保護者は大学に何を期待しているか

コロナ禍にある今、受験生を持つ保護者達は、子どもの進路選択に対してどのようなまなざしを向けているのだろうか。
そして進学先である大学の改革やコロナ禍における変化対応に対して、どのような期待を持っているのだろうか。
高校生の子を持つ3名に話を伺った。



谷口直樹さん

大阪府/大学進学希望・女子の父親 谷口直樹さん(52歳・会社員)
現在は警備の仕事に従事。4人のお子さんがいて、2021年度は高校3年生の次女と中学3年生の3女がダブル受験に。
次女は社会科の教師、あるいは中国語を生かした仕事に就くことを目指して文学部アジア文化専修(中国語文化コース)に進学。

「リモートが標準の今だからこそ学生に対するIT教育の中身が知りたい」

 娘はしっかりした考えを持っている子で、中学の頃から将来は中国語を学べる大学に入学したいと話していて、国際交流の制度があってなおかつ志望大学の推薦枠がある高校を選びました。娘が高校1年生の時に私達がホストファミリーとなり、ニュージーランドと台湾の高校生をホームステイで受け入れました。そしてその年の12月には娘が台湾にホームステイに行くことに。この経験で中国語を学びたいという思いが一層強くなったようです。

 志望校は早い段階から決まっていたので、娘とは3年生になった頃から今の成績で推薦が取れるかどうかを話しながら、娘の本気度を測っていました。同時に私は娘の志望校を含むいくつかの学校のカリキュラムを調べるために学校のホームページを閲覧しました。ところがホームページ上ではどこもカリキュラムについてはさらっと触れている程度で、詳しいことは分かりませんでした。そしてホームステイ以降、娘は台湾への関心を高めているので、それぞれの大学がどのような国際交流を行っているかも調べました。

 ただ、保護者として最も気になったのは就職についてです。学生はどのような企業に就職しているか、大学はどんな企業とつながりがあるのか。そして、就職について一人ひとりの学生にしっかりしたサポートをしてもらえるかなどは、なるべく詳しく、分かりやすい形で公開して頂けたらと思います。

 今はあらゆる分野でITが切っても切れない存在になり、大学でもPCを使うのは必須となっています。コロナ禍でリモート授業が行われたことで高校生もPCに触れていますが、理解度には差があります。大学に入ってからも、PCに不慣れな学生に対してどのようなフォローを行っているか。そして社会で求められるITリテラシーを大学でどこまで学べるかは、これからの教育において期待したいことです。

 娘が高校に通った3年間で感じたのは、大学の情報が高校を通して保護者に伝えられる機会があまりなかったということです。私はPTAの活動をしていたのでまだ少しは情報を得ることができましたが、そうでない場合は情報が入ってくることはあまりなかったのではないでしょうか。もちろん大学は高校に情報を伝えているのでしょうし、子ども達にはそれが伝わっているのかもしれません。今後は保護者にも情報が伝わるような活動を広げてほしいと思います。

【大学に求める情報発信】
大学のコロナ対応の基準を詳細に公開してほしい
コロナ禍でほとんどの大学でリモートでの講義を余儀なくされました。対面授業を再開した学校も多いと思いますが、どういう状況になったら対面から再びリモートに切り替わるのか、等が知りたいですね。保護者としても、自ら情報を情報を取りにいくべき時代にありますが、さらに詳しい情報提供があると保護者の立場としても安心します。






小谷美幸さん

東京都/大学進学希望の女子の母親 小谷美幸さん(43歳・保育士)
東京都在住。保育士として22年間現場で働き、現在は都内の保育園で主任保育士として勤務。
2人のお子さんがいて、高校2年生(取材時)の長女は、元々は心理学に興味を持っていたが、現在は法学部への進学を希望。

「コロナ禍で揺れる、青年期にある学生の心に働きかける取り組みに期待」

 進路について娘と話すようになったのは一昨年の夏休み。高校1年生の時です。高校で“保護者と一緒に興味ある学校について調べ、ワークシートを作成する”という課題が出て、娘と一緒に興味ある学校のホームページを見たり、オンライン説明会に参加しました。これが親子で将来のことを考えるきっかけになりました。

 娘は自分のタイミングで考えて動いていく性格です。私も口をはさみたくなる性格なのですが、進路に関しては私から急かすことはせず、何か聞かれたり相談された時に背中を押してあげられたらと思っています。

 行事が中止になったりリモート授業を余儀なくされたりするなど、コロナ禍は娘の学生生活にも大きな影響を与えています。一方、おうち時間が増えて逆に良かったと感じることもありました。娘は映画やドラマが好きなのですが、制作者がどんな学校を卒業したかを調べ、そこから興味を持って大学のことを自分なりに調べたりしています。

 私から娘を急かさないよう注意していますが、何か聞かれたときには答えることができるよう、高校の友達の保護者と話したり、大学のホームページを見て学校の全体的な雰囲気や就職先等を中心に情報収集をしています。娘も学校のホームページ、卒業生の声や口コミ評価などで学校のことを調べているようです。本来ならオープンキャンパスや学校説明会に積極的に参加してそこに通う学生や学校関係者の雰囲気を感じたいのですが、現状ではなかなか叶いません。大学はホームページに色々な動画を載せてくれていますが学生や先生の雰囲気までは分からないのが残念ですね。

 一度娘と一緒にオンラインでの個別相談に参加しました。時間を区切り、興味のある学部の教授が大学の説明をしてくださるイベントでした。先生の話し方や雰囲気から温かみを感じることができ、とても有意義なものでした。もし実際に学校に通う学生とも話せるようなイベントがあったら参加してみたいですね。

 また、一生懸命学びたいと大学に入学したのにコロナ禍でオンライン授業ばかりになり、心が揺れている学生も多いと聞きます。そんな青年期の子ども達への働きかけや取り組みがもう少し見えてくるといいなと思います。保護者同士で話していても様々な情報が混在しているので、正しい情報を冷静に受け止めるためにも大学からの正確な発信に期待します。

【大学に求める情報発信】
奨学金の給付対象かを可視化できるようしてほしい
保護者同士で話題に上がるのは奨学金制度についてです。給付型奨学金の「学業成績等に基づき」というのはどのくらいの成績だと対象になるのか、「若干名」とは具体的に何名なのか等が可視化されると、自分の子どもが対象になりそうかが分かり経済面での計画が立てやすくなるのですが…。






村井繁夫さん

石川県/地元短大進学希望・女子の父親 村井繁夫さん(50歳・会社員)
製造業の会社に勤務。2人のお子さんがいて、長男は高校卒業後に就職。
高校3年生(取材時)の長女は将来地元で経営や行政での事務、観光業への就職を考えており、短大への進学を希望している。

 娘が通う高校は1年生で文理選択がありました。進路のことを話すようになったのはその頃からで、2年の2学期頃からより具体的に話し合うようになりました。私は受験の具体的なアドバイスではなく、学校で進路指導があったときやオープンキャンパスに参加したとき等に、社会の仕組みや娘が志望する業界に役立つ学びについて話していました。ここ数年はコロナ禍で世の中が激変したので、世の中の様々な業界にどんな影響があったか話す機会が多くありましたね。

 私が学生の頃と現在では、人気職種や将来性のある業界は大きく変わっています。また、世の中の変化のスピードが速く、5年後にはどう変わっているか分からない時代なので、どういう進路を薦めればいいかは悩みました。

 その短大で学べること、学生の就職先等は主に学校のHPで調べましたが、実際に通っている学生の声を知りたいと思い、口コミサイトのコメントも参考にしました。また、娘の先輩の保護者やそのくらいの子どもがいる知人から、実際に入学してお子さんはどんな様子かを聞くようにしていました。リアルな話は口コミサイト以上に参考になります。

 私が学生の頃と違い、学校改革が進む中で学部横断型のカリキュラムを用意している学校も増えていると思います。これは非常に面白い試みだと思いますが、複雑になった分、入学案内だけではどのようなカリキュラムになっているかが分かりづらいと感じることもありました。また、地元の学校に進学して地元での就職を希望していると、インターンシップをはじめ学校と企業が連携して学生のうちからどのような社会経験ができるかに関心があります。学校がどのような企業と関わりを持ち、どんな取り組みをしているかが可視化できるとうれしいですね。

 コロナ禍なのでリアルのイベントを開催するのが難しい面もあると思います。でもオープンキャンパスに参加できると、この学校に行きたいという思いは強くなると思います。参加者も感染対策をしっかりすることを条件にしてでもリアルなイベントは行ってくれるとありがたいです。また、学長をはじめ責任ある立場の方が講演等で「大学をこう変えていくつもりだ」「学生をこう育てている」といった形で、学校独自の方針を熱く語って頂く機会があったら、保護者としては聞いてみたいです。

【大学に求める情報発信】
在学生の保護者の経験談を聞ける機会が欲しい
オープンキャンパス等で大学に通う学生の話を聞ける機会はありますが、受験生の保護者としてはぜひ大学生の保護者の話を聞ける機会があるとうれしいですね。受験時のこと、どこを見てこの大学を選んだのか、入学後にどんな学生支援が役立っているか等、保護者目線で大学をどう見ているかが知りたいです。




入学者選抜─期待すること、不安なこと、大学の教育への期待、要望



(文/高橋満)


【印刷用記事】
保護者は大学に何を期待しているか