進む初等中等教育の探究/熊本県立鹿本高等学校

【PROFILE】熊本県立鹿本高等学校

創立1896年/普通科・みらい創造科/生徒数537人(男子308人、女子229人)/
進路状況(2022年3月実績)大学122人、短大9人、専門学校37人、その他34人



画像 熊本県立鹿本高等学校 川元氏、森氏、冨田氏


各教科の学びを、探究に生かせるように

 熊本県立鹿本高等学校は、地域と連携した探究活動に注力してきた学校だ。2019年には「みらい創造科」という新学科を創設。同校ではこれを機に、高校の探究学習の柱である「総合的な探究の時間(以下、総探)」だけでなく、他の教科の授業でも、探究的な学びを推し進めてきた(図1参照)。

 総探の授業では、1年次に「テーマ設定→情報収集→整理・分析→まとめ・発表」という過程をグループで体験。2年次は個々に興味あるテーマを追い、3年次は「自分は何がしたいか」という進路実現に向けた探究に取り組む。並行して、例えば「国語探究」では、地元の水俣病の問題について「問いを考える」「科学、道徳、法律など多様な観点から考える」ことに挑み、ものの見方・考え方を鍛える。「数学探究」では、自分の探究テーマに数学的にアプローチするためのデータ分析やグラフ表現を学び、「英語探究」では、探究したことを英語論文にまとめ、英語でプレゼンし、海外の学生との意見交換にも挑戦する。さらに全学年において、探究型クロスカリキュラムの学びも体感。物理×体育×情報の「50Mを速く走るには」といった授業や、数学×生物×美術×音楽×情報の「美しさとは何か」といった授業だ。

 全科目でこうした横断的な探究を進めるようになった背景を、指導教諭の川元隆一氏は次のように語る。

 「現在の世の中の課題というのは一つの分野だけでは解決できません。高校内でも教科の壁を取り払う必要があります。正解のない問いについて様々な角度や視点から考える中で、生徒一人ひとりの『思考力・表現力・判断力』そして『学びに向かう力』を育成することができます」。


図1 横断的な探究プログラムの全体像


教員同士で未完成の指導案を出し合う

 一連の授業開発で、中心的な役割を担ったのが「研究開発部」だ。進路指導部や教務部と同じく、学校運営の業務を分担した教員チームの一つとなる。この部の教員が集まって授業のあり方を話し合うほか、週1回は、同メンバーが各学年に散り、各学年団の先生全員で探究活動について議論しているという。時間割に組み込み、あらかじめその時間を確保しているのだ。

 研究開発部の設置は、みらい創造科を設けた2019年。同部が主導した探究・横断型授業の推進は、最初から全教員にすんなり受け入れられたわけではなかった。戸惑いの声もあるなかで、同部のメンバーが周囲に働きかけ、授業を共同開発するなかで、手ごたえを得る教員が増えていった。牽引した一人、森 孝文氏は、「指導案は未完成でいいので、互いにアイデアを持ち寄る」ことを大事にしたという。

 「授業を一人で考えるより、色々な専門性を持った先生方に頼ったほうが面白いものができると考えました。自分からもバンバン提案し、『どう思います?』と投げかけて先生方からもアイデアをもらい、一つのキャンバスをみんなで色づけしていった感じです」。

 探究活動をどのように評価するかも検討し、研究開発部の冨田枝里氏らを中心に、評価の観点や到達目標についても整理。2022年には探究活動の指針となる「鹿本Design」を取りまとめた(図2参照)。


図2 探究活動の評価規準「鹿本Design」


進学先でも異なる分野と交わって学んでほしい

 こうした実践は、生徒にはどう受けとめられたのか。冨田氏は「生徒の積極性が増した」と感じている。

 「例えば勉強が得意ではなく、自信を持てずにいた生徒でも、自分で探究テーマを見つけ、多様な人と対話したりつながったりしていくなかで、『頑張れば自分もこの社会で何かを変えられる』という感触を手にしてくれるのです。探究に本気になった生徒の姿がロールモデルとなり、下級生にもいい影響を与えています」。

 物事を多角的に捉え、そのうえで「社会でこんなことをしたい」という思いを抱く生徒も増えた。文系に進もうとしていた生徒が、探究活動で里山復興に関わるなかで将来象を見直し、志望学部を農学部に変更、未履修の受験科目を自ら懸命に勉強したこともあった。

 そうして走り出した生徒に対して、川元氏は、進学先でも専門の枠を越えて学ぶことを期待している。

 「大学や専門学校は専門性を磨くところですが、同時に、例えば様々な学部の学生とディスカッションする場もあってほしいのです。異なる分野とも交わり、新たな視点を得て、課題解決や創造につなげていく。そのような探究を続けていってほしいと思っています」。


画像 授業風景



(文/松井大助)


【印刷用記事】
進む初等中等教育の探究/熊本県立鹿本高等学校