徹底した個別サポートで学生の主体性を育てる/東京未来大学

東京未来大学キャンパス


 4年制大学への進学率が18歳人口の半数を超え、他方で大学への進学が容易になった現在、明確な意図を持たないまま大学に進学してくる層が生じてくる。そうした者も、大学で新たにやりたいことが見つかればそれでよいのだが、そうでないと大学からドロップアウトする。高校中退と比較してさほど耳目を集めない大学中退であるが、実は高等教育機関全体で11万7000人※にのぼり、その数は増加傾向にある。この中退率には、進路変更や経済的な困窮を理由とする者も含まれるが、そうではなく、大学に留まる理由が何も見いだせずに中退する者も多くいる。高校よりも個人の自由と選択の幅が広がる大学では、そうであるがために容易に中退する。中退者が多い大学では、何とか大学に意味を見いださせ卒業に至らせようと、様々な支援の手を差し伸べる。その工夫を重ねている、東京未来大学(以下、未来大)の取り組みを紹介しよう。

大坊郁夫 学長

 未来大は「こども心理学部」(定員280名)、「モチベーション行動科学部」(定員60名)の2学部から成り、こども心理学部は「こども保育・教育専攻」と「こども心理専攻」の2専攻を持つ。法人は全国で手広く専門学校を展開している三幸学園であるが、大学の設立は2007年、モチベーション行動科学部の設置が2012年と、小規模な新しい大学である。開学以来、就職希望者の就職率は毎年90%以上であり、公立保育士・公立幼稚園教諭、小学校教諭をはじめ、一部上場の企業への就職者も年々増えている。こうした大学へ進学してくる学生とはどのような特性を持つのか。大坊郁夫学長は次のように語られる。「新入生時点では、それまでの学校教育において成功体験をあまり持たず、基礎学力の点でも学習習慣の点でも、大学生活にすぐには適応できない者が少なくないのです。こども保育・教育専攻は、保育者になることを目標にしている者が多いのですが、こども心理専攻やモチベーション行動科学部は、積極的に将来起業したいとか、生徒の意欲を高める教育者になりたいという者がいる一方、受け身的な学生が多いように感じます。また、通信制高校出身者のなかには過去の不登校経験のために、集団で授業を受けることが容易ではない者もいます。こうした多様な学生のモチベーションを如何に高め、自己効力感を持って行動できるようにするか。本学の教育はそれを方針として掲げています」。

図表1 3方向からのサポート

 未来大の中退率は学年や学部を平均すれば、全国平均からすると低い数字であるにも拘わらず、さらにこの数値を少しでも下げるべく、そしてまた大学への入学を許可した以上、きちんと付加価値をつけて社会へ送り出すことをモットーとし、中退防止に力を注ぐ。その具体策は、図表1に見るような3方向からの学生サポートである。

CA(キャンパスアドバイザー)の活躍

 この3方向からのサポートのなかでも、特色あるサポートはCA(キャンパスアドバイザー)であろう。未来大は1~4年次までクラス制を敷いており、クラスに1名CAを配置している。CAの存在なくして、入学者の大学生活への適応は成り立たないと言っても過言ではない。CAは学内組織で言えば学生係の下部に位置する大学職員であり、その役割は多岐にわたる。

 学生の入口~出口までに関わり、オープンキャンパスの運営・高校生の進路相談から始まり、入学後はクラス運営・履修相談・学生生活の相談・就職相談まで、入学から卒業までの学生サポートを一貫してCAが行う。そのためCAに求められる能力も多様であり、コミュニケーション力はもちろん、課題発見力・状況把握力・実践力・統率力・適応力・計画立案力等の高いスキルが求められる。学生と年齢の近い、30代前後の若い職員がその役を担い、現在20名ほどのCAの約3分の2が女性であり、身近な社会人の先輩として積極的に学生に介入し支援する。全ての学生に対して定期的に半期に1回(年2回)は面談し、欠席しがちな学生に対しては、電話での呼び出し・保護者への連絡による学生の状況の確認等の配慮をし、学内のイベントに誘い出し、就活シーズンになれば綿密なアドバイスをする。もちろん、学生からの相談の申し出には丁寧に応じる。学生を欠席させないよう、学生が個別に抱える困難を見つけ出し、それに迅速に対応する。対応は全て1対1、相談に応じた学生一人ひとりのカルテを作成し、そこに相談内容や対応方法を書き込み、それを引き継いでいくのだそうだ。

 学生は自分に親身になってくれるCAには、次第に心を開いていくという。自分の存在を認めてくれる人がいるという感覚の醸成が、大学に留まる意味を見いだすことにつながっていくのだろう。

 ここまで学生の面倒を見るCAの育成は簡単ではないが、学生への対応方法は、先輩職員からの指導によるOJTが主であり、それとともに週一回CA全員が顔を揃えて相互に情報を交換しつつ、対応方法を身につけていく。また、CAのハンドブックを作成しており、統一の指導ができるように工夫がなされている。

プロジェクトへの巻き込み

 大学に学生をつなぎとめる工夫の1つは、学生が主体的に参画する場の設定であり、毎月のように何らかのイベントが企画されている。4月の入学式前のスタートアップセミナー、6月の未来祭(学園祭)、7月のプレゼンテーション大会、そして最も大きな企画が11月の三幸フェスティバル(体育祭)である。これらのイベントは「プロジェクト」と呼ばれ、1・2年生は全員参加で、学生が主体となっての企画で実施される。こうしたプロジェクトのなかで友人を作って一体感を得、組織を作り上げていく意味を理解し、自らが参加することで何かが成し遂げられる喜びを実感していくのである。

 また、CAの役割は相談役だけではない。学生の可能性を見つけ、その可能性を最大化させることも重要な役目である。CAが受け持つ授業(カレッジ&キャリアスキルズ)で、毎回ポートフォリオを作成させ、学生個々の気づきを確認する。プロジェクト等への参加に際しても、CAは社会人目線からアドバイスをし、社会人基礎力の育成に注力をする。

 こういったプロジェクトを通して、PDCAを繰り返し、学生の小さな成長を確認し、CAがタイムリーにフィードバックをすることで、学生の成長実感を高めていく。

 学生自らがこれらのプロジェクトを遂行させるための仕組みが、「学友会」である。この組織は図表2に示したように、全ての学生が参加している。その学友会の中心組織が学友会代議委員会であり、そのもとに大学祭実行委員会・クラブ委員会等、学内の活動を主導する委員会から、学外の地域と連携する地域連携推進委員会、オープンキャンパスで活躍するキャンパスクルーを統括する広報委員会等の各種委員会が置かれ、それらが学生の自主的な参画によって維持されている。

図表2 学友会組織図

 これらの委員会は、いわばサークル活動のようなもので、これらに積極的に参加することは、大学生活をエンジョイすることにもなっており、参加することで達成感や自己効力感を得ていくという。興味深いことに、当該大学では入学生の90%程度が、オープンキャンパスに参加したことが進学の決定要因となっているという。そうであればオープンキャンパスの役割は大きい。そこで活躍するのが広報委員会のキャンパスクルーである。年間を通じて約40回開催されているオープンキャンパスでは、50名ほどの学生がキャンパスクルーとして学内を案内し、高校生の進路相談にのり、未来大で学ぶことの楽しさを伝える。キャンパスクルー達も、高校時代にキャンパスクルーに魅了されて進学をした者が多く、その魅力を高校生に伝えるには適任である。そして、未来の下級生に対して先輩の役割を果たすことが、自信や誇り・愛校心醸成につながっていくという説明は、とても納得できる。

 また、地域連携推進委員会は、80名ほどの学生が参加しており、「こどもみらい祭」や「クリスマスコンサート」等、地域に結びついた様々な活動を行っている。また、未来大の学生が中心となって、足立区にある他大学の学生と「Adachi Students Network」を立ち上げて活動し、足立区に住む人々にインタビューした記録を「足立人図鑑」としてウェブ放送する等、活動の範囲は大学を越える。

 高校までの学校生活であまり得ることのなかった成功体験は、こうしたイベントへの参加によって初めて得ることができ、そこに大学生活を継続することの意味を見いだしていくのである。未来大では、これらの活動を学外活動とは位置づけていない。そうではなく、学生が成長するためのTFU人材育成プログラムの両輪の1つである、「プロジェクト」なのである(図表3)。

図表3 TFU 人材育成プログラム

積極的なFD活動と授業の工夫

 このTFU人材育成プログラムのもう1つの輪が、いわゆる大学教育(教学)である。ここには、どのような工夫があるのだろう。教職員は、どのように学生をサポートしているのだろう。興味深いのは、学生に対して、例えば「疲れた」「これは無理」といったネガティブな言葉を絶対使わないように周知していることである。これまでの学業生活においてネガティブ志向が強い学生が多いなか、教職員がそれを増幅するようなことはしないことが原則なのである。

 近年でこそ喧伝されているアクティブラーニングであるが、未来大では設置当初より、学生参加型の授業を主軸に据え、地域の体験型学習、企業でのインターンシップを多くし、その背後では労働市場に出ることの意味をキャリア教育で教えるという、きめ細やかな授業によって学生の勉学への意欲を引き出そうとしてきた。

 それを可能にするのが全学的なFD活動である。学生の授業評価アンケートによって毎年ベスト・ティーチャーを選んで表彰したり、半期ごとに1~2週間を授業参観週として設け、教員が互いの授業を参観して授業の工夫を学んだりと、授業の質向上の仕組みが整っている。

 年2回の全体会議において、全教職員が参加するFD活動を実施し、授業の工夫について意見交換する場があるという。座席の決め方、携帯を授業に取り入れる方法、また、学問と学生の日常生活や地域との関係を結びつける方法等、どうやって学生が授業に出ることに興味を持たせるか、些細な取り組みから大きな課題まで、議論は尽きないという。

 またこの活動には、3年前から学生の参画を許している。試行的な取り組みではあるが、いずれ正式に組織化し、学生の意見を吸い上げることで、より学生を意識した授業展開ができるのではないかと企図している。こうした活動の結果として、学期ごとの授業評価アンケートの平均値は5段階中4.21と、高い成果を残している。

 図表1にあるように、専門科目の教員が上述のサポートをするとともに、教員はクラス担任となって学生に個別対応する。教員1人当たりの学生数は20~30人弱であり、学生一人ひとりに目配りができる範囲である。こうした3方向からのサポートがあってこそ、学生は大学生活の意味を見いだしていくのである。具体的な事例を学長や事務職員の方々から聞くにつけ、こうしたサポートがなかったならば、中退率はこの程度で留まることはなかったろうと思う。

中退防止の要の時期

 一般的に中退が多いのは、1年次と2年次である。この時期に大学生活に意味を見いだすことができれば、3年次・4年次の中退は防止できる。当該大学の3年次・4年次での中退率は年々低下しており、上記の各種取り組みが徐々に効果を発揮しているようである。

 対策は早ければ早いほうがよいというのであれば、AO入試で入学を決めた者への対処は1つの方法である。未来大では、9月に決定するAO入試での入学者に対しての対応も既に始めている。入学前教育として、ノートテイクの方法を教え、読解用の文章を要約して提出させ、大学での学習への準備にあてている。現在は、入学前に2回であるが、さらに回数を増やす予定である。また、補習教材のeラーニングも用意しているという。鉄は熱いうちに打てのたとえの通り、大学入学前に学習の意味を教えておくことが、入学後の適応を早めるであろうことは理解できる。

 そして、大学入学直前の3日間のスタートアップセミナーでは、オリエンテーションとして、挨拶から始まる礼儀を学び、いわゆるコミュニケーション能力を涵養し、教員やCAとの語らいのなかで4年間の目標を立てること、友人を作ることを目標としている。これに参加してから入学式を経ることで、1年次の春学期の授業にスムーズに適応できるという。

 入学前や入学直前のこうした措置は、意外なほどに効果があるのだそうだ。これらは学生にとって、新たなスタートを切るうえでのモチベーションになるのだろう。

今後の課題は経済的困窮が真因のケース

 これらの方策が実績を伴っていることは、リクルートによる高校生対象の「進学ブランド力調査2016」において、関東地域で「学生の面倒見がよい」大学で8位にランクされていることからも証明できよう。

 ただ、こうした結果に安住できないことを、学長をはじめ大学関係者は異口同音に語られる。このように多々手を尽くしても、中退者は完全にはなくならないのである。中退者がその後、どのような進路をとっているのかは気になるところだが、実際にはよく分かっていない。ただ、どちらかといえば、併設の通信教育課程・専門学校・他大への転学者等高等教育機関での学業継続者が多く、就職する者は多くはないという。学業継続者のほうが多いということから、当該大学でも中退者に対しての再入学制度を設けているが、これまでのところその利用者はほとんどない。

 中退が単なる進路のミスマッチであれば、それはそれでよい。早めの進路変更は本人の将来にとって意味がある。

 問題は、中退の原因が複合的である場合が多いことである。学業不振のように見えて、その背後には、経済的要因が深く関わっていることも多く、必ずしも本人の学業成績や意欲だけに帰すことができないのである。実際、日本学生支援機構からの奨学金の受給者は在学者の43%にのぼっている。こうした問題への対処として、卒業生や、卒業生が就職している企業等の支援を受けての後援会を設置して、経済的困窮にある学生を救いたいと、学長は思いを吐露される。現在、成績優秀者を特待生として授業料の免除をしているが、その多くが経済的な困窮者でもあるという。

 家計に依存する高等教育システムを持つ日本では、進学率が50%を超えるという事態は、経済的な困窮を抱えつつ大学へ進学する層を多くしていることにもつながる。それが集中して現れやすいのが新設の小規模大学である。困難を抱える大学であっても、多方面からのサポートによって救われていく学生がいる。こうした地道な努力が積み重なって日本の大学は成り立っているという思いを強くする次第である。

(吉田 文 早稲田大学教授)


  • 日本中退予防研究所(2010)『中退白書』より


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