考察/大学入試の起点はどこか


リクルート進学総研 研究員
鹿島 梓


大学入学者選抜の現在地

 「高校で探究がスタートしているわりに、入試における多面的・総合的評価の開発があまり進んでいないのではないか」。本企画のスタートの疑問はそこだった。では、多面的・総合的評価とは本来何を目的としたものだったか。キャッチーな言葉が出てくるたびにそこが起点に語り直しが起こるが、今回はなるべく入試の「そもそも」を見つめる視点を心掛けた。大学入試は大学教育に根差したポリシーがまずあり、それを叶える人材を選抜する教育手法として存在すべきもので、そこと整合しない方法論だけ多様化してもきっとうまくいかない。では、今改めて必要な観点は何か。それは、外部的には高校や高校生の現状ではないか。内部的には自校教育の現状と成長する学生の資質・能力から発想することではないか。

大学の学修・卒業に必要な能力・適性等を判定する入試になっているか

 令和3年7月8日の文部科学省「大学入試のあり方に関する検討会議提言」では、大学入学者選抜における3原則を図1の通り規定している。改めてこの3原則を考えるとき、特に①において、大学は、本当に自校教育に必要な素養を入学者選抜で測れているのだろうか。「当然できている」と思われる読者の方々も多いであろうが、筆者には、①こそが棄損してるように思えてならない。偏差値向上や相対的なポジショニング向上、志願者数を増加させるといった手段を選ぶとき、最初に棄損しがちなのが①だからだ。もちろん志願者数は大学経営において重要視すべき項目であり、そうした手法を否定するものではないが、それだけでは本質的な志願者獲得につながる入試を設計することはできないのではないだろうか。


図1 大学入学者選抜における3原則


 また、今回の特集は、暗に大学は高校の探究活動を評価すべしとするものではない。自校の教育に探究的思考が必要なら、入試でそれを問うべきだ。言い方を選ばずに言えば、大学教育に必要ないならば問う必要はないだろう。ただし、探究は社会に必要な能力を高校教育段階で身につけるために考案された教育手法である。翻ってそういう教育を受けた高校生が大学に入学したときに、大学教育は彼ら・彼女らを「より成長させる」ことができる状態にあるだろうか。つまり、大学教育は社会で活躍するための能力を育成できるものに変革できているか、探究的素養が必要な内容にチューニングできているか、ということである。問われているのは入試設計だけではない。改めて「変化著しい・かつ多様化している高校までの学習と、大学教育への適性の整合をどうやって入試で組み立てるのか」という本丸の設計力である。

高大が手を取り合って若者を育成するために

 高校は探究の成果を可視化することが求められており、大学は自校教育に必要な測定対象を軸に入試を適切に設計できているかが問われている。双方の解像度が上がらなければ、「探究をやっても評価してくれない」(高校)と「探究を評価しないといけない気がする」(大学)という溝が埋まらない。接続観点で入試が機能しなければ、探究を頑張った高校生が期待に胸膨らませて入った大学で探究との親和性が全く見いだせずにスタックする、といったことが大量発生しかねない。

 こうした状況を憂慮した気概ある大学は、建学の精神の現代化を軸にした教育改革に続々と乗り出している。改革の起点が「社会ニーズ対応」であれ、「志願者減少への打ち手」であれ、旧態依然の教育ではまずいという健全な危機感であろう。また、探究支援という名の高大接続活動も広がりを見せている。現在高大接続を順調に進める大学は、もともと接続・連携活動に注力してきたところが、コンテンツとして探究が載ってきたというケースと、大学教育そのものが探究的資質を軸にしており、高校側の要望に即対応が可能なケースの2つに大きく分類されるように思われる。若者の育成という共通軸で高校と協働しながら、翻って自校教育が時代に合っているのか、探究的なのかどうかを含めた整理、そこの必要な資質能力は何かの整理、それを評価する方法としてどんな入試が必要かの開発、というマネジメントサイクルをどうやって機能させることができるか。それは当然大学の生き残りにも深く関連した文脈だ。

 昔、年内入試とは言葉を選ばずに言えば、「早期に志願者を確保したい大学」と、「一般入試では合格が難しい生徒を合格させるために推薦枠を利用する高校」がwin-winの関係にあるという側面が強い入試であった。現在は、長期化する進路選択の末に早期合格を決めたい高校生が、探究学習を含めた多様な活動の評価をしてくれる年内入試に挑戦する傾向が見受けられた。こうした生徒は大学教育でリーダーシップを発揮する可能性が高いため、「早く受かりたい、探究等を評価してほしい高校生」と、「より多面的に評価して主体性の高い生徒が一定数欲しい大学」がwin-winの関係にあると言えそうだ。多様な活動に身を投じてきた生徒ほど、希望する進路実現のための方策は充実してきている。高校現場はコロナ禍・新課程を経て大きく変化している。宮本氏のインタビューにあるように、高校側の教育の変化にアンテナを立て、高校教育段階で成長した生徒をどう引き受け、さらに伸ばしていくのかを教育に組み込む必要があるだろう。

 一方で、文科省平野氏のインタビューにあるように、大学は入試で本来の自校教育にマッチングした志願者を獲得できているのか。大学教育を起点にした「教学マネジメントの一端を担う入試」という位置づけを再考する必要がある。これは、大学から見れば「本学の教育で伸びるポテンシャルを持つ学生を選抜する」ということになるが、高校生から見れば、「自分のこれまでをきちんと評価し、もっと伸ばしてくれる大学はどこなのか」が分かりやすく示されるということだ。

 探究を背景に大学教育への期待値が向上する中で、改めて、DPを実現するための大学教育を核にした入試設計になっているかを問うことが、高校にも大学にも、高校生にも有益なアプローチになるのではないかと思う。


図2 現在起こっていることの概観(大学入試関連)


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