今後あるべきエンジニア像を定義し その素地を見る選抜区分を設置/九州工業大学 総合型選抜Ⅰ


九州工業大学 理事・副学長 安永氏、アドミッション・オフィサー 木村氏


 九州工業大学(以下、九工大)は、2021年度入学者選抜より多様な資質・能力を持つ学生を評価する選抜区分「総合型選抜Ⅰ」を実施している。工学系技術者を育成・輩出する大学として、一般選抜とは異なる位置づけで設けたこの選抜の狙いを、理事・副学長(教育接続・連携PF担当)の安永卓生教授と、アドミッション・オフィサーの木村智志講師に伺った。

グローバルに活躍するエンジニアの素地を持った生徒を選抜する

 九工大が「総合型選抜Ⅰ」を設けた背景には、社会の変化に伴い、複数人で協働して新しいものを生み出していくことがエンジニアに求められるようになってきたことがあるという。この変化を受け、九工大では「多様な文化の受容」「コミュニケーション力」「自律的学習力」「課題発見・解決力(探究する力)」「デザイン力(エンジニアリング・デザイン)」の5つをグローバルに活躍するエンジニアに求められるコンピテンシー(GCE: Global Competency for Engineer)と定義づけ、GCEを備えたエンジニアを養成するべく教育改革と入試改革を進めてきた。「総合型選抜Ⅰの設置もこの流れの中にあり、また、中期目標の中で学長方針として据えている、キャンパスの中にできるだけ多様な学生がいる状態を実現するための選抜区分の一つでもあります」と安永氏は説明する。

多様な方法で、協働性や主体性、メタ認知、言語化能力等を問う


図表 総合型選抜Ⅰの概観


 「総合型選抜Ⅰ」は図に示す通り、第1段階選抜では、講義を視聴して書くレポートと課題解決型記述問題を、第2段階選抜では、事前提出の「学びの計画書」と、CBTによる適性検査、グループワーク、個人面接を課している。6種類もの方法で評価を行うことについて、「エンジニアとして新しいものを生み出していく際に最も重要な『多様な人と協働して生み出す』という点を多面的に問い、総合的に評価する観点から設計しています」(安永氏)とのことで、適性検査で基礎学力を担保しながら、グループワークで協働性や主体性を、講義の視聴により工学の学びとのマッチング等を見ている。

 同時に、レポートや課題解決型記述問題、学びの計画書、グループワークの自己評価シート等、多様な方法で「書かせる」ことを重視した設計もなされている。その意図を安永氏は、「大学の学びに必要な基礎力として、自分の考えを文章に落とし込んで書ける、大学の講義に食らいついて自分なりに理解し、それをアウトプットできるといった、学習方略と言語化能力が備わっているかを、様々な手法で見ています」と説明する。

 加えて課題解決型記述問題では、算数・数学・理科の知識を教科横断で活用しながら段落構成を考えて記述することを、学びの計画書では、入学後に学びたいことを理由・背景も含めて整理して書き起こすことを求めており、メタ認知や言語化能力、教科横断で知識を活用する力が問われる内容とも言えるだろう。

 こうした内容は、九工大が育成・輩出を目指すGCEを備えた人材となる素地のある生徒を選抜する目的だけでなく、「問題を通じて高校での学びで培ってほしい力を提示するという、高校に向けたメッセージでもあります」と安永氏は話す。特に意識されているのは高校の「探究」との接続だ。「解決すべきテーマを決めるために、思いつく課題を洗い出したうえで整理する」「協力者に適切に指示をする」「物事を教科横断で考える」等、探究の過程で培われる力を問う出題が随所になされている。

 こうした設計を行った背景の1つには、九工大が目指す大学としてのあり方と、工学系技術者への興味喚起に対する課題感がある。「初等中等教育の現場にもアプローチして工学系のエンジニアの裾野を広げ、かつ、社会に出たエンジニアが専門性や強みを複数持ったり、昇進等のキャリアチェンジの際に学びに戻ってこられる、エンジニアが生涯にわたって学び続けるためのプラットフォームとなる大学を目指しています。総合型選抜Ⅰは、中高生にこの入試を認知してもらって、数学や理科がテクノロジーやエンジニアリングにつながっていくことを感じてもらい、エンジニアの裾野を広げていく取り組みの一つでもあります」と安永氏は話す。

主体性や協働性を発揮し学び合いの核となることを期待

 合格者の入学後の適応度合いや他の学生に与える影響等については、1期生がまだ学部3年生ということもあり分析中とのことだ。学生と接して得ている印象としては、安永氏は「リテラシーの面では、1年次の数学・物理科目で苦労はするけれど、なんとかくらいついてクリアしています。他方で、コンピテンシーの面では、他の選抜区分の学生とは圧倒的な違いを感じます」と話す。木村氏も、「グループワーク等において主体性と協働性の高さを感じます」と続ける。

 基礎学力をどのように担保するかという点は、総合型選抜Ⅰの設計時より議論が続けられているそうで、2025年度入学者選抜からは、基礎学力を測るCBTを第1段階選抜に移すことで、「第1段階選抜では大学での学びに適応できるかという部分により重点を置き、入学者を選抜する私達の責任を果たしたい」と木村氏は話す。

 加えて、入学前教育を合格者に期待する特性をより生かした内容に強化することで、より多くの合格者がモチベーションを保って4月を迎えられるようにすることも検討しているそうだ。「これまでは通信教育で学びを継続してもらっていましたが、2月・3月の高校の自由登校の時期に月1回、グループに課題を課してオンラインで課題解決型実習を行うことを検討しています」と木村氏。

 「合格がゴールではなく、入学までに必要な学習はまだまだあるというメッセージを伝えていきたい。そして、入学前にグループによる教え合いを経験することで、入学後、他の選抜区分で入学してきた学生達とのピアラーニングの核となってもらえれば」と期待を寄せている。



(文/浅田夕香)


【印刷用記事】
今後あるべきエンジニア像を定義し その素地を見る選抜区分を設置/九州工業大学 総合型選抜Ⅰ