高校生価値意識調査2022~身近な「幸せ」を感じつつ、将来への不安から「安定」を求めたい

高校生の進学や仕事・将来のライフデザインに関する意識・価値観についての実態を調査した。
彼・彼女達への理解を深めるための一助としていただきたい。


調査概要


①高校生の幸福感

高校生の8割が感じる「幸せ」。“いつも通り”であることが大事



図表1 現在の幸福感


図表2 「幸せだと思う」理由


やりたいことをやれる日常が幸せ

 ここ数年、世界では新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ戦争、国内では経済停滞等暗いニュースが続いているが、高校生の日常に視点を移したとき、どれほどの高校生が今の自分が「幸せ」と感じているのだろうか。

 本調査の結果では、80.8%が「幸せ」「どちらかというと幸せ」と回答しており、2014年以降最も高い割合となった。特に「幸せ」と明確に回答している割合が2018年から10.8ポイントと大幅に増加している点が特徴である(図表1)。

 その理由をみると(図表2)、「充実」「友達」「家族」「不自由(ない)」等が並んでおり、何か特別なものを手に入れたり成し遂げたりするよりも、家族や友達に恵まれ、やりたいことをやれる、という今ある日常そのものに対して幸せを感じているようだ。


②自分の将来・社会の将来は「明るい」か?

自分の将来が「明るい」は過去最高、社会の将来は見方が分かれる



図表3 自分の将来展望:「自分の将来」の明るさ


図表4 社会の将来展望:「自分が社会人になるころの社会」の明るさ


 高校生の日常から少し先の未来・将来を高校生はどのように捉えているのだろうか。自分自身の将来と、自分が社会人になるころの社会それぞれに対して「明るい」と思うかを尋ねた(図表3・4)。

 自分の将来が「明るい」「やや明るい」と答えた割合は71.3% となり、2014年以降最も高い数値となった。一方、社会の将来が「明るい・計」が50.9%、「明るくない・計」が49.1%と拮抗し、明暗が二極化した。

今が幸せな高校生ほど、自分の将来も明るい

 自分の将来が「明るい・計」と答えた高校生に着目すると、以下の特徴が見えてきた。

 今の自分は「幸せ」と感じている高校生ほど、“自分の将来は明るい”“目標としていることがある”と思っている割合が高く、現在の幸福感が将来に対する肯定的な見通しや目標を持つこととの相関が高いことが推察できる。

期待と不安が混在する社会の将来への2つの見方

 社会の将来の見方について、肯定的な意見として「コロナが収束している」「SDGsの目標達成に向かっている」等がある一方、否定的な意見として「少子高齢化が進んでいる」「不景気が続いている」「政治に不安を抱えている」等が挙げられた。このほか、技術の進歩についても意見が割れ、「技術の発展により生活が楽になっていると思う」一方、「AI などが増えて、職に就けるか不安」の声も挙がった。


③仕事への価値観

やりたいことで高い収入を得たいが、安定性も重視



図表5 将来「仕事をして働く」目的


図表6 「いい仕事」のイメージ


 価値観やキャリアが多様化するなか、今の高校生は働くことや仕事に何を求めるのだろうか。

 将来、「仕事をして働く」目的(図表5)によると、全体の割合が高いものから1位「金銭的に豊かな生活をするため」(57.1%)、2位「自分自身の幸せのため」(46.8%)、3位「やりたいことを実現するため」(46.3%)と続く。昨今の経済の停滞を背景としてか、生きるうえで現実的に欠かせない金銭的な安定を第一義として、その次に自身の精神的な充足感、自分がやりたいと思えることに取り組むことを重要視していることが分かる。

 「いい仕事」のイメージ(図表6)は、1位「収入が高い」(58.8%)、2位「やりがいを感じられる」(47.4%)、3位「失業する可能性が低く、安定している」(45.4%)と続く。仕事が目的を果たす手段である図表5に対して、こちらは「仕事」そのものに着目した設問であるが、ここではより一層「収入」「安定」といった生活の基盤を築くための、ある意味“守り”の要素が前面に出ている。

 図表5と6の設問を、自分の将来展望・社会の将来展望別にみると興味深い点が見えてきた。自分自身の将来展望で「明るくない・計」のほうが全体値より5ポイント以上低い項目は、「やりたいことを実現するため」「人の役に立つため」「仕事を通じて社会貢献するため」「やりがいを感じられる」が並ぶ。一方、社会の将来展望別で全体値より5ポイント以上高い項目は「失業する可能性が低く、安定している」の1つで、「明るくない・計」と回答した高校生のほうが高い結果となった。このことから、自分や社会の将来に期待が薄いほど、働くことを通してのやりたいことの実現や他者貢献よりも、顕著に安定を求める傾向が読み取れる。


④自分達の世代に名前を付けるなら?

コロナに青春を奪われた高校時代、デジタルに強いが、ネット依存に不安



図表7 世代の名前ランキング、図表8 自分達の世代に名前を付けるなら?


 「バブル世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」「Z世代」に続き、2010年以降生まれは「α(アルファ)世代」等、世代ごとの特徴を表した呼称は多くのメディアで取り上げられ、一般用語として定着しつつあるが、いわゆる「Z世代」に該当する今の高校生は自分達の世代をどのように表現するだろうか。自由回答で尋ねたところ、興味深い結果が見えてきた(図表7)。

大きい新型コロナウイルスの影響

 2020年1月に日本国内で最初の新型コロナウイルスの感染者が発見されて以降、あらゆる世代の人々の行動の機会が制限され、安全を確保しつつも新しい生活様式に適応せざるを得ない状況に置かれた。今の高校生はこの状況下で中学、高校時代を過ごしており、自分の思い描いていた学校生活が送れなかったという意識が、1位の「コロナ世代」に顕著に現れたのではないだろうか。具体的には「コロナ大打撃世代」「青春マスク世代」「コロナによって青春が奪われた世代」等、悲痛な表現が並ぶ。

ネット環境の活用と依存

 興味深いのは3位・4位の「ネット・ネット依存・デジタル世代」と「SNS・SNS依存世代」である。後述する高校生の強み・弱みの自己認識にもつながるが、ネット環境への適応に対するポジティブ・ネガティブな両面が存在していることが分かる。

 例えば「情報社会適応世代」というワードからは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で前倒しされたGIGAスクール構想によって学校のICT環境が充実しつつあることを背景に、情報技術を活用した生活・学習スタイルが浸透していることがうかがえる。一方で「SNS・ネット依存世代」というワードからは、情報技術を“活用する”というよりも“使ってしまう”感覚がにじみ出ている。今の高校生のなかには、情報社会に適応しつつも、それに頼りすぎることに対する不安感があるのかもしれない。


⑤自分達世代の「強み」・「弱み」は?

デジタルネイティブならではの表裏一体の強みと弱み



図表10 自分達の世代ならではの「強み」、図表11 自分達の世代ならではの「弱み」


 世代の名前に続き、自分達世代の「強み」・「弱み」を尋ねた。この設問は世代特有の自己像を探るものとして問うており、ここでは10年前の高校生の回答と比較する。

「強み」

 図表10の「強み」には、2012年と2022年に共通して情報技術関連の項目が並ぶ。2012年の理由には「パソコン・デジタル機器・ネット・ITに強い」「ITなど新しいものを享受することができる」「情報量が多い」等が並んでいる。2022年の回答にも2012年と同じように情報技術に適応している自負が見られるが、総務省の調査(※)によると2012年から2020年にかけて、世帯のスマホ保有率は49.5% から86.8%に増加している点が大きく異なる。2022年特有のものとして「誰とでも繋がれるSNS等を使い、強い発信力がある」「プログラミング教育」等、SNSを活用した情報発信や、プログラミング技術の習得等、技術を利活用する姿勢がより強くなっている様子がうかがえる。

「弱み」

 図表11の「弱み」の上位3位は2012年と全て異なる項目となった。2012年は1~3位全て共通して、1位「ゆとり・ゆとり教育・ゆとり教育世代」を筆頭に、学力面、精神面の弱さが並び、自由回答をみると「ゆとりだから他の世代より頭が悪い」「ゆとり世代なので、他の世代より甘えてしまう」等、ゆとり教育を受けたことに対する引け目や劣等感が原点になっていた。

 一方、2022年の1位「コミュニケーション・会話が下手」についての自由回答には「ネットに慣れすぎて対面コミュニケーションが苦手」等、新型コロナウイルスの影響も相まって、対面コミュニケーションの機会が減ったことも拍車をかけていると考えられる。2位「インターネット・SNSへの依存やトラブル」については、「強み」である情報技術との付き合い方の負の側面を認識している様子が分かる。またSNSの普及に伴い、個人のリテラシーの有無が犯罪に巻き込まれる可能性を大きく左右すると認識しているようだ。最後に、「経験不足(人生・社会)」についてはまさに2022年の高校生特有の「弱み」といえる。2012年には若さは強みであった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響をもろに受けたことから、自分達が期待していた学生生活が送れなかったことが痛手として「人生経験が不足している」という言葉に集約されているといえるだろう。




やりたいことを意識しつつ、堅実な姿勢も併せ持つ世代

リクルート進学総研 研究員 岡田 恵理子


 今回の調査対象となった高校生はこれまで、止まらない少子化や日本経済の低迷に加え、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨等の自然災害、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大等、社会としては長く暗い時期を経験してきた世代である。これに加え、デジタルネイティブとして生まれ育った彼らは、学校教育では大学入試改革や新学習指導要領の導入を背景とした“先の見えない社会”への適応が求められている。2007年から不定期に実施している本調査だが、特に今回は社会変革の過渡期を過ごしている彼らを対象とした調査として、世相を反映した特徴的な結果が出たといえる。

「安心」して「やりたいこと」に挑戦したい

 10年前の調査時は、リーマンショックを契機に経済不況が慢性化していた時期だった。当時の高校生は、夢の実現ややりたいこと重視の傾向が弱まった反面、大企業への就職や出世といった社会的評価を求める傾向が強まった。

 一方、長引く経済不安という点は共通しているが、2022年の高校生は夢の実現ややりたいことを重視する傾向が2012年よりも強まった。今回の記事内に掲載していないデータではあるが、経年で比較すると出世意欲の高まり、高収入を求める傾向、さらに公務員や会社員を希望する傾向が強まっている。しかし同時に、「あまり高望みせずそこそこ楽しい生活を送りたい」割合も増加している。

 2022年は、夢か安定かという二項対立ではなく、やりたいことを重視しつつも、経済的な堅実さにもしっかりと意識を向けている様子がうかがえる。このことは、社会の将来の見方の明暗が別れていること、自分達の世代を「少子高齢化世代」「理不尽世代」と表現することからも分かるように、やりたいことを目指しつつも“守り”の姿勢を余儀なくされている状況であるとも受け取れる。

デジタル環境との付き合い方

 「⑤自分達世代の『強み』・『弱み』は?」で見た通り、2022年の高校生はデジタル環境への慣れが強みでもあり、弱みでもあることが分かった。「弱み」の1位「コミュニケーション・会話が下手」の自由回答として「ネットに慣れすぎて対面コミュニケーションが苦手」を紹介したが、このほかに「匿名では発言はできるけど、名前を出すと自分の意見を言えない」「コロナで学校生活が潰れたこともあり、共同作業をする機会が減り、グループワークが苦手なこと」といった意見もあった。

 もともとネット・SNS上のコミュニケーションには慣れている世代ではあるが、新型コロナで対面の機会が極端に減少したことが「依存」に拍車をかけたとも考えられる。このことは、自分達の世代を「青春マスク世代」「制限世代」と称していることからも読み取れる。

 対面とオンラインコミュニケーションそれぞれの長所と短所を認識し、そのバランスをとることは大人でも難しいところがあるが、高校生自身から「依存」という言葉が出るほどに、彼・彼女達はそのことに強い危機感を持っているようだ。



  • 出典:総務省「1情報通信機器の普及状況」『令和3年通信利用動向調査』

【印刷用記事】
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