ダイバーシティを基盤とする大学で多様な個を混ぜて起こる化学反応/立命館アジア太平洋大学(APU)
大分県・別府市・学校法人立命館の三者大型公私協力方式で2000年に設立したAPU。設立時点で学生の半数が留学生という前例のない国際大学だ。現在に至るまで概ねその割合を維持し続け、コロナ禍を経て2023年5月現在、世界106カ国・地域からの国際学生2777名(開学以来最多)と国内学生3199名が学ぶ(国際学生比率46.4%)。多様な留学生を惹きつけ続ける魅力と今後の方針について、米山 裕学長にお話を伺った。
国内学生と留学生を混ぜる
APUの教育は「混ぜる教育」と称される。留学生を呼び込む器を作るだけではなく、国内学生と留学生を混ぜ、協働して何かに取り組み、成果を出す。その取り組みそのものが教育であり、留学生だけで固まらないように、国内学生だけで組まないように、「混ぜる」仕組みを教育や寮等、様々に織り込んでカリキュラムや生活を設計している(図1参照)。米山氏は、「幸い本学には主体性の高い学生が多い。また、学生同士で学び合い、切磋琢磨する文化が根づいています。それでも意図的に混ぜるようにしていないと、APUらしい教育成果の最大化にはなりません」と話す。
また、APUが大事にしているのは、国内学生と留学生に、可能な限り同じ量と質の教育・経験を提供する平等性だ。例えば授業は専門科目でも日本語と英語両方で開講する。留学生対応の専門部署を持たず、各部署に英語対応可能な職員を配置し、国内学生も留学生も同様に対応する。特に募集部署では各国の担当者を置き、入学者の多い国では現地の事務所を起点に高校等とのコミュニケーションを密に行うため、人的コストはかなりのものだという。もちろんわざわざ日本の、しかも私立大学に留学してもらうためには奨学金等の対応も必須であり、国際学生獲得のための投資は極めて大きいと言える。それでもAPUにしかできない教育実現のためには、経営的に見てかけるべきコストということなのだろう。
グローバルな視座で展開するアドミッション
留学生の国籍もバラエティ豊かなAPUだが、長らく2割ずつを占めていた中国・韓国が15%に下がる一方でインドネシアが伸びる等、その内訳は徐々に変化している。また、各国からの私費学部留学生数に占めるAPUのシェアがトップ(2022年5月時点、APU調べ)であるのが、ミャンマー、タイ、インドネシア、インド、モンゴルといった国々だ。こうした実績からして、国際的な知名度は高くなっていると言える。
今後のターゲットエリアは、インド、中東、そしてアフリカだ。「現在のメインターゲットである東・東南アジア地域は、2050年には少子高齢化社会です。今後を見据えれば、若者が多く高等教育ニーズの高い新興国にプレゼンスを作る必要があります。また、旧宗主国との関係性が強い地域で募集を成功させるには、それなりに長期戦を覚悟しなければなりません。大学経営の観点で、世界のどこで何が起こっても学生が集められるダイバーシティケーションは大事です」と米山氏は述べる。既に該当地域からの留学生は多く、特にインドからの私費学部留学生数は日本全体で185名のうち61名がAPU生(2022年5月時点、APU調べ)。彼らに評価されているのは、図2にあるように、国際的な環境と質の高い教育だ。「インドでは勉強したことがどれだけの収入につながるかをシビアに見られますし、アフリカは生活費の奨学金がないことがネックとなる。こうした国別のニーズに細かく対応し、安心してAPUに来てもらえる環境を実現したいと考えています」。
徹底したグローバルからD&Iへ
APUの次の展開は何か。「次は世界のトップ校に比肩できる本当の国際大学になることが目標です」と米山氏は述べる。具体的には、「ビジネスユニットを中心とした社会科学系の大学として、分野別でアジアの大学のトップ30を狙うこと」である。APUは2016年にAACSB認証を受けているが、そうした実績をフックに世界の大学との教育的交流をより深め、将来的にはAPUをハブにして教員と学生が世界の教育ネットワークのうえで勉強・研究できる世界観を見据える。
また、前述した多様な卒業生の力を大学経営に取り込むことについては対応しきれておらず、喫緊の課題であるという。米山氏はこう説明する。「これまでは同年代の多様な若者達を混ぜる教育を作ってきました。現在の環境は唯一無二かもしれませんが、これからもそれだけというのはダメでしょう。今後はより多彩な文脈で、多様な属性で、多様性をつきつめていく必要があります。それはまさに、日本社会全体で対応が遅れている領域、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。日本企業の活力を生む方策であるはずのD&Iは、未だに女性の社会参画という狭義の意味で使われていることが多いですが、本来は、企業に存在する多様な個が化学反応を起こしながら全体を活性化していくプロセス設計こそが肝要です。APUで手掛けている教育や卒業生達に、そのヒントがあるのではないかと私は思います」。
APUでは社会人を中心としたターゲットを「ライフロング・ラーナー」と呼ぶ。年齢や社会経験が多様な人々が大学に参加する機会と場を多彩に作り、生涯学習の場としてAPUを位置づけると同時に、社会ニーズに即応した教育へ進化する。それは、単に18歳人口減少に対する打ち手というだけではない。
「APUという場に社会の生きた課題を持ち込んでもらい、社会と大学を混ぜる教育を実現したいのです」。現在のAPUのコンセプトを社会に向けて広げるイメージで、これからの大学を創っていく。それが、APUが新たに掲げる“Leap Beyond Global”構想である。社会と大学を混ぜ、それによって社会を変えていくソーシャルインパクトの最大化。大学のダイバーシティを高めていくことで社会課題の解決を目指すことが今後のAPUの道筋なのだ。
(文/鹿島 梓)