高校教育改革の本質と高校現場の現状①(荒瀬克己 大谷大学教授)

高大接続一体改革の中で、高校の教育改革はどう進んでいるのか。
「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が話題となっているが、高校教育そのものの中身についても、質の保証・向上を目指して、以下のような観点から具体的な改善や制度的な改革が推進されている(図表1)。


①学習・指導方法の改善と教員の指導力向上 ②教育課程の見直し ③多面的な評価の推進
高校現場経験が豊富なうえ、高大接続システム改革会議ほか中教審各部会で委員を務める荒瀬克己教授に、高校における高大接続改革の内容と、改革に向けた高校現場の状況をうかがった。

Interview
――大学と比べて、高校は学校数が多いうえ生徒のタイプも多様です。そのため改革は進むのか、という声も耳にします。今回の高校教育改革は、現場ではどのように受けとめられているのでしょうか。
 これまでも、高校では様々な教育改革が行われてきました。ただ、「総合的な学習の時間」にしてもキャリア教育にしても、「生徒にどのような力をつけるのか」といったところが主眼で、我がことではないと感じていた教員も少なからずいたように思います。
 ところが今回の教育改革では、アクティブラーニングの視点からの指導方法の改善等、授業のあり方まで問われています。これは、全教員に関わることですから、相当なインパクトがありました。そのため、「どうやればいいのか」「本当に意味があるのか」、逆に「これは面白そうだ」という
具合に、この話題でもちきりです。都道府県や管理職、教員により温度差はありますが、広く関心が高まっていることは間違いありません。

――そうなのですね。アクティブラーニング等指導方法の改善については後ほど触れるとして、今回の教育改革では、「学力」を広く捉え直していると思います。先生自身は、「学力」をどのように捉えているでしょうか。
 小林さんや私が委員を務める高大接続システム改革会議は、2015年9月の「中間まとめ」で、高大接続答申(2014年12月)に基づき次のように定義しました。
「十分な知識・技能」
「それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだして
いく思考力・判断力・表現力」
「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」
これは、学校教育法第30条第2項で示された、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」という、初等中等教育で重視すべき学力の3要素を踏まえて、敷衍したものです。
 さらに、私が委員を務める中教審の教育課程企画特別部会では、2015年8月の「論点整理」において、育成すべき資質・能力の要素として、3つの柱を立てました(図表2)。


①何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)
②知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)
③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(主体性・多様性・協働性、学びに向かう力、人間性等)


 これは次期学習指導要領の根幹をなす考え方であり、学力を相当幅広く捉えた点に特色があります。特に③は、以下のように情意や態度に関わるものまで含まれるとしています。即ち、主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力、多様性を尊重する態度と互いの良さを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優
しさや思いやり等です。
 学習指導要領の改訂に向け、学力についてしっかり掘り下げたことは非常に重要です。

――先生は、高大接続システム会議の中で「多面的な評価を検討するワーキンググループ」の主査もなさっています。多面的というのは、生徒のそうした幅広い能力まで評価するということでしょうか。
 はい。これまであまり評価してこなかった定性的なものを評価するのは至難ですが、そこに取り組んでいこうという方向で議論が進んでいます。もちろん、1点刻みではなく段階別に評価することになるでしょうが。
 同時に、各科目の評価に当たっては、これまで小中学校と比べ重視されてこなかった観点別評価を高校でも十分活用する必要があるとしています。観点自体も、学力の3要素を踏まえ、「知識及び技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」に見直します。これにより、「この生徒は基礎的な知識・理解は十分ではないけれど、手にした力を積極的に使おうとする意欲はある」とか、「関心はあるけれど、技能が不十分だから使えない」といった評価も可能になります。調査書を書くうえでのベースとなる「学習指導要録」についても、観点別学習状況の記載欄を設けるなど、学習指導要領の改訂に伴い、拡充させることを検討しています。

――とはいえ、高校の教員が評価しにくい活動もあると思いますが、そうしたものはどう扱うのでしょうか。


 無理に評価する必要はないように思います。ただし、生徒の具体的な活動をきっちりと把握している必要はあります。指導要録や調査書には記載できませんが、生徒自身の自己評価を見るこ
とも重要です。各種資格やコンテスト・コンクール等の成績、ボランティア活動、総合的な学習の
時間における取り組み、生徒会活動、部活動等について正確に伝えることは高校の務めです。どう評価するかは、大学のアドミッションポリシーに関わる問題だと考えています。
 先ほども言いましたように、大学入学者選抜で使われるかどうかはさておき、生徒自身が、「自分の取り組んだこと、考えたことがきちんと評価を受けるのだ」と納得できるのは大切なことです。自己肯定感にも繋がるでしょう。
 生徒自身が、自分を振り返り、自分の「いま」と「これから」、つまり、どうありたいのかといった考えをまとめることも重要です。よく聞く話ですが、評定平均値が高いにも拘わらず、指定校推薦の際、大学に提出する志望理由書が十分に書けないという生徒がいます。その大学で何をしたいのかが言葉にできない。思いはあるけれど言語化できないのは訓練すればよいのでしょうが、言語化するべきものがないのは、とても不幸です。

 そこで私見ですが、全ての高校生がキャリアプラニングする機会を作ってはどうかと思っています。小中学校から積み上げる形で高校に引き継がれ、その過程で何度も本人が書き加える。これが、大学の合否判定材料になってもいいのではないかと思います。多面的な評価とは少し意味合いが違いますが、これからは、評価を受ける材料を生徒自らが作ることも大切だと思います。


――これまでずっと、点数で測れる狭義の学力こそ公平な判断材料だと思われてきましたが、今、なぜ、このような多面的な評価が必要になってきたのでしょうか。


 高大接続システム改革会議においても、「公平な評価は大切だが、果たして公正な評価ができていたかどうかは分からない」という議論がありました。同じ一つの物差しで測るという点では公平だったかもしれないが、その生徒の評価として公正だっただろうか、という問題提起でした。評価するべき能力はほかにもあるのに、点数化しやすいものだけで比べ、みなで納得していたわけです。
 求められる能力にしても様々です。例えば、独創的なアイデアを出すことに秀でたA君B君C君が、それぞれのアイデアを出し紛糾していたとします。そこへD君がやってきて、3人の話を聞いたうえで、「では、こんな組み合せはどうだろう」と提案し、話がまとまった時、このD君の調整力もまたひとつの優れた能力です。できれば、こうした力まできちんと評価できるようにしていきたいのです。

VOL②へ続く