択できるレベルまでかみ砕いています」と渡邊氏はその意図を述べる

 このように、学科ごとの学びの内容、そこに必要な資質・能力を明示し、それを測るための入試設計になっているのが本AO入試最大の特徴といえる。評価方法を概観すると、まずエントリーシートは、受験生自身の興味・関心と学科とのマッチングを見る重要な書類だ。小論文は、学科講義を受け、その内容を踏まえたテーマについて論述する形式で、「講義を受けてノートにとるという基本的なアカデミックスキルが身についているか、学科が扱う分野への関心等を見ています」(渡邊氏)。評価基準として、①着眼点の面白さ、②論述展開と説得力、③文章表現力、④誤字・脱字等の有無、⑤講義内容及び課題の理解度の5つが明示されており、特に①や⑤で学生の関心の度合いを見ているという。

 第2次審査は、全学科面接を必須とし、学科によっては加えてセミナーを課す設計だ。例えば、社会学部では2学科ともセミナーとしてグループワークを行っているが、これは「入学後、学外に出ての学びやグループワークが多数あるため、周囲との協働性やコミュニケーション力等が備わっているかを見ています」。なお、第1次審査と第2次審査で日程を分けているのは、「第2次審査で丁寧に選抜するためには、第1次審査である程度人数を絞る必要があるため」だという。

高大接続や大学教育の進化に総合型選抜が寄与

 入学定員768名のうち、AO入試の募集人員は158名と約20%を占め、5人に1人が本入試で入学する。ほかの入試を経て入学する学生との違いについて、「GPAとの関係等を分析してはいるものの、小規模校で必要なデータ数を揃えづらいことも相まって、はっきりとした傾向は出てきていません」と渡邊氏。「逆に言うと、一人ひとり異なる個性を持った、多様な学生が入ってきているということになるのかもしれません」と続ける。定性的には「やる気のある元気がいい学生が入ってきている印象」だという。

 また、経営的な観点においては、定員充足や休退学率の低減の面での期待が大きいという。「本学で最も早いタイミングで実施される専願制の枠ですし、昨今、関西の高校生の受験行動が前倒し傾向にあることからも、定員充足の観点において重要度は高い。また、タイプが多様で、周囲にも多様な影響をもたらしてくれて、かつ、第1志望で、学科とのマッチングもクリアしている学生を受け入れられる枠なので、休退学率の低減への貢献も期待できます」と渡邊氏。

 本入試は今後も強化していく方針で、2025年度入試からはAPをより学力の3要素に対応した形に刷新する予定だという。そのうえで注力したいのは高大接続だ。「高校生と大学の学びとのマッチングというところからもう少し遡り、高校側の探究と大学の学びをいかにしてシームレスに繋いでいくかが将来的な課題。その際に、このAO入試が鍵を握る枠だと認識しています」と渡邊氏。入学前教育を充実させること等も検討中で、2024年度入試からは試験的に、公募制推薦入試の専願枠の合格者の入学前教育として集中講義型のプログラムを実施し、入学後に単位化(2単位)することを始めている。「変化の只中にある大学教育において、より社会のニーズに応える教育を設計していくうえで、総合型選抜のように多様な素質を測る入試は、今後大きなプレゼンスを持つことになると思います」と渡邊氏は先を見据えている。



(文/浅田夕香)


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