地域連携で発展する大学[6]「教員を目指すなら四国」5国立大が教職課程の協力体制をスタート/四国地域大学ネットワーク機構

図1 四国地域大学ネットワーク機構の概要


 2023年4月から、四国の5つの国立大学(徳島大学、鳴門教育大学、香川大学、愛媛大学、高知大学)において、「連携教職課程」(図1)がスタートした。5大学それぞれの教員養成の科目を連携し、教職を目指す学生に幅広い教育を提供していこうというものだ。

 地域連携による教員養成の連携例としては、群馬大学と宇都宮大学の「共同教育学部」のような事例がある(※1)。本稿の四国の「連携教職課程」では、あえて各大学ごとの単位取得を前提として、あくまで他大学の科目の乗り入れを実現するという形を作りあげた。

 なぜ四国5大学はこのような独自の連携を目指したのか、その課題背景、四国5国立大学の教職課程の目的と、「連携教職課程」を実現するための体制づくりについて、四国地域大学ネットワーク機構の代表理事を務める鳴門教育大学長・佐古秀一氏に伺った。

鳴門教育大学長 佐古秀一氏

各大学がパワーアップするための連携の形を模索」

 四国の大きな課題として、18歳人口の減少、関西都市圏への学生の流出率の増加がある。2040年には四国4県の大学の定員充足率は7~8割ほどになると予測されている(※2)。このような人口減少が進む社会において、教員養成系学部・大学の役割とは何か。四国では5国立大学が連携してこの問題に取り組み、2017年、四国の教職大学院による連携協力推進協議会を設置、2018年には4つの教職大学院で単位互換協定をスタートさせている。

 「この協定を通じて、各教育学部がお互いに率直に話し合える環境ができました。将来の教員養成系学部の行く末や、四国の今後の課題を自由に意見交換する中で出てきたのが、5大学の連携は教職大学院だけではなく、学部段階にも必要だということでした。四国の学長会議にその報告が出され、それをもとに学部段階での教職課程の連携を具体化する検討が始まりました」。

 教員養成は、学校現場が抱える課題が複雑化・多様化していることもあり、学生に幅広く高度な知識を教える必要がある。四国内の大学は教員数としては必要人数を満たしているが、教員養成の多様な分野に対応できるかというとどの大学も苦しい状況だった。今後の教員養成を考えたときに、単独の大学が自前のリソースだけで教員養成することに限界がある。その問題を解決するため、お互いの大学がリソースを持ち寄り、学生に豊かな教育を提供する仕組みを構築しようというのが狙いである。

 そこから5国立大学の教職課程をどのような形で連携すべきかの模索が始まった。5大学で一つの共同教育学部を作るという考え方もあったが、四国の連携では、「広域分散協働」という方針を選択した。教員養成だけではなく、人材育成を図るという意義も含め、連携しながらも各県にある大学がそれぞれにパワーアップしながら、地域を支えていく。そのために大学が手を結んでリソースを有効に活用できる仕組みを作りましょう、というものだ。

 あえてこの形を目指した理由を佐古氏は次のように説明する。

 「教員養成に限れば、各県に教員養成を役割とする大学学部があり、それぞれの大学学部は各県の教育委員会と密接に連携をして教員養成を行っています。つまり我々は地域密着で人材育成機能を担っており、教員養成機能をどこかに集約するということは必ずしもそれぞれの県にとって有益な方法ではないということです。各県にはそれぞれの教育の課題があり、課題に密接にリンクしながら各教員養成系の大学学部が人材育成を行っていく。各大学が地域に密着しながら連携をすることが、今後の厳しい時代を乗り越えていくことにつながっていく、というのが我々の考え方です」。

「四国地域大学ネットワーク機構」の設立と「大学等連携推進法人」の認定取得

 連携教職課程を作るということは、他大学の教職養成授業を自大学の授業として学生の卒業要件に組み込めるという教育上の特例を実現するということだ。そのために当時必要となったのが「大学等連携推進法人」の枠組みだ。そこで四国5国立大学で「四国地域大学ネットワーク機構」という組織を設立し、「大学等連携推進法人」の認定を目指した。以下がその流れだ。

  • 2019年「大学等連携推進法人(仮称)設置を検討する委員会」設置
  • 2020年「大学等連携推進法人」認定と、連携教職課程の設置に向けた検討組織として、各準備委員会とワーキンググループを発足
  • 2021年3月「四国地域大学ネットワーク機構」設立
  • 2022年3月 同機構の「大学等連携推進法人」認定(図2が取材当時の体制)

 大学等連携推進法人の認定は、山梨大学と山梨県立大学が設立した「大学アライアンスやまなし」に次いで全国2例目。都道府県を超えた連携としては初めての事例だ。この認定ののち、連携教職課程の具体的な科目と運用の審査の過程があり、2022年11月に正式に連携教職課程が認定された。「大学等連携推進法人の枠組みは、制約を乗り越えて、大学間の教育リソースを柔軟に活用するための必要条件だった」と佐古学長は振り返る。

 今回の認定では、教職課程の中でも特に幅広い教育が必要とされていた美術、家庭、情報の3教科に絞って連携がスタートする。

 連携によって学生は他大学の様々な科目を履修することが可能になる。美術の科目を例に見てみると、大学のリソースを集めることで、多様な授業がラインアップされ、選択の幅が広がっていることが分かる。

 教職課程の授業設計には各学部長等で構成される準備委員会と、教員が参加したワーキンググループが大きな役割を果たしてきた。


図2 大学等連携推進法人申請と連携教職課程の検討体制


単なる連携ではなく、相乗効果を生む連携を

 各大学の科目を相乗りさせる設計には様々な課題がある。授業はオンラインか対面か。美術と家庭の実技は学生がどのキャンパスに足を運ぶのか。また、無理なく単位取得できるための授業の曜日・時間もパズルのように複雑になる。ワーキンググループではそれら一つひとつを解決しながら科目を組み立てていった。

 また、こういった検討の過程から、魅力的な授業づくりに向けた新たな動きも生まれてきた。

 「学生にとってより魅力的な授業をどのようにすれば作れるか、各大学の教員の間で議論されるようになっていると聞いています。連携教職課程では、それぞれの大学が開講している授業を他大学生に開放すればいいだけ、とも言えるわけですが、せっかく連携するなら今までやってきたことだけではなく、この機会に新しい授業を作ろうという動きが生まれているのです。各大学の先生方が担当される授業枠を超え、1人では扱えないような先端的な授業を企画したり、著名な方を先生として招聘した授業といった計画が出ています」。

 大学が連携することで新しい取り組みのための資金ができたという面もある。だが佐古氏は、「一番大きいのは大学の枠を超えた教員の交流にある」と語る。

 「今までは大学ごとに閉じたカリキュラムを運営しているだけでしたが、相互に対話するようになると、『こんな授業があるといいよね』『こういう人の話を学生に聞かせたいね』といった話が出てくるようになっています。これは連携教職課程の非常に大きな影響、成果だと思っています」。

 他大学の教員との交流によって教員の視野が広がり、一緒に協働できる仲間が増えたという感覚が、良い授業を作ろうという力につながる。

 「中教審でも、連携の成果はリソースを提供し合うだけでなく、そこに相乗効果が生まれることが重要だ、という指摘を頂きました。まさにその通りで、これまでになかった専門家同士の対話や、新たな教育内容の可能性が動き始めていることをうれしく思っています」。

学長のリーダーシップが大きな役割を果たす

 このように四国の連携教職課程では他大学との連携がいい形で動き始めている。だが新しいことを始めるときには必ず反発も起こる。今回の連携でも、はじめの頃は授業の負担が増える印象が強く、教員の反応も様々であった。

 「特に今回対象にした美術科や家庭科では、実技の授業をどのように開講できるか等、具体的な授業実施に関して、現場の教員の方々はなかなか大変だったと思います」。

 こうしたときに、新しい施策を力強く前に推進するにはどうしたらいいのか。佐古氏は3つの方策が大事だという。

 「1つ目は教育上の理念を教員にしっかり理解してもらうこと。今の教育課程のままでは将来的に教育の幅がどんどん狭くなるので、協働することで幅を広げていきましょう、と語っていくということです。2つ目には、授業を担当する教員に、現実的なインセンティブをきちんと手当てしていくこと。そして3つ目は、各大学の学長がリーダーシップをとって推進していくことです。実は今回この連携が実現できたのは、5大学の学長間のコミュニケーションが密であったことが非常に大きいと思っています。学長達は普段から1年に3~4回は会っていて、今回の教職のテーマに限らず、四国の課題について率直な意見を語り合ってきました。このような関係性の中で、各大学の学長がリーダーシップを取って進めていかなければいけない、というコンセンサスのもとで動いていたことは大きかったですね」。

 2020年からはコロナ禍でなかなか直接対話ができなくなり、会議のあとの懇親会や雑談がなくなったことによる弊害もあった。

 「準備委員会等で各学部長等の方々と話をしますが、会議では型通りの話しか出ません。そのあとの雑談で、『実は……』と様々な話が出てくる。そこでコミュニケーションが取れ、『この話題は反対意見がでるかもしれない』とか『この話題はこの場に挙げていいものか』が分かる。オンラインではそういった会話ができないので、そこはちょっとやりにくかったところはありましたね」。

 新しい施策の推進には、トップの強いリーダーシップと、様々な形でのこまめなコミュニケーションは大事な要素だと言えそうだ。

目指すのは、魅力ある教職課程の確立。キャッチフレーズは「教員養成は四国から」

 連携教職課程が目指すのは、教員を目指す学生達に対して、より質が高く、幅の広い科目を提供し、より良い教員養成を実現することにある。学生にとっては教員免許を取るという目的だけで見ると、一見、どの大学に行っても同じに思えるという部分もあるだろう。四国はこの連携によって、同じ教員免許をとるなら四国が面白い、ということをアピールしていく方針だ。

 「四国であれば、こんなに魅力的な授業、多様な専門領域がたくさんあり、良い先生になる道が開かれていますよ、ということを、大学連携のメリットとして伝えていきたいと思っています。キャッチフレーズは『教員養成は四国から』。他地域からの学生も、教員を目指すなら四国で学んでみようと思ってもらえるように、魅力を発信していきたいと考えています」。

 四国以外の地域からの入学志願者が増えることが大きな目標だが、まずは新しい連携科目によって「四国の教職課程の授業は面白い」といった声をどれだけ聞けるか、またSNS等でどれだけ発信されるかといった、学生達の反応を大切にしていきたいと佐古氏は語る。

 入学した大学にとどまらず、四国全体が「学ぶフィールド」になる連携教職課程。豊かな教員養成に力を入れるための四国5大学の柔軟な連携のあり方は、大学の魅力発信の新しいモデルになりそうだ。


(文/木原昌子)




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