入試は社会へのメッセージ[9]探究評価型入学試験/関西学院大学

探究活動のリフレクションを促し大学教育への接続を図る


関西学院大学 入学センター入試企画課 課長 綾部 有氏


 関西学院大学(以下、関学)は、4つのアドミッション・ポリシー(AP)からなる総合型選抜の1つに探究評価型入学試験を設置している。その経緯や現状について、入学センター入試企画課の綾部 有課長に伺った。

大学として政策・業界動向を見据えアドミッション・ポリシーを定める

 本入試には前身となる入試がある。2016年度導入の「SGH対象入学試験」、「SSH対象入学試験」、2021年度導入の「探究(課題研究)評価型入学試験」の3つだ。2022年度よりその3入試を統合したのが、「探究評価型入学試験」である。前身の入試設計の背景には、2014年の高大接続改革答申、及び同年に関学が採択されたスーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)がある。SGUにおいて関学は「グローバル・アカデミック・ポートの構築」として、国際通用性の高い質保証システムの構築やグローバル人材育成のための教育方法の刷新を掲げ、後者で所属学部・専攻等での学び(ホームチャレンジ)に加え、グローバル社会で活躍するために必要な「主体性」「タフネス」「多様性への理解」養成のため、副専攻や社会探究、留学といったアウェイチャレンジを全学生に課した。こうした方向性と親和性が高いSGHやSSHを対象に、高大接続型入試を取り入れたのだ。

 現在関学がこの入試を設置する意図について、綾部氏は「本学が新課程の探究学習にどう対応するのかということと、本学のAPに即した多面的・総合的選抜を行うことのクロスするポイントを探りました」と述べる。入試として掲げるAPには「予測困難な社会の変化に適応するためには、自己の生き方を考えながら、物事の本質を様々な角度から探り見究め続けることが必要」「本学では学力の3要素を捉えたうえで、社会に主体的に関わり新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする気概を持つ者からの挑戦を求める」と示されている。探究学習のプロセスや培われた資質・能力がAPと整合する可能性が高いとみて、評価対象を探究と明示し、その多面的・総合的評価を行う。その最大の特徴は、関学として評価対象とする「探究活動」を定義したことだろう。

 関学が定義する「探究活動」とは、図の①~③に示される、問題解決的学習が発展的に繰り返されていくスパイラルのことであり、内容がアカデミックで社会的背景を含む活動に絞っている。単なる調べ学習ではなく、社会のなかで自らの問いを見いだし「明らかになっていないものを明らかにする」をコンセプトに、その解決に取り組む一連の行為だ。さらに、探究活動を3つのタイプに区分し、受験生が自身の探究活動のタイプを選択し出願できるシステムにしている。


図 入試の概観


入試で探究のリフレクションを促し適切な評価につなげる

 入試設計で特徴的な点が2つある。1つ目は、出願資格に「高校での探究活動において、学内外の発表を行った者」と規定されていること。探究活動のプロセスや成果を第三者にアウトプットする=「発表の機会」を出願資格にしていることだ。2つ目は、提出書類の1つ、「概要説明書」の存在だ。同時に提出する探究活動の成果物についてその概要を説明するもので、A~Cの種類別にフォーマットが用意されている。自身の問いの内容、成果物に至る思考のプロセスや引用・参考にした文献等を細かく振り返る、まさに探究学習のリフレクションそのものだ。この書類を用意した意図について、綾部氏は「大事なのは、自分が取り組んできた探究の成果やプロセスを自分の言葉でしっかり説明できること。探究を通して得た学びを学部での学びにどう活かしていきたいのかを話せるように、フレームを大学側で用意したかたちです」と語る。第三者に説明するために用意する過程で、自分が何を得てきたのかが分かる。そこで培われた資質・能力がAPに合致するからこそ、関学は丁寧に評価方法に落とし込んでいる。

 また、フォーマットを統一したのは、運営上の理由もある。生徒により様々な探究活動を公平に審査するには、様相がバラバラの成果物だけでは難しい。また、APに即した資質・能力を備えたかどうかは、成果物だけではなくプロセスにこそ現れると考えた時、成果物に至るプロセスを主観だけで構築されては審査が破綻しかねない。概要説明書を用意したのは、大学が統一フォーマットのなかでプロセスを公正に評価するために必要だからでもあった。「この概要説明書が書けないようだと、どこかやらされ感のある探究をやってきた可能性がある。逆に言えば、この書類をしっかり書ける生徒は、探究テーマが自分事になっています」と綾部氏は述べる。そして、「入試があることで探究の本質が損なわれることがないようにしたい」と話す。「入試に合格するための探究ではなく、自分の問いを進化させていく意思がある層を選抜したいと考えています」。

初年次教育への接続から専門教育への接続へ

 現状の入学者は、1年次の初年次教育がスムーズに進む学生が多いという。レポートテーマ設定、情報収集、文献検索といった基本的なリサーチ活動ができるため初年次の学術的なアプローチに馴染みやすく、スタートダッシュが速い。「これがもう一歩進んで、自身の探究テーマや活動内容が本学の数多くある専門性につながるような接続ができてくるといいなと思っています」と綾部氏は期待を寄せる。

 2022年度より高校で新課程が導入され、全学年が探究経験者となる2025年度入試において、潜在的な志願者数は増えると見るが、課題は審査にかかるパワーだという。「本学にとって大事にしたい入試なのは間違いないですが、運営パワーはほかの入試の比ではないのが実情です。ただここをおろそかにしてしまうとこの入試の本質が損なわれてしまいます。大学としてこの入試をどう発展させていくかを議論していきたい」と綾部氏は述べる。また、「個人的には、高校の探究活動と大学の専門性、出口の就職や大学院進学を含めたシームレスな高校と大学、将来の希望との接続となってくれれば良いと思っています。本学は14学部と幅広い専門を抱えており、受験生の様々な探究テーマを受け入れられる総合大学です。なんとなく大学の名前や印象で選ぶのではなく、自分の興味関心から始めた探究活動をもっと深く専門的に研究したいというビジョンを持って本学を選んでほしい」と力を込める。高校の探究は大学との出会いの種になる。だから関学は高大接続に注目し、その延長線上に入試を設計するのだろう。



(文/鹿島 梓)


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