高等教育段階における外国人留学生受け入れに関する主な施策について/文部科学省高等教育局参事官(国際担当)付 留学生交流室長 下岡 有希子
世界中から優秀な留学生を受け入れることは、留学の修了後に母国との架け橋としての相互理解や友好親善への寄与への期待や、近年では高度人材として人口減少の進む日本社会にとどまって将来活躍する人材としての注目も高まるところであるが、われわれ高等教育関係者として何より期待するのは、わが国の高等教育の質や多様性の高まりである。世界から様々なバックグラウンドを持った意欲あふれる留学生が日本の大学に集い、異なる他者が協働して新たな価値を生み出す活動が展開されることにより、教育研究が飛躍的に活性化し、日本の大学のイノベーション力が高まる。これは大学内にとどまらず、日本社会の活性化やダイバーシティを深化させるうえでも極めて重要である。
日本の大学はかねてより国際化の遅れが指摘されてきたが、近年、英語により履修できる課程の増加をはじめ、国際対応力の強化に努めつつあるものの、十分に対外発信できていないのではないかという課題や、日本人学生の海外留学を促進し、その好循環により教育研究力を高めていく必要性などが、課題となっているところである。
2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の拡大は、日本の留学生受け入れ・送り出しの双方を減少させ、国際的な教育研究活動の遅延や、外国人留学生の就職率の低下など、学生や教職員の国際的な交流に大きな影響をもたらした。
こうした状況を受け、2023年4月にまとめられた教育未来創造会議第二次提言(J-MIRAI)では、2033年までに「外国人留学生の受け入れ数40 万人」や、「卒業後の国内就職率6割」が目標として掲げられた。特に留学生の受け入れについては、「多様な文化的背景に基づいた価値観を学び理解し合う環境創出のために受け入れ地域についてより多様化を図るとともに、大学院段階の受け入れに加え、留学生比率の低い学部段階や高校段階における留学生の受け入れを促進」とされ、量を重視するこれまでの視点に加え、より有望な留学生の受け入れを進めるために、質の向上を図る視点も重視されている。
また、文部科学省では、同時期に「戦略的な留学生交流の推進に関する検討会」を開催し、2023年5月、外国人留学生の受け入れの戦略をはじめとする留学生交流全体に係る意義・目的及び地域・分野ごとの戦略等についてのとりまとめを公表した。さらに、2023年8月には、永岡文部科学大臣(当時)のもと、留学生交流や教育の国際化等、グローバル人材育成のための政策パッケージ「せかい×まなびのプラン」をとりまとめた。このプランでは、
- 大学の国際拠点化の推進
- G7、ASEAN等重点地域との戦略的連携強化
- 戦略的な国際展開のための情報収集・留学生誘致機能強化
優秀な外国人留学生の受け入れを推進するためには、日本の大学の魅力の向上が重要であり、併せて、外国人留学生のリクルーティング機能の強化や奨学金の戦略的な活用、国内定着等を一体的に進めることが求められる。ここでは、令和6(2024)年度予算案のうち、新たに実施する事業を中心に紹介する。
大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業
優秀な外国人留学生を獲得するには、その受け入れの基盤となる大学の国際化を図っていくことが不可欠である。
文部科学省では、2014年度から「スーパーグローバル大学創成支援事業」として、国際化に取り組む大学の支援を実施し、英語による授業の実施等、外国人留学生が日本の大学で学びやすい体制の整備が行われてきた。一方で、外国人留学生と日本人学生が共に学ぶ環境が十分でない等、一定程度国際化が進んだがゆえに顕在化した課題もあり、これらに対応し、日本の大学のさらなる国際化を推進するため、2024年度から「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」を開始する。この事業では、外国人留学生と日本人学生が共に学ぶ国内外での共修のための体制の構築を通じ、
- 地域社会との連携による共修科目の提供、自治体や地元企業との連携による定着支援
- 自治体や企業等との連携による外国人留学生の定着支援・海外拠点等を活用した教育活動の展開
このほか、大学の国際化の推進については、「大学の世界展開力強化事業」において、わが国にとって重要な国・地域の大学と、質保証を伴った連携・大学間交流を戦略的に進めているが、2024年度からは、EU諸国との質の高い単位互換プログラムを構築するとともに、ASEAN諸国との学生交流の拡充を図る。
日本留学促進のための海外ネットワーク機能強化事業及び日本学生支援機構の機能強化
文部科学省では、これまで「日本留学海外拠点連携推進事業」を通じて、日本留学に関する情報発信やイベントの実施等、リクルーティングから帰国後のフォローアップまでを一体的に促進してきた。「日本留学促進のための海外ネットワーク機能強化事業」では、これまでの取り組みの成果を踏まえつつ、ASEANやインド等の重点国・地域の拠点機能の強化を図る。具体的には、留学フェア等の開催数の大幅増に加え、現地での高校訪問等、高校段階からのアプローチの強化、在外公館や国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)等の関係機関、企業との連携を強化し、日本留学の魅力発信及び日本での就職・キャリアプランも含めた広報の強化を図っていく。
当該事業のほか、留学生交流推進のナショナルセンターである(独)日本学生支援機構(JASSO)に、諸外国の留学生交流をめぐる動向やデータ等、留学生交流推進のための情報収集・戦略立案を行う部署を新たに設置し、日本の大学が戦略的なリクルーティング活動を展開するための支援体制を構築する。
このほか、「国費外国人留学生制度」や「留学生受け入れ促進プログラム(学習奨励費)」による戦略的な支援や、「留学生就職促進プログラム」により、外国人留学生が国内企業に就職するにあたって効果的とされる日本語教育、キャリア教育、インターンシップからなる教育プログラムの提供等を推進する。
世界から優秀な学生を受け入れるためには、前述の取り組み(大学の国際化、戦略的な留学生の受け入れ)に加え、日本人の海外留学を推進して日本人学生の海外大学でのプレゼンスを高め、これらが相互に作用する好循環を創出することが重要である。文部科学省においては、さらに、初等中等教育段階からの国際理解増進や英語力強化、また大学における国際的な研究連携等も含め、関連施策を総合的に推進することにより、わが国の大学の活性化と持続的な成長を目指したい。
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せかい×まなびのプラン
【外部リンク】https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/sekaimanabi/index.html
STUDY in JAPAN
【外部リンク】https://www.studyinjapan.go.jp/ja/
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高等教育段階における外国人留学生受け入れに関する主な施策について/文部科学省高等教育局参事官(国際担当)付 留学生交流室長 下岡 有希子