入試は社会へのメッセージ[10]学びの探究入試/明星大学
大学改革の素地となる探究学習層を専用の入試で獲得
明星大学は2024年度より総合型選抜「学びの探究入試」を導入した。その趣旨や背景について、アドミッションセンター長の大矢直樹氏にお話を伺った。
探究支援と大学改革のクロスポイントを探る
まず、改革の背景を押さえておきたい。明星には、2020年に落合一泰学長が就任後公表した、新しい大学ビジョンと教育目標、そしてそれらに基づき学内に向けて方針として示した「明星大学教育新構想」がある(図1)。IT人材の育成とSociety5.0への対応を掲げる国の政策を背景に、大学として目指す方向性がクロッシング教育であり、時代に即した教育を掲げる以上、そうした教育改革に合う人材を入試でいかに選抜できるか。今回の新入試設置の検討において、こうしたあるべき姿という文脈があったのは間違いないが、設置の軸足として最も大きかったのは、高校の新課程「探究」導入だった。「探究学習で伸びた高校生の資質・能力を、どのように本学の教育でより成長させることができるか。高大接続教育の観点からも議論を重ねました」と大矢氏は当時を振り返る。「多摩に根差す」大学として、地元エリアの高校の現状や意向を細かく吸い上げながら、現場でブレストを重ね、アイデアをブラッシュアップして原案を作っていったという。
今後の大学改革検討の素地となる層の獲得を目指す
「本学の学科の学びを理解するのに合わせて自己の方向性との整合性を確認し、進学目的を明確にする機会を提供することで、学びに適合した志願者を育成するという観点で入試を設計しました」と大矢氏は設計意図を語る。入試は定員を満たす手段というだけではなく、大学教育の一環であり、高校教育までで育まれた生徒のキャリア観と大学の学びを接続するための装置でもある。そのうえで、これまでの入試で獲得している層とは異なる多様な入学者を獲得するという意図もこめ、「探究学習について興味関心の高い生徒は学ぶ楽しさを知り学ぼうとする意欲が高い生徒なのではないか。そしてそれは大学教育との親和性が高いのではないか」という仮説から、そうした層を獲得するチャネルを設置する意味合いで入試を考えたという。既存のやり方では獲得できないが、明星大学独自の学修者本位の教育に馴染みやすい層を獲得するための入試の検討。そして、そうした層をどのように大学でさらに成長させることができるか、今後の大学教育を大学と共に歩みながら創り上げていく資質を備えた層を獲得するためでもある。
なお、明星は同時並行で入試実務の業務効率化・システム導入も検討・実施を行っている。多様な入試設計には効率的な入試業務が必須であり、同時並行で検討していかなければ、理想論先行では現状とのギャップを現場が人力で埋めなければならず、疲弊することは目に見えていたからだ。紙幅の関係で詳細は割愛するが、「ランディングの先々の見通しが立てば、あらゆる変化に対応する基盤を整えることになります。目的を完遂するためには同じベクトルのものとして並行して進めました」と大矢氏は述べる。
受験生の学びが起点の入試設計
本入試は「課題を発見し、情報を集め、整理してその要点を的確にほかの人に伝えられる力を総合的・多面的に評価する」ものだ。高校の授業や個人の探究学習の成果、または試験当日に与えられた課題にそって情報を整理し結果を説明する力等を、ポスター発表やプレゼン等を通してアピールする。その方法は学科ごとに異なるが、「自分の探究活動を他者に説明する」というプロセスが共通している。そして、学内外を問わず、高校での探究的な学びをそのまま活かして、大学での学びにつなぐことができること。ここが、志望理由を小論文や面接でアピールする通常の総合型選抜との違いだという。
大矢氏は、「志望動機を中心にした総合型選抜ではなかなか引き出せなかった内容や個性を、学びの探究入試では、探究を核にすることで引き出したい。面接担当者が投げかける質問に受け身で対応するのではなく、受験生の発信が起点となる選考プロセスにしたかった」とその意図を語る。そのうえで、学科ごとに評価方法が異なるのは、アドミッション・ポリシーに即した選抜にするためである。学科ごとに「入学までに必要な素養」「入学後に身につけてほしい能力」が異なるため、探究のテーマが学科の学問領域と関連する必要がある学科もあれば、そうでない学科もある。受験生側の学びを起点としつつ、評価方法は学科ごとに定めている(図2)。
期待以上の手応えと超えるべき広報課題
実施してみての手応えはどうだったのか。「受験生を中心に置いた自由度の高い入試だからか、和気あいあいとした雰囲気の面接が多く、対応した教員の満足度は概ね高かったようです」と大矢氏は述べる。高校での探究を楽しんだ層に対するアプローチとして、高校での学びの延長線上にこの入試を位置づけたい。それが大学教育の準備状況を評価するものとなるようにしたい。高大の接合点を模索する試行錯誤がひとつの帰結をみたと言えそうだ。
今後について大矢氏は、「実績を重ねるなかでチューニングを重ね、運営負荷と効果のバランス、一人ひとりの個性をきちんと見極めるために適正規模を模索したい」と述べる。
また、広報認知の課題は大きいという。大矢氏は、「幸い高校の先生からは探究活動を促進・支援するものとして前向きに捉えられている」とする一方で、「入試自体の狙いやコンセプトについてはまだまだ知られていない」と気を引き締める。大学が求めることと、それが入試でどのように問われるのか、あるいは大学はどのような教育を行っているのかといった点についても、高校訪問等で積極的に伝達していく必要性を感じているという。「入試やオープンキャンパスで待っているだけではなく、その前段階から探究支援に注力し、学びの楽しさを提供し、その先に入試があるようにしていきたい」という。それが多摩に根付くということでもあろう。落とす入試より個性を活かし、育む入試としての今後の展開が期待される。
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