職員の満足度向上、意識の共有を図るため、評価・育成に関する人事改革を実施/福岡工業大学

福岡工業大学 常務理事 山下氏、総務人事部長 松薗氏

職員が気持ちよく働けることが大前提

 福岡工業大学は、近年、受験生からの評価、就職率共に上昇し、九州の私立大学のなかで存在感を高めている。就職率はここ7年間、99.7~99.9%という高い水準を維持している。「ヒト・モノ・カネ」の全面にわたる継続的な改革が着実に成果を上げている同大学では、人的資本経営の観点ではどのような改革に取り組んでいるのだろうか。常務理事の山下剛氏、総務人事部長の松薗裕二氏に話を聞いた。

 「本学の経営の“ヒト”に関するところで言うと、まず職員が働きがいのある職場で気持ちよく働くということが大前提だと考えています。言い換えれば、全学的な改革は、学園の全教職員が同じ価値観を持って働くことが重要で、そのためには上司と部下のコミュニケーションの積み重ねによる意識の共有が大切だと考えております。中でも“ヒト”は最も重要な経営資源であり、本学における“学園の運営主体・経営主体は全教職員”との考えは、中期経営計画スタート時(1998年)から変わるところはありません」(山下氏)

 大学の課題を「自分ごと」として捉え、主体的・能動的に動く職員の貢献もあって改革・改善が進み、「良い教育、良い学修環境、良い学生支援」を実現するための数々の取り組みは着実に成果を上げている。しかし、その一方で、民間企業出身の松薗氏は、職員の人事制度に関しては、まだまだアップデートの余地があると考えていた。

中間管理職の強化が重要課題

 そこで、2022~2026年の第9次中期経営計画(マスタープラン)では、「Society5.0の社会を生き抜く柔軟な組織・ひと作り」を柱の一つとして人事に関する改革に着手。その一つが年功要素と成果要素をミックスした事務職員新人事制度(2023年4月~)の構築だ。

 「これまで培ってきた本学の良さを残しつつ、仕事の成果をしっかり出し切った人に対してはそれに見合う処遇をしていきたいという目的で制度設計を行いました。といっても特別目新しいことをしたわけではありません。本学には、民間企業から中途で入職した職員も多くいれば、大学で30年働き続けている職員もいて、それぞれ価値観にも違いがあります。このような本学の組織・人的特性を踏まえ、共に納得感を抱けるかたちを模索してこの制度に至りました」(松薗氏)

 中途採用戦略に関しても見直しを進めた。背景にあったのは、力のある中間管理職層を厚くしたいとの問題意識だ。「本学が一層の改革を進めていくためには、職員と教員の協働を深めていくことが重要となります。そのためには、職員の側に、教員に対して対等にコミュニケーションや提案ができるマネジメント人材が活躍し、より組織を強くしていくことが必要だと考えています。採用選考時には、前職での業績や専門性にはもちろん着目しますが、組織・人・業務を俯瞰して見ることができるマネジャーとしての資質を見極めることも重視しています」(松薗氏)

 人材育成面では、実効性を重視して「人材育成に資する研修」「目的別研修」「自己啓発支援」の3本柱をベースにSD体系を整備。また、2021年度からは教職員全員参加型の新入職者オリエンテーションを実施している。

 「大学・短大・高校・法人に新規に入職した教職員全員を対象に、経営幹部による講話などを行っています。私立学校としての経営理念や教職協働などの本学の強みは最初からあるものではなく、長年の積み重ねによるものであることを伝え、価値観を共有することを目的としています」(松薗氏)

事務職員の海外研修FASTを再開


2023年度FAST研修の様子


 なお、2013年度から海外の協定校と連携した職員の海外研修「FAST」(FIT Admin Staff Training)に取り組んでいたが、2023年度、5年ぶりに再開。2023年度は、タイのキングモンクット工科大学の協力を得て、タイ、台湾に部門の異なる事務職員5名を派遣した。派遣期間は10日間で、前後4カ月にもわたるこのプログラムの目的は、①グローバルマインドの醸成、②海外大学の取り組み事例を学び、大学や自部門で活用するための気づき・知見を得る、③協定校とのさらなる関係作り、④職員同士の横の連携強化。見直すべきポイントもあったが、①④に関しては高い効果が得られたという。

 福岡工業大学の人事・組織面に関する一連の取り組みはトップダウンとボトムアップの2つのベクトルをうまくバランスさせることによって、教職員満足度の向上を図るものだ。2021年度には「現在の仕事は自分の将来のビジョンにマッチしているか」「本学で管理職になりたいか」等を問う職員意識実態調査(図1)を実施。日常業務の中で現場で働く教職員からの意見の吸い上げにも努めている。

 現在は、新たな職員人事・人材育成方針の議論をまとめているという。「教職員からも選ばれる学校」を志向する同大学の取り組みは終わることはない。


図1 職員意識実態調査アンケート結果




(文/伊藤 敬太郎)




【印刷用記事】
職員の満足度向上、意識の共有を図るため、評価・育成に関する人事改革を実施/福岡工業大学