三つのポリシー(AP・CP・DP)をどう実質化するか── ガイドライン策定を受けて 濱名 篤
今回の中央教育審議会(以下では「中教審」という)の審議まとめでは、「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)以下では「DP」という」、「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)以下では「CP」という」、「入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)以下では「AP」という」の3つのポリシーを「一貫性あるものとして策定し、公表する」ことが学校教育法施行規則の改正により、全ての大学(短期大学・高等専門学校もこれに準じる)に義務づけられた。併せて、それらの「策定及び運用に関するガイドライン」が中教審大学分科会によって作成されている。本稿では、1)この制度改正の背景を理解し、2)どのような流れで3つのポリシーを策定していけばいいのか、3)3つのポリシーを改正して、どのように改革を実質化していけばいいのか、といったことについて述べていきたい。
制度改正の背景
今回の3つのポリシーの義務化については、よく分からないという声を耳にする。混乱する要素を考えてみよう。①これまでも3つのポリシーについての議論や中教審答申があったのに、これまでの答申との繋がりをどう理解すれば良いのか。また、質的転換答申で出ていたアセスメント・ポリシーはどうなったのか。②途中で公表されていたポンチ絵を見ても、PDCAサイクルと3つのポリシーの関係がよく分からない。そして、③具体的にこれまで作っている3つのポリシーの何をどのように変えなければならないのか、といったことなどだ。
まず、これまで国内の大学は3つのポリシーをどの程度作成してきているのかを確認してみよう。文部科学省等の調査結果を見ると、DPについては、大学全体としては79.0%(国立76.7、公立63.0、私立81.5)、学部としては93.9%(国立100、公立82.3、私立94.6)が定めている。CPについては、大学全体として定めている大学が78.7%(国立76.7、公立64.2、私立81.0)である。学部単位では94.0%(国立98.6、公立86.1、私立93.1)に達している(いずれも2013年度文科省調べ)。APについては、全大学の99.6%が定めている(2014年3月大学入試センター研究開発部)。大学全体での作成や、学部単位でも公立大学が低いものの、学部単位ではほとんどの大学が3つのポリシーの作成自体はされている。
3つのポリシーは、中教審答申でいえば将来像答申(2005年)で登場したが、この段階では入試の多様化の方向性の中で、APの作成により重点が置かれていたと見ることができる。
学士課程答申(2008年)では、3つのポリシーの明確化が、答申の中心的な改善施策と位置づけられた。大学や学位の水準の国際的通用性が失われることへの強い懸念を背景に、大学の自主的な改革を促進するためには、大学の責任において3つの方針を明確化することが有効であるという結論であった。答申のタイトルに「学士課程教育」という用語が用いられたように、学位を与える課程(プログラム)として「学士課程教育」というコンセプトを強調し、学位を与えるユニット、通常は学部・学科単位でポリシーを作成することを求めた。3つのポリシーについては大学全体のものを定めることを要求していたとは言えない。答申の内容は、卒業に当たってのDPを具体化・明確化し、積極的に“公開”することを求め、参考指針として「学士力」を公表した。また、CPについては、順次性や体系性ある教育課程を編成する必要性を説き、分野別参照基準の作成を日本学術会議に求めた。APについては、多様化に対応した入試方法の過度な多様化に警鐘を鳴らし、その明確化を求めるとともに、初年次教育や高大連携の必要性を強調した。学士課程答申で求めた3つのポリシーの作成は、前述の調査結果のように、形式的には現在まである程度は進んできたようにも見える。
次に出された質的転換答申(2012年)を見ると、問題意識として「『プログラムとしての学士課程教育』という概念の未定着」を掲げ、「教育課程の編成が学科等の細分化された組織で行われている」ことを問題視して、「明確な教育目標の設定とこれに基づく体系的な教育課程の構築」という教学マネジメントの方向性を示している。この答申では3つのポリシーのうち、用語として登場するのはDPのみであった。CPという用語を用いずに「その方針(DP)に従ったプログラム全体の中で個々の授業科目は能力育成のどの部分を担うのかを担当教員が認識し、他の授業科目と連携し関連し合いながら組織的に教育を展開すること」ということが盛り込まれていた。また、この答申では学修成果を「プログラム共通の考え方や尺度(アセスメント・ポリシー)に則って評価」するという「アセスメント・ポリシー」という方針が初めて登場している。学修成果の評価について、学修行動調査、アセスメント・テスト、ルーブリック、学修ポートフォリオ等の具体的方法が示され、どのような具体的な測定手法を用いたかを明らかにすることを大学に求めた。3つのポリシーの作成から一歩進め、測定と評価を答申で求めたことになる。しかし、中教審答申が出されただけでは大学教育が変化することはなかったようで、アセスメント・ポリシーを作成している私立大学は6.9%にすぎない(日本私立学校振興・共済事業団「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」報告大学・短期大学法人編2013年6月・2014年1月調査)。
2014年12月に出された高大接続答申では、3つのポリシーの一体的な作成を法令上位置づけることがはっきり明記された(答申20ページ)。さらに、「大学全体としての共通の評価方針(アセスメント・ポリシー)を確立したうえで、学生の学修履歴の記録や自己評価のためのシステムの開発、アセスメント・テストや学修行動調査等の具体的な学修成果の把握・評価方法の開発・実践、これらに基づく厳格な成績評価や卒業認定等を進めることが重要である」と記されている(答申21ページ)。3つのポリシーとアセスメント・ポリシーの両方について記載されているものの、「法令上の位置づけ」についての扱いが違うために、アセスメント・ポリシーは努力目標として受け取られたようだ。
3つのポリシーの義務化に踏み切ったのは、産業界や政界も含め社会からの大学教育に対する批判が続いていたことが要因であり、“努力目標”では大学教育改革が進んでいかないという認識となったと受け取らざるを得ない。前述のように、3つのポリシーは形式的には少なくとも学部単位では整備された。しかし、文科省の調査によれば、大学全体の人材養成方針や学位授与方針等とカリキュラムの整合性等を検討していると答えた大学は73.8%(国立95.1、公立60.1、私立72.9(2013年文科省調べより筆者が算出))である。今回の審議まとめには、3つのポリシーについて「抽象的で形式的な記述に留まるもの、相互の関連性が意識されていないものが多い」(「審議まとめ」1ページ)と現状を評価している。
ともあれ、3つのポリシーを作成してあるだけでは不十分という認識からの「法令上の位置づけ」であり、大学が自ら改革することを強く求められている。また、この方針を求めた高大接続答申を見ても、アセスメント・ポリシーが必要とされなくなったわけではないことには留意が必要である。
何をどのように作成すればいいのか
図表1は、中教審大学分科会大学教育部会の最終会議時点でのポンチ絵である。PDCAサイクルの各段階に3つのポリシーがはめ込まれ、Doの段階から矢印が出され個々の授業でも教員が授業についてのPDCAを行うという説明が盛り込まれている。3つのポリシーにアセスメント・ポリシーを加えて説明すれば、Plan(DP)-Do(CP)-Check(アセスメント・ポリシー)と教育活動の流れに沿った説明ができると筆者は同部会での審議の際に再三発言したが、アセスメント・ポリシーを同列に並べてもらうことはできなかった。その結果、どのようにしてDPに掲げた目標が達成できているのかというマクロな評価と、学生個人の学修活動をどのように成績づけるかというミクロな評価については、いずれもCPの中で明らかにするということになった。「教育課程の編成・実施の方針」の中に、高大接続答申の文中ではアセスメント・ポリシーで定めることになっていた内容が盛り込まれるということになっているのである。
図表2は筆者が、3つのポリシーとアセスメント・ポリシーの関係を整理しなおしたものだ。
3つのポリシーのうち最初に作成しなければならないのは、DPである。目標を定めなければ、内容も方法も、評価のあり方も決めようがない。DPの策定は各大学に任されている。建学の精神をはじめ各大学の教育理念に加え、学士力、社会人基礎力、コンピテンシー等、近年の能力観に関わる資料を参考にすること等が考えられる。また、全学の方針を前提にしつつも、作成単位が学位プログラム(もしくはそれに代わる組織単位)であることを考えれば、全ての専門分野のものは揃っていないが、日本学術振興会の分野別参照基準を参考にすることも有効であろう。
策定に当たっての留意事項としては、測定・検証に耐えられる内容や表現になっていることが必要である。英語で言えば「Can ― Do」型の表現を取り入れるのが良いだろう。
その目標の実現のためにどのような教育内容や教育方法を組織的に用いるのかを明記するのがCPである。これら2つの方針の教育を受けるために必要な条件(入学までに身につけておくべきこと、どのような方法で前述のDPやCPに基づく学位プログラム教育を受ける力があるかを確認するのか)を明確にするのがAPとなる。ここまでが「Plan」ということになるだろう。書き方は、読み手として大学関係者だけでなく、高校教員、保護者、受験生といったステークホルダーにも理解しやすい文章表現であることや、箇条書きも交えて理解しやすい、そして評価・検証しやすい書き方になっていることが期待されている。
これらのPlanに基づいて大学での教育活動が展開され、入試が行われ、両者の間で高大接続が図られるのが「Do」である。
それらのPlan通り(DPやCPに基づき)教育活動が行われているのか、目標に沿った学修成果があがっているかを確認することが「Check」である。その際の基本方針がアセスメント・ポリシーで、いつ(When)、どのような尺度で(What)、なぜ(Why)、誰が(Who)、誰を対象に(Whom)、どのように(How)といった評価を行い、それらの評価活動を集積して自己評価・点検が行われ、その自己点検が妥当に行われているかを認証評価するといった流れが評価活動のフローになる。これらの評価活動の結果を受けて、さらに社会からの外部評価や国際評価がなされると考えることができる。これらのCheck(評価活動)を受けた結果、Action(改善策)が出てくるというのがPDCAと3つのポリシーの関係であると筆者は考えている。Checkのための評価の対象には、DPも、CPの教育内容も、教育方法も、さらにはAPもが含まれる。
ところが今回の制度化では前述のように、アセスメント・ポリシーが法制化の対象にならなかったために、Check段階の「評価」についての規定はCPの中に押し込まざるを得なくなっている、と理解して頂くのがいいだろう。結果として、CPの内容が教育内容、教育方法、評価の3つの内容を含むこととなっている。
教育内容には、教育課程の基本的な考え方、教育内容の特徴等が盛り込まれることが想定される。教育方法には、アクティブ・ラーニングやPBL等の特色ある教育方法を具体的にどの程度どのように取り入れるのか、実習やインターンシップについての方針等も盛り込まれると思われる。
それでは、評価にはどのような内容が盛り込まれるのだろうか。評価の主たる対象は、DPが実際に達成されているかどうかになる。つまり、大学自身が学位プログラムごとに定めた目標である、卒業及び学位授与の要件と位置づけた学修成果をあげられているかどうかが最も重要な(マクロな)評価となると考えられる。学生の卒業や成績評価のあり方、形成的評価や総括的評価も含めた(ミクロな)評価も大切であるし、CPに記載された教育内容や教育方法がどの程度実際に活用されているかも評価の対象になっていくことだろう。アセスメント・ポリシーという用語を用いなくても、目標、内容、方法について、前述の質的転換答申であげられた方法を多元的に組み合せて評価をしていく必要がある。
APについては、DPやCPに定めた教育に耐えられる条件を明確にするためのもの、という位置づけがなされている。抽象的な表現にとどまらず、高校側が理解しやすいように「学力の3要素(知識、態度、意欲)」を意識した表現で、入学までに身につけてきてほしい能力や学生に求めることをできるだけ具体的に示したうえで、多様な学生を評価できうるAPに合った選抜方法をとることを求めている。高大接続システム改革会議での方向性や見通しが立ちにくい状況下で、新たな選抜方法を考案するといった必要性も考えなければならないかもしれない。APについては、DPやCPを考えた後に取り組むのが順番だが、入試要項等を前年6月には公表しなければならないことを考えれば、まさに一体的に作成する必要性と、その難しさはひとしおであると思われる。
3つのポリシーは、図表3にあるように、2017年3月末までに公表を終えておくスケジュールになっているが、入試方法の大幅見直し等を行うには2019年度入試以降まで時間を要する可能性がある。
どのように改正を実質化していくのか
上記のような状況の中、筆者の大学では既に3つのポリシーの見直しを行い、本年4月には新ポリシーを公表する予定で動いている。作成に当たっては、当初は大人数のプロジェクトチームでスタートしたが、中間報告でチームを解散し、学位プログラムの責任者である学部長・学科長にDPとCPの原案作成を任せ、学長と直接やりとりをして修文してきた。メールでのやりとりは全学部長・学科長にC.C.で配信し、良いところやポイントを理解しやすいようにした。一貫性と整合性のあるポリシーを創るうえで、会議で原案を作成するより有効な方式であったと感じているが、学部長や学科長の協力や貢献があったからこそだと思っている。
作成した原案は、執行部会議、学科会議、教授会、全学協議会等の所定の学内手続きで決定したが、併せて2月に2日間で実施した全学FDの学科別アワーにおいて相互理解を図った。そこで学科内での役割分担を確認し、個別科目のシラバスを作成していくといった流れで2016年度の教育の準備に当たってきた。その結果、それぞれの学科の事業計画には新たなポリシーを組み入れた取り組みが盛り込まれているが、今後は、年間3回計5日間のFDの際に状況のモニタリングをして、年度末の事業計画の振り返りや自己点検・評価等でのフォローアップを行い、PDCAサイクルを回していきたいと考えている。
改正の実質化には、1)ポリシーが検証・測定可能で誰もが共有できるポリシーを作ること、2)作成されたポリシーが教育組織内で共有され、役割分担されること、3)年間を通じ、さらには中期的に進行状況が確認され、その結果自体を再度共有し改善策がとれること等が必要ではないだろうか。
(濱名 篤 関西国際大学学長 中央教育審議会臨時委員(大学分科会))