【寄稿】大学の改善を支援する評価の可能性を探る 大学教育質保証・評価センター第4期の重要ポイント/一般財団法人大学教育質保証・評価センター 事務局長 中田 晃


一般財団法人大学教育質保証・評価センター 事務局長 中田 晃


 本センターが認証評価事業を開始したのは、認証評価制度が第3期の半ばにあった2020年度からであり、次のサイクルに向けた評価基準等の見直しは少し先のこととなる。そこで本稿では、受審大学との間で本センターの評価への理解をさらに深化させるという観点で、第4期のポイントを示したい。一言でいえば、受審大学と共に「大学の改善を支援する評価の可能性を探る」となる。

評価機能のトレードオフ

 本センターは後発の評価機関として、評価基準を定める際に独特の工夫を行なった。基準を評価事項別に列挙する前に、表の上半分に示したように、評価の目的に即して大枠で3つの基準に整理したのである。そしてそれぞれの基準に、適合を「判別」する役割と大学に「改善を促す」役割を分担させることにした。

 これは評価一般にいえることだが、「改善を促す」ことと適合を「判別」することを、同時に達成することは難しい。なぜならば、「改善を促す」ためには、評価を受ける側から自身が有する弱点についても積極的に示し、その原因や改革を阻む要因について評価する側と議論を尽くす必要がある。しかし、「判別」で良い結果を得ようとすれば、弱点を含む情報は当然出しにくくなる。こうしたトレードオフがある限り、評価が改善に資する効果は限定的にならざるを得ない。さらに本センターは当初、「改善を促す」には、それを「支援」する視点も必要と考えていた。しかしながら、このような方針は認証評価機関の認証審査において歓迎されず、実施大綱等から「支援」に類する文言を削除せざるを得なかった。

 そこで、さしあたり3つの評価基準に「判別」と「改善」という役割を分担させるという工夫をもって、新たな評価をスタートしたのである。

3つの基準の役割分担



 表に整理した通り、判別のための評価は「基準1 法令適合性の保証」で行う。本センターが受審大学に対して提出を求める統一様式〈点検・評価ポートフォリオ〉には、基準1に関しては、いわゆる「細目省令」※に認証評価の要件として示されていた10の評価事項、それぞれについて記入欄を設けている。そこに「大学が順守すべき法令」の条文と対応させながら、大学が行った自己点検・評価の公表情報をリンクさせる。法令内容に即した情報公表を徹底することで、評価が大学セクターの身内の自主規制に過ぎないと解されることを避けたのである。

 一方、大学セクターの自律性に基づく「改善を促す評価」は「基準2 教育研究の水準の向上」、「基準3 特色ある教育研究の進展」で行う。大学は〈点検・評価ポートフォリオ〉に、両基準に関わるそれぞれ5つ以内の取り組みを示し、それに先立って取り組み相互の関係性やそれを支える全学的な方針等を明示する。そのことにより、大学がどのような状況認識に基づき改革の方針を定め、各種モニタリング結果をどのように関連付けながら改善に生かしているのかが明らかになる。

評価の機能の現実

 こうした工夫によって、大学の改善をはかる評価が実現したのだろうか。受審大学においては評価基準への理解に努め、それに基づく真摯な取り組みが行われたものの、現時点ではその意図が十分に機能しているとまではいえない。例えば基準2はあくまでも「水準の向上の取り組み」を評価するものであり、「水準の高さ」自体を評価するものではないが、やはり大学の弱点の分析よりも、優れた成果のほうが強調されがちである。

 恐らく、評価に対する常識的な理解の下では、たとえ役割の峻別があるとはいえ、大学の弱点に触れるような資料を作成することに、大学組織全体のコンセンサスが得られないのであろう。そうであるならば「改善を促す評価」を機能させるためには、もっと大学の組織構造全体に働きかけ、評価の機能に対する共通の了解を作り出し、質保証に向き合う際の行動選択を変えなくてはならない。

細目省令の改正への着目

 この点について本センターは、第4期に向けて行われた「細目省令」の改正に着目している。実は、評価基準の設計時において、3つに整理した評価基準への理解を得るためには、「評価機関の工夫」だけでなく、もっと強い根拠が必要と考え、それを「認証評価機関が順守すべき法令」としての「細目省令」に求めていた。

 表の下半分をご覧頂きたい。「細目省令」第1条第1項は、認証評価が共通に準拠すべき事項を示すが、その第1号が基準1を、そして第2号が基準3をそれぞれ根拠づけていた。ただし、基準2を根拠づける内容は細目省令には明示されていなかった。

 ところが今般の改正により挿入された新たな第2号(表・赤字)が、教育研究等の水準の向上に関する枠組みとして基準2に対応したことから、本センターの3つの評価基準と「細目省令」が示す3つの枠組みの平仄が揃い、法令に即した評価として整理されることとなった。

第4期に向けて

 認証評価制度については、内部質保証が機能していることをどのように評価するのか等を巡って、様々な議論がなされている。繰り返しとなるが「改善を促す評価」は大学の組織構造にうまく働きかけないと実現できない。そうした観点から、実地調査についても時間差を設けた2段階で実施することにより、受審大学との対話を深め、大学組織の隅々にまで強いメッセージを届けたいと考えている。

 法令による整理を得て、本センターの評価基準への理解もさらに深まることが期待される。評価実績も2023年度までに49大学と蓄積されてきた。これらの流れを受けて、出発当初に文言上は削除した「支援」についても、まずは評価を行う側と受審大学との間における了解と行動選択において復活させるよう努力する。そして、当初の構想であった「大学の改善を支援する評価」の可能性を受審大学と共に探る。これが本センターにおける第4期の重要ポイントとなろう。

  • 学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令。その第1 条第1項には、認証評価機関が共通に適合しなければならない「大学評価基準及び評価方法が認証評価を適確に行うに足りるものであること」の枠組みが示されている。評価事項の数は当時のもの。



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