リカレント教育最前線[7]武庫川女子大学 リカレント教育センター MUKOnoa+

ビジョン策定を起点に、運営・募集まで首尾一貫。
開設1年、「リカレント教育センター」は今や入試説明会のアピールポイントに


武庫川女子大学
リカレント教育センター センター長 経営学部 教授 高橋千枝子氏

図 概要


掲げたビジョンとのギャップをいかに解消するか。リサーチを元にトップが明確に戦略を策定

 「2019年、学校法人武庫川学院は創立80周年を機に、『一生を描ききる女性力を』というビジョンを掲げました。入学前から卒業後の社会参画までを一体的に捉え、学生の生涯に寄り添うことを目指そう、と。しかし現状、20万人を超える卒業生に向けてのサポートは十分にできていない。では何をすべきなのか。そこから本格的な検討がはじまりました」

 そう語るのはリカレント教育センターのセンター長、高橋千枝子氏。2020年に女子大で初めて設置(当時)された経営学部の創設に準備段階から携わり、開設と同時に教授に就任した高橋氏は、シンクタンク等で長くマーケティングリサーチや事業戦略策定を担ってきた実務家教員である。

 「理事長、学長、副学長といったトップから方針が示され、予算と時間と人とをかけ、卒業生のアンケート、企業のニーズ調査、そして先行大学へのヒアリングと、着実にリサーチを進めていきました。そうして、まず卒業生の利用にフォーカスし、あえて『女性リーダー育成』は外し『IT・DX』と『キャリア支援』の二本柱で腹を決めてやっていく、という差別化戦略を策定したのです」(高橋氏)

 センターの開設にあたっては、『資格とキャリアのスクールnoa』を運営する株式会社ワークアカデミー、りそな銀行との三者協定を締結。株式会社ワークアカデミーが講座の提供とキャリア相談を担い、りそな銀行が求人企業を紹介する。

 「専任教員を中心とした学内リソースだけでは限界があるため、将来にわたってセンターを安定的に運営していけるよう、外部との協働を選択しました。センター名に『noa』とはっきり入っているのは、業務委託ではなく、パートナーとして対等の立場でやっていくことを示しています」(高橋氏)


図1 「武庫川女子大学リカレント教育センター」概念図(取材をもとに筆者作成)


「愚痴聞くだけでもあるべき姿」キャリアに悩んだら最初に相談する場所へ

  開設から1年が経過し、利用者数は順調に拡大している。「まずは卒業生の支援に注力しよう、と。そこで、同窓会で説明してもらったり、卒業生を対象としたメールマガジンや同窓会報で告知したり、各学科の先生方がいちばん卒業生とつながっていらっしゃいますから、グループラインに流してもらったり…しつこくしつこく本当一つずつ。それで少しずつ卒業生の認知度が高まり、コンスタントにキャリアカウンセリングの申し込みが入ってくるようになりました」(高橋氏)

  キャリアカウンセリングは対面・オンラインいずれも可能なため、東京からのUターン希望者も。ニーズに応じてリスキリング講座の受講や転職・再就職の提案を行っているが、まずは「愚痴を聞くだけでもいい」(高橋氏)のだという。「我々が掲げているのは『一生を描ききる女性力を』というビジョン。ですから、とにかくどういうタイミングでも、キャリアや自分の人生に悩んだら、まず最初に連絡する場所になりたい。今は愚痴を聞くだけでも、5年後、10年後は分かりませんから」(高橋氏)

 提供する講座については、株式会社ワークアカデミーが展開する講座から企業へのリサーチ結果をもとに再編集。さらに専任教員によるDXスペシャル講座などを利用状況を見ながら加えている。昨年10月には法人向けに経済産業省「デジタルスキル標準」に準拠した「DX人材育成プログラム」をリリース、西宮商工会議所による令和6年度人材育成補助金の対象となった。受講修了者へのデジタルバッジの発行も開始。「安定運営のためにも、常に集客と収益性を意識しつつ、今後も新たな取り組みを続けていきます」(高橋氏)


画像 MUKOnoa+が開設された西宮北口キャンパス、メールマガジン


卒業生の存在という大きなアドバンテージをベースに分野の拡大と地域への浸透を目指す

 こうした取り組みが、大学全体の価値向上につながってきているという。「保護者に向けた説明会や附属の中学・高校で紹介されるなど、『生涯にわたって寄り添う』という姿勢を示すセンターの存在が大学のアピールポイントとなってきています。今年度からは、新入生の必修科目である初期演習でも紹介されるようになりました。『卒業後も安心して相談できる』、と」

 「学内への急速な浸透は、西宮北口キャンパスの取得で学院の本気度が全学に示されたこともありますが、理事会や職員の部門長会議、FDの場などでの各所への頻繁な活動報告の効果もあるでしょう。数字だけではなく、(プライバシーに配慮しながらではありますが)どの学科の卒業生からどんな内容の相談があったかなど、具体的なケースも共有。それぞれの教育内容の改善に役立っています」(高橋氏)

 現在の利用者は20代・30代の卒業生が中心だが、今後は、総合大学の強みを生かして分野を拡大、より上の年齢層、さらには卒業生だけでなく性別問わず全てのビジネスパーソンへと利用者数・受講者数を伸ばしていきたいと高橋氏は言う。

 「商工会議所との連携、経済産業省事業の指定などで卒業生以外の申し込みが増え、講座受講者については5割が非卒業生です。5月からは利用企業への西宮商工会議所からの助成もスタート。地域に開かれた年齢・性別関係なく利用してもらえるキャンパスを目指しています」(高橋氏)

 トップがはっきり方針を示し、丁寧な外部環境のリサーチと保有する資源をもとに明確に戦略を策定。組織外の資源を有効に活用しながら、具体の取り組みについては現場に思い切って権限を委譲し、組織として支援していく…。『MUKOnoa+』の取り組みは、まさに先進企業の新規事業戦略だ。

 「本学が輩出している卒業生は毎年約2300人。ロイヤリティが高い将来の利用者がコンスタントに増え続けるわけで、それは一般の企業では考えられないアドバンテージ。感謝してやっていかなければと思っています」(高橋氏)



(文/乾 喜一郎 リクルート進学総研主任研究員[社会人領域])


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