経営戦略としての学費(カレッジマネジメント Vol.177 Nov.-Dec.2012)
長引く不況により、世帯収入が減少している。厚生労働省は2011年国民生活基礎調査において、2010年の1世帯当たりの平均所得が538万円と前年比11万6000円(2.1%)減少したと発表した。23年ぶりの低水準で、これまで最も多かった94年と比べて約126万円の減少となっている。特に18歳未満の未婚の子を持つ、子育て世帯の減少が大きく、前年比39万2000円(5.6%)減少した。
こうしたことから、高校生の保護者が進学検討において重要だと思う情報が、変化している。全国高等学校PTA連合会とリクルートの合同調査である「高校生と保護者の進路に関する意識調査」によると、保護者が進路検討に最も重視する情報が、2007年時の「入試制度」から、2011年には「進学費用(学費・生活費など)」に変化している(図表)。
一方、大学の学生募集の観点から見ると、学費はとるべき戦略の一つである。マーケティングミックス戦略で用いられる4つのPがある。4つのPとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、そしてPromotion(プロモーション)である。大学においては、Productにあたる学部・学科やカリキュラムの改編は、常に積極的に行われてきた。また、近年はキャンパス移転や再配置、地方入試など、Place戦略にも力を入れている。また、学生募集広報(Promotion)も戦略的に行われている。こうした3つのPに比べて大学はPrice戦略には、あまり積極的でなかったように思う。しかし、長引く不況の影響から昨今、入学検定料における併願割引制度の導入が多くの大学で進んでいる。加えて、インターネット出願により、受験料割引を実施する大学も登場した。
2012年度には、募集の厳しかった歯学部や地方で学費値下げを実施した大学があった一方、競争力のある大学では授業料を値上げする大学もあった。また、国公立との差額分を奨学金で支援する制度、地方学生に向けた奨学金を充実させる制度など、大学の置かれた課題に対応し、戦略的に学費・奨学金を活用する大学が増えてきた。
今回の特集では、学費・奨学金をどのように戦略的に活用していくのか、文部科学省科学研究費「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」と小誌の共同プロジェクトで調査を実施した。その結果を報告するとともに、戦略的に学費・奨学金を活用している事例をご紹介する。
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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長
小林 浩