新世紀のキャンパス SHIMOKITA COLLEGE
SHIMOKITA COLLEGE 建設の背景、目的
SHIMOKITA COLLEGEは「暮らしながら学ぶ」新たな教育施設として東京・下北沢地域に開業した。小田急電鉄株式会社、UDS株式会社、HLABとの三社協働によるプロジェクトである。
近年、MOOCの普及で授業コンテンツへのアクセスが容易になったことで、授業コンテンツではなく多様な人との密な交流の価値が注目されている。世界のトップスクールでは寮生活の中での学び合いをより重視する傾向にある。
そうした世界的な動きを背景に、SHIMOKITA COLLEGEは、多様な経験や価値観を持つ居住者が寝食を共にするなかでお互いから学び合う場を日本でも実現するべく企画された。特に、教育機関やビジネスの中心が集中する東京の地の利を生かし、特定の大学に紐づく形ではなく、多世代・多様な立場の入居者が集うかたちでの学びのコミュニティー構成を目指している。また、下北沢というまちをキャンパスに見立て、地域の課題解決をプロジェクト化してまちの方々と取り組みながら、まちの活性化に寄与して行く。
2020年12月の開業後、海外の大学に在籍しながらもコロナ禍で現地に渡航できず、オンライン授業を受けている学生も含めて、世界4カ国20大学の学生と若手社会人がトライアル入居している。今後、2021年4月の開校を経て、高校生の入居者も迎え入れ、最終的には120名程度が居住し学び合う環境を整える予定だ。
建築物の設計コンセプト
建物を通して、偶発的な交流を生む空間作りを重視している。食堂やラウンジ等の共有スペースは各フロアの居室への動線上に配置。さらにランドリールームやライブラリー等機能の異なる共用スペースを各フロアに分散させることで、交流が生まれやすい空間づくりをしている。
また、居住空間では、設計を担当したUDSがホテルやシェアハウス事業で培ったデザイン手法やノウハウを活かし、限られたスペースを最大限に活用して快適さも追求、学びに集中できる環境を整えている。
SHIMOKITA COLLEGEにおいて実現する具体的な取り組み
SHIMOKITA COLLEGEでは、国内外の大学でのカレッジ制度を参考にHLABが構築した「HLABカレッジ・レジデンシャル・プログラム」を導入している。共同生活の中で主体的なリーダーシップを育みながら、多様な他者との交流の中で身近なロールモデルと出会うことを通してキャリア発達を支援することを目指す。
SHIMOKITA COLLEGEの学びの特徴は、交流と学び合いを生む仕組み、教育プログラムとしての共同生活、地域と連携し新たな価値を共創するプロジェクトだ。
まず、「交流や学び合いが自然に生まれる文化」を育むために、前述した空間設計のほか、小グループで定期的に振り返りを行うハウスリフレクションや、キャリアや研究について身近なロールモデルに相談ができるフェロー制度などの仕組みを展開している。
また、共同生活の中で学びの機会を作るために、定期開催するワークショップや、カレッジのルール決めや運営に当たる委員会活動、互いの専門領域を教え合う「リベラルアーツ・セミナー」などを企画し、共同生活を通して居住者が互いの関心事や専門性から学び合う教育プログラムを構成している。
さらに、下北沢地域と連携し、地域の課題を題材としたプロジェクトを実践しながら学ぶ「シモキタ・イマーシブ」を企画している。居住者にとっての学びの機会になるだけではなく周辺地域に貢献し、コミュニティの一員となることを目指す。
入居者からは、「コロナ禍で登校できないなか、初めて深い交流ができた」「普段の大学生活では出会えない人と出会えた」といった声が上がっている。また、周辺地域の方々には、新しくできた施設として関心を持っていただき、現在どのような連携ができるか関係構築の真っ最中だ。
今後の新たな利活用についてのプラン、展望等
今後は、周辺地域や、さらに一般企業との連携を深めながら、より実践的な学びの機会を創出していく。また、居住者の学業、キャリア発達を支援するためにカレッジを中心としたコミュニティーのメンバーを拡充し、よりロールモデルの発見やサポートが得られやすい環境構築を進める。今後高校生の入居開始により多世代での学びの場にしていくほか、他地域での展開も見据えている。
1階の食堂とつながりを持たせる吹き抜け空間は、明るい日差しを取り入れるとともに、鉄骨階段によって上下階の動線をつなげている。入居者は1階食堂と吹き抜け空間を通って居室に入る。
居住者専用の食堂「リラックス食堂 下北沢」。南東の角に位置する大開口と吹き抜けを設けた開放的な明るい空間。居住者が自然に集まり、コミュニケーションが生まれる場を目指した。
ワークショップや学習等も行えるよう、テーブル席やソファ席、ビッグテーブル等席の設えにバリエーションを持たせ、様々な利用の仕方が生まれる食堂として企画された。
2階の共用部には、料理イベント等を行えるコモンキッチンを併設した「リビングスペース」と、居住者同士が日常的に利用でき、イベントも開催できる「パブリックスペース」を設置。落ち着いたカラーをベースに、学生らしい若々しい色を部分的に取り入れ、カラーコーディネートした。
簡単な調理や食事が行えるコモンキッチンには本棚を設置。ルーフテラスと一体となった空間で、オーニング(日よけ)を備えた屋外空間でも過ごせる。ルーフテラスには家庭菜園ができる花壇を設けている。
建物の外観。1階食堂部分はガラス張りとなっており、外からも様子が窺え、地域へ開かれたコンセプトを体現している。
SHIMOKITA COLLEGEの外観を別の角度から。水平方向の直線を強調したデザインになっている。
エレベーターホール兼コモンキッチンスペース。簡単な調理が行えるキッチンを備え、冷蔵庫や電子レンジ等の家電を用意。食事や雑談等からコミュニケーションが生まれるスペースとして計画。
ライブラリースペース。履き物を脱ぎ、座って読書や会話を楽しむことができる。
同フロア内にあるランドリーの待合と一体的に利用できるリビングスペース。暖炉と本棚、ラグを設え、ソファやリクライニングチェアを設置。自宅のリビングのように落ち着いてくつろげる空間とした。
(文/河合道雄(HLAB))
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