学部間を連携したプログラムの学修歴をオープンバッジで可視化/法政大学
法政大学は、全学部共通科目「数理・データサイエンス・AIプログラム(略称MDAP)」や全学部共通の各「サティフィケートプログラム」を修了した学生を対象に、オープンバッジ(デジタル証明書)を発行している。導入の背景やその取り組みの具体策について、常務理事の平山喜雄氏に聞いた。
「大括り化」を起点としたサティフィケートプログラム
同大学は2014年、長期ビジョン「HOSEI2030」を策定している。その教学面でのテーマとして、大学としての教育研究体制を「大括り化」して再編成することを掲げている。その背景には、社会環境の激しい変化に伴い、人材教育に求められるものが文理融合等に象徴されるような総合知の醸成といった状況になってきたことがある。「大括り化」は、15ある学部がそれぞれ持つ多様な教育・研究リソースを有効活用し、学部間で連携することで大学としての特色を打ち出そうという方向性である。その際、学部統合という方法は、大規模大学の場合、組織的なハードルも高い。そこで、柔軟な連携による学びを「プログラムレベル」で実現、総合大学ならではの強みと独自性を明確化する。
具体的には、数多く存在する学部公開科目を発展させ、一定のテーマの下で系統立ててプログラム化している。まず最初に打ち出したのが、「SDGs」をテーマとするプログラムで、全学部から提供された「SDGs 科目群」の中から所定の単位を取得するというものである。このSDGsのプログラムを皮切りに、新しい都市を築くためのデザインを文理横断的に学ぶ「アーバンデザイン」、多様性の理解を深める「ダイバーシティ」の3つのプログラムが走っており、修了した学生には、修了証を出す。「学部横断のプログラムを履修した場合、成績証明書上では科目名が記載されるのみ。サティフィケートプログラムを通じて系統立てて学修をしたことは可視化されません。そこで、プログラムレベルとしての修了証を通じて、学修歴を証明することにしました。当初の発行形態は“紙”でした」と振り返る。
デジタル化で1000人規模の学びの証明を効率的に
さらに2021年度秋学期より、全学部共通科目として「法政大学 数理・データサイエンス・AIプログラム(以下、MDAP)」がスタート。MDAPはフル・オンデマンドで授業を実施しているため、受講者数の制限がなく、1000人単位で修了生が出るため、従来のように紙で修了証を発行するのは業務負荷が高い。そこで、オープンバッジの導入により、修了証の発行をデジタル化。MDAPでのオープンバッジ発行と合わせ、その他のサティフィケートプログラムも、紙で発行していた修了証をオープンバッジに転換した(図1・2)。「ブロックチェーンによる改ざんができない仕組みで、学修歴の可視化が実現できるという観点や、就職活動に際しても、学生がスマートフォン上や履歴書上で学修成果を分かりやすく示せることを鑑み、導入を決定しました」とオープンバッジの便益性を語る。
ディプロマに対する達成状況を可視化するDXの推進
同大学では現在、「DXイニシアティブプロジェクト」を推進中だ。文部科学省事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」にも採択され、学修成果可視化のデジタル化を図る。学内に点在する様々なデータを一カ所に集約し分析するシステムを構築、まずは、学生が平均のGPAと、相対する自身のGPAのレベルを把握できるようにしている。また、ディプロマと科目を紐づけ、達成状況を可視化する『ディプロマインディケーター』の実装を準備中。学生は、履修した正課科目や正課外の活動を通じた達成状況を把握できるため、学びへの動機づけになる。さらに、システム上の学生向けの領域では、オープンバッジを管理する個人ウォレットのリンクが張られ、同大学から授与されるバッジだけでなく、その他の学習経験で得たバッジも管理できる。「学部の科目の成果を可視化する領域と、特定分野で取得したオープンバッジをリンケージしたアウトプットで、社会的、対外的に、学修成果の全てを示せるよう設計しています」。
オープンバッジに関しては、新卒時の就職活動段階だけでなく、転職や入社後の異動希望において自身のスキルを証明する材料として活用する等、キャリアパスの様々なシーンで示せるものとなることを期待している。その際、オープンバッジ自体の世間的認知の向上が今後の課題であると平山氏は指摘する。「就職活動でどの程度使われているのかを学生にモニタリングしていく必要がある。また、キャリアセンターを通じて、企業側にこの取り組みを知ってもらい、評価してもらう働きかけも大切だと思います」。
プログラムの進化に伴って発展するデジタル証明
法政大学のサティフィケートプログラムは、社会課題を踏まえながら、さらなる進化を続ける。来年度開講予定なのが、「防災」「投資」等、学生スタッフが考えるキーワードに基づいた学生発案型のサティフィケートプログラムだ。また、今企業ニーズの高いグリーン人材を育成する「カーボンニュートラル」のプログラムも検討中。いずれも、修了者にはオープンバッジを授与。新たな学びのプログラムによるオープンバッジ所有者が増え、社会を変えていく。
「社会課題は刻々と変化します。ニーズに合わせて学部や学科を作っても、10年後には賞味期限切れとなることもある。ニーズを踏まえた学びを柔軟に実現するための系統立った仕組みが、私達のサティフィケートプログラムであり、その成果を証明するツールがオープンバッジなのです」。
(文/金剛寺 千鶴子)