新型コロナウイルス流行は高校生の進路選択にどう影響したのかを振り返る──リクルート進学総研「コロナウイルス流行による進路選択行動影響調査」より

新たな入試制度の中で進路選択を迫られることとなった高校生達は、折しも人類の誰もが経験したことのないウイルス流行という危機にも見舞われることとなった。前例や経験が通用しづらい、変化の激しい状況の中で、何を考え、どのように行動したのか。2020年度末に1年を振り返る形でその実態を彼・彼女達に尋ねた。


図 調査概要


 2020年度がどのような年であったのかについては、あらゆる場所で語り尽くされているといってもよいだろう。もとより高大接続を目的とした入学者選抜の改革元年と言われ、全ての受験生にとって先人のいないチャレンジへの不安が高まっていたなか、新型コロナウイルス感染拡大という有史以来誰もが経験したことのない危機に社会全体が直面し、高校生を取り巻くあらゆる状況が混乱、一変した年である。

 リクルート進学総研においても、昨年夏に高校2年生及び3年生を対象に「コロナウイルス感染拡大による進路選択影響調査」を実施し、感染拡大によるその混乱の渦中で、高校生達が何を考えどのように行動しているのかについて把握した(本誌225号「高校生の進路選択に 『今』何が起きているのか」参照)。そして想定外の高校生活を余儀なくされた1年を、年度が終わる2021年3月に、改めて彼・彼女達に振り返ってもらい、進路選択行動を明らかにするための調査を実施した。新たな進路選択をした2021年卒の生徒(現大学1年生)達と、先輩達の様子を近くに見ながら自らの検討を進め、決定の年を迎えた2022年卒予定の高校生の意識について、その一部を紹介したい。

 なお、例年との比較をするために、3年に1回、進路選択行動を把握するために実施している調査「進学センサス」※1との比較を行っている。

 また、以降、調査当時高校3年生でこの春卒業した学生を「21卒」、現高校3年生を「22卒」と記述する。


①進路検討のための情報収集
行動が制約され、十分に「知る」ことができていない


 高校生が混沌としたコロナ禍の日々において、進路検討のための情報収集をどの程度行うことができていたのかを見てみたい。

 進学先として検討した学校数について尋ねた結果、「興味関心を持った校数」「資料請求した校数」ともに2019年の調査と比較して減少している(図表1)。高校生が認知し情報を得た学校からしか選ばないとすれば、昨年までの状況であれば高校生が志望校検討の俎上に乗るはずだった大学が、その機会を失ったとも言えるだろう。


図表1 興味関心を持った校数と資料請求をした校数(単一回答)


 また、志望校決定における重要な情報源であるオープンキャンパス(以下OC)がリアルで開催されず、高校生が大事にしている「雰囲気を知る」機会が失われたことの影響は、図表2の「コロナ影響を受けて進路検討に際し困ったことについて」の回答にも顕著に表れている。

 また、同じ設問において「特にない」という回答をした高校生も2割以上存在しており、十分な進路選択検討ができていないがゆえの状況である可能性が高いとも考えられそうだ。


図表2 新型コロナウイルス流行の影響を受けて進路を検討するにあたり困っていたこと/ 困っていること(複数回答)


 受験生がどの程度OCへの機会を失っていたのか。図表3「学校主催のOC参加校数」にある通り、進学センサス2019が平均3.9校であったのに対し昨年は2.5校に減少している。入試方式別で見ると、検討期間が短い総合型選抜や学校推薦型の減少幅が大きい。OC参加を通じた情報が十分に 得られないまま入学を決めた学生が例年より増えていると考えられる。


図表3 学校主催のOC 参加校数(単一回答)


 また、参加したことのあるOCの開催形式を聞いたところ(図表4)、WEB OCへの参加経験は3割にとどまっている。さらに、今後参加したい開催形式についての設問に対する回答(図表5)でも、キャンパスへ行くOCへの参加意向は8割と高く、WEB OCと比べると約2倍の結果となった。別の設問において、WEB上でOCが開催されていることを9割近い高校生が認知していることが分かっている。しかし積極的に参加したいものとはなっていなかったようだ。

図表4 参加したことのあるOC開催形式(単一回答)


図表5 今後参加したいOC開催形式(単一回答)


 このように多くのOCに参加することが叶わなかった21卒の高校生だが、実際に進学した大学のOCには参加できているのだろうか。

 図表6で進学先へのOC参加経験を聞いた結果を示しているが、35%の学生はOCに参加することなく入学を迎えている状況であることが分かる。これは、進学センサス2019よりも6.8ポイント増えたという結果だ。一般選抜においては、半数近い学生はOCに参加していない。OCでの体験・体感を通じて自分に合う大学かどうかを決める学生が多いことを鑑みると、その経験を経ずに入学したことによってアンマッチ感を抱き、ひいては中退につながるリスクも懸念される。


図表6 進学先のOCへの参加経験(単一回答)


 一方、リアル開催・WEB開催いずれかの形でOCに参加したと回答している学生は6割以上だが、このうちリアル参加は46%であり、リアル参加できていない学生は、求めていた「雰囲気・校風の体感」が得られないままに入学している可能性がある。

 ちなみに、大学がどのような学生を求めているかという情報は収集できていたのかを、図表7の「アドミッション・ポリシー(以下AP)の認知度と役立ち度」から推察してみる。APについては、高3だった21卒では60%が「名前も意味も知っていて、個別校について調べたことがある」と回答していることから、一定浸透しているようだ。またAPを知っている高校生のうち、「役に立った」という回答は9割近くにもなった。高校現場でもAPの内容を活用して志望校検討をする進路指導が年々進んでおり、このコロナ禍においても少しずつではあるが情報収集段階において不可欠なものとなってきたことの表れかもしれない。


図表7 アドミッション・ポリシーの認知度と役立ち度(単一回答)



②志望校決定、出願や入試への影響
安全志向・地元志向 色濃く


 情報収集段階においては少なからずコロナウイルス感染拡大が影響していたが、その後の志望校決定や出願や入試の段階においてはどのように影響したのかを見たところ、高校生がリスクを回避した安全志向が垣間見える結果となった。

 図表8は「コロナの影響を受けて第一志望校を変更したか」を尋ねたものだが、9割近い学生はコロナによる影響は「ない」という回答をしている。しかし、第一志望を変更した理由についての問いに対しては、「学力に合わせた」が最も多く、次いで「興味のある分野が変わった」「取りたい資格が変わった」「経済的な事情」「地元に残るため」と続いており、第一志望校変更においてコロナウイルス蔓延が社会に与えた被害が遠因となっている可能性は否定できない。

 特にアーバンとローカル※2で比較すると、「地元を出るつもりだったが残ることにした」「移動を伴う都市部での受験を避けるため」には10ポイント以上の差があり、コロナが影響し、地元への残留率が高まった理由となったと推察される。


図表8 新型コロナウイルス流行の影響を受けて、第1志望校を変更したか(単一回答)/変更の理由(複数回答)


 次に、出願の状況を見てみたい。高校生一人当たりの出願件数については、図表9にある通り進学センサス2019と比較して減少している。出願を1件に絞る学生が増加しており、エリア別では南関東で平均出願件数が約2件近くも減少している。これは、指定校推薦合格者が増加(後述)して専願合格者が増えたこと、総合型選抜も含め年内入試と一般入試との併願が減少した可能性が影響していると考えられる。出願校数については微減にとどまったという結果が出ているが、出願校が「地元の学校」か「地元外の学校」かについて見てみると(図表10)、「地元の学校のみ」が進学センサス2019と比較すると、大学進学者全体では1.5%微増にとどまるが、アーバン/ローカルで比較すると、ローカルの高校生は「地元の学校のみ」に出願したと回答した高校生が進学センサス2019(「家から通えるエリアの学校のみ」)と比べて13.9ポイントも増加しており、エリアを越えた進学を控えた傾向があることにも、コロナ感染拡大の影響が推測される。


図表9 出願した件数(単一回答)


図表10 進学先として「出願した学校」のエリア(単一回答)


 続いて、進学先への入試方法への影響を見てみたところ、進学センサス2019と比較して指定校推薦が7.2%プラスと大きく増えた一方、一般/共通テストで合格した学生は7.8%減少している。年内入試へのシフトはさらに強まっている。もちろんコロナ影響のみが理由ではないが、安定を志向して年明け入試を敬遠したことが窺える(図表11)。

 出願や入試といった「進学先を決定する」段階でも、直接・間接にコロナによる影響があったと思われる。


図表11 進学先へはどのような入試方法で合格したか(単一回答)



③自分らしい、納得のいく進路選択はできたのか
微妙な満足度 「学びたい分野を学ぶが叶う大学」を知る情報提供を


 図表12はコロナ禍での進路選択活動を振り返っての満足度を21卒の高校生に尋ねたものである。今回「とても満足している」「まあまあ満足している」の合計は約7割。同様の設問を2016年の調査(「進学センサス」)で聞いており、その結果と比較すると、エリアにばらつきはあるものの、平均で10ポイント以上減少していることが分かった。選択肢の内訳を見てみると「とても満足している」が17ポイント減少、「どちらでもない」が10ポイント増加、「満足していない」はほぼ変わらないことから、コロナによって進路検討が十分にできなかったことで、満足~どちらでもないという不完全燃焼な状態が感じ取れる。


図表12 新型コロナウイルス流行禍での進路選択となったが、最終的な進路選択活動を振り返って、どのくらい満足しているか(単一回答)


 図表13に示したのは、「キャンパスに行くOC」「WEB OC」に期待することを尋ねた結果である。21卒・22卒ともに、リアルOCに対しては「キャンパスの雰囲気」「学部学科のカリキュラムの説明」「先生の話」に期待し、WEB開催においては「お金がかからない」「どこからでも参加可」「遠方からでも参加可」と、それぞれに良い点を認識しているようだ。WEB OCに対する参加意向が振るわないことについては前述したが、WEBならではのメリットも高校生は理解している。WEB OC経験者がまだ多くはないことは、情報伝達の伸ばし余地とも捉えられる。ネットの利点を生かしたコミュニケーション設計次第でWEB OCが高校生に対する有効な情報提供の機会となる可能性はありそうだ。また、WEB OC上で大学の学びの一部を実感することは、オンラインコミュニケーションが教育のニューノーマルとなる今、大学入学後の満足度にもつながるかもしれない。


図表13 「キャンパスに直接行くOC」「WEB OC」それぞれに期待すること(複数回答)


 最後に、分野を変更した高校生に対してその理由を聞いた結果を紹介したい(図表14)。1位が「興味のある分野が新たに出てきたから」、次いで「将来就きたい職業やキャリアイメージが明確になったから」と前向きな理由が上位となった。このコロナ禍において、行動の制約や様々なリスクを感じながらも、未来のために自分らしい進学をしたいというこの思いを実現できる場づくりをすることがポストコロナにおける高等教育機関の役割となるのではないだろうか。


図表14 分野の変更理由(複数回答/ 志望分野変更者のみ)


  • リクルート進学総研「進学センサス2019」
    http://souken.shingakunet.com/research/2010/07/post-e53f.html

  • 以下の都道府県をアーバンとして定義し集計した。(その他をローカルと定義)埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県

(文/金剛寺 千鶴子)


【印刷用記事】
新型コロナウイルス流行は高校生の進路選択にどう影響したのかを振り返る── リクルート進学総研「コロナウイルス流行による 進路選択行動影響調査」より