鶴川女子短期大学
小田急線鶴川駅(東京都町田市)から閑静な住宅街を抜けた小高い丘の上に端正な佇まいを見せる建物が、昨年9月に竣工した鶴川女子短期大学の新校舎である。
同短期大学は、戦後の女性の自立支援のためにタイピストの育成校を開設したことに始まり、高度経済成長期の女性のさらなる社会進出を背景に、愛情を持って幼児教育・保育を実践できる人材を育てることを目指して短期大学を開設、約半世紀が過ぎている。
そして、2017年度には幼児教育学科から国際こども教育学科に変更。その背景について、副学長・百瀬志麻氏は「社会の国際化が進展し、日本においても外国籍の子ども達が増えている。保育の現場においては、既に多様なバックグラウンドを持つ子ども達と向き合っており、子どもや保護者とのコミュニケーションに必要な言語力の点においても、異文化を受容する考え方という点においても、日本の既存の幼児教育は追いついていない。日本の保育の型が必ずしも一番良いというわけではなく、世界には色々な保育や幼児教育の考え方や方法があるということを体感し、多文化を理解できる素地を作っていきたいと考え、国際こども教育学科に変更した」と語る。カリキュラムにおいても英語の授業や、国際こども教育概論、比較乳児教育といった学びや、ニュージーランドでのフィールドワーク等を通じて、多様化する国際社会の中で活躍できる保育士の育成に力を入れ、同じ保育の領域の教育機関とは一線を画する存在となっている。
そんな鶴川女子短期大学の新校舎設立構想は、既に10年以上前からあったという。常務理事・百瀬義貴氏は、「当初は老朽化対策として安全を守るために建て替えるという考えから始まったが、どのようなコンセプトの校舎にしたいのかということが決まっていなかった。そこで改めて、私達は幼児教育に特化した学校らしく、『遊びながら学べる』校舎を建てるということを副学長と改めて考え直した」と振り返る。百瀬志麻副学長も「新しい大学の建物としては、ラーニングコモンズやグループ学習室等を別途設けるケースも多いと思うが、私達は様々な遊びの要素が詰まった空間にしたかった。だから大学よりも、幼稚園や保育園の施設を参考にした」と話す。
その思いを具現化したのは、日本を代表する建築家の一人、隈研吾氏だ。木材を多用した温かみにあふれた建物は、自然豊かな広い敷地全体と融合するかのような姿。屋外へとすぐに移動することができる。自然環境との触れ合いの重要性を「遊ぶように学びながら」体験できる幼児教育の場であることは、都心部の教育機関には真似のできない点だと言えるだろう。
「学生達がこの校舎を『最高!』と言ってくれたことが私にも最高に嬉しく、一方で今後も投資を無駄にしてはいけないという身の引き締まる思いもあった」と百瀬義貴常務理事は話す。
そして同短期大学は、4月にフェリシアこども短期大学へと校名変更する。保育の学校としての認知向上、グローバルへの視野拡大、そして学生や子ども達への願いである、フェリシアという花の花言葉『幸せ』。多くの思いが込められている。その思いが新校舎で様々な形で実現していくのだろう。
(左)ホールの大階段。
(右)ホールの暖炉は内装としての存在感もさることながら、災害による停電時に稼働させることができ地域住民にも暖を提供できるといった実利性を重視して設置。ホールをはじめ館内にオルゴールの心地よい音色が静かに響く。
学生全員に、無料で栄養バランスの良い食事を提供する学生食堂。「学生時代は食生活を犠牲にしがちだが、保育士を養成する学校として自ら食の大切さを理解する食育の観点を重視している」(百瀬志麻副学長)。
図書館では、学生に本当に必要な本は何か、という視点に立ち返って本を選別。その結果、絵本が手前にずらりと並ぶという配置に。紙芝居も取りやすいところに。図書館が入りやすい場所に位置されるようになり、ちょっとした空き時間にも立ち寄る学生が増え、利用率が格段に向上した。
(左)横長の大講義室。ほかにアクティブラーニングに活用しやすい可動式の机を配した中講義室もある。
(右)ピアノの個人指導のためのレッスン室は6室。ピアノの授業では集合授業を行う音楽室と個人レッスン室とを行き来しながら練習する。
1クラス分が入れるPC教室。空いた壁スペースにプロジェクターを映して使う。
実習を行う模擬保育室。
美術と環境を学ぶ部屋。屋外にスムーズに出られるようになっている。
校舎の中にある保育園、どんぐりはうす。近隣の子どもや職員、社会人学生の子どもが通っている。広々とした敷地を園庭に、伸び伸びと子どもが遊ぶことができる。
(文/金剛寺 千鶴子)
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