高校教育改革に関する調査2021 コロナ禍と入試改革元年に試された高校の「変化対応力」
①コロナ禍で進んだもの・進まなかったもの
進路指導に大きな影響。ICT活用は計画以上に進展
進路指導の縮小が余儀なくされ、卒業後のミスマッチを懸念
リクルート進学総研では、今年2月、全国の高校に教育改革の進捗に関する調査を実施。本稿ではコロナ禍の影響と、入学者選抜改革や新学習指導要領への取組等について報告する。
まずコロナ禍の進路指導への影響を見ると(図表1)、進路指導は優先度高く取り組まれたことがほかの設問から分かっているが「特にない」は1%に満たず、ほぼ全ての高校で何らかの影響が生じた。「進路ガイダンス・進路相談等の行事の中止・延期」が82%と最も高く、以下「オープンキャンパス指導が十分にできなかった」77%、「保護者向け進路ガイダンス等の中止・延期」51%と、対面・集合型、経験型の指導が縮小を余儀なくされ、フリーコメントでは進路選択のミスマッチ等が懸念されている。なお「大学への期待」の設問(図表は割愛)で順位を上げ1位となったのは、「実際の講義・研究に高校生が触れる機会の増加」(54%)だった。“コロナ禍で不足したリアルな接点”がより一層大学に求められている。
ICTの【授業での活用】を想定78% 狙う効果は「生徒の興味喚起」
コロナ禍で様々な取組が縮小されたが、GIGAスクール構想の前倒しでICTだけは計画以上に活用が進み、既に97%とほぼ全ての高校で、授業・ホームルーム・探究などの教育活動に活用されている(図表は割愛)。今後の活用イメージは(図表2)、「宿題・課題等をオンラインで配布」68%が1位。カテゴリー別では【授業での活用】の項目が高く、「オンラインによる双方向型授業・学習支援」が56%、「授業での活用・計」の割合は78%にのぼった。設置者別では、導入が先行している「私立」で全般にスコアが高い。では「ICTの活用によって狙いたい効果・変化」は何か(図表3)。「生徒の興味を喚起し、学習へのモチベーションを上げる」が64%と最も高く、「生徒一人ひとりが自分に合った方法や進度で学習できる」「授業外の家庭学習(課題)等も含め、生徒の学習時間の伸長」(共に50%)と続く。大短進学率別では、進学率95%以上の進学校で「多様なリソースにアクセスできることによる生徒の学びの深まり」が59%と突出している。教室内での学習や日常の生活圏では触れられない情報源に触れ、刺激を受けて学びを深めていくことができると期待されているようだ。
②入学者選抜改革・新学習指導要領への取組
新入試と新カリキュラムへの対応がつながり、本質的な教育の転換へ
共通テスト対応は試験対策から 授業、定期考査、評価の見直しへ
「大学入学共通テスト」に向けた対応について(図表4)、「これまでに取り組んできたこと」は「英語の外部検定試験の受験を促進」48%が1位で、「『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善の推進」40%、「思考力・判断力・表現力を高めるための授業デザイン」38%、「外部模試の受験を促進」37%、「定期考査問題の見直し(思考力・判断力・表現力を問う問題を増やす等)」36%が僅差で続く。一方、「次年度以降取り組みたいこと」(※20年度調査のため21年度以降)は「思考力・判断力・表現力を高めるための授業デザイン」49%が最多で、「定期考査問題の見直し」45%、「評価の在り方の検討(観点別評価、パフォーマンス評価等)」43%、「活用場面を意識した取組、資料やデータの活用等、大学入学共通テストの実施方針を踏まえた授業の実践」41%が上位。「これまで」と「今後」の差では、「評価の在り方の検討」、「教科横断型の授業の実践」が大きく伸び、「英語の外部検定試験の受験を促進」、「外部模試の受験を促進」が大幅減。英語資格・検定試験の活用見送りや、初年度実施後に出題傾向が見えてきたこと等から、重視点が本質的な教育の取組に変化している。
またアドミッション・ポリシー(以下、AP)は7割で進路指導に活用され(図表5)、2018年調査の54%から浸透が進む。また「調査書」の活用についての進路先への期待は(図表6)、「活用方法について、募集要項等で明確に示してほしい」61%が突出。個別選抜への要望(フリーコメント2)からは改革への様々な期待がうかがえる。
新カリキュラムでは「ICT活用」「授業改善」「カリマネ」を重視
2022年度からの「新学習指導要領」の実施に向けて特に重視していることは(図表7)、1位「ICTの活用」68%、2位「『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善」61%、3位「カリキュラム・マネジメントの検討・推進」52%。僅差で「評価の見直し(観点別評価、ルーブリック等)」49%、「『総合的な探究(学習)』の時間」の見直し」45%、「育みたい資質・能力の明確化」44%までが4割以上。前述の「大学入学共通テスト」に向けて「今後取り組みたいこと」との重なりも多い。高大接続改革の流れを受けた入試改革と、新しい学習指導要領に則って進める教育改革は表裏一体であり、ここへきてその方向性がつながり、高校が本質的な教育の転換に向けて進みつつある兆しが表れたのではないだろうか。
「主体的・対話的で深い学び」の授業改善で目指したいことは、教員の変化を経て生徒の変化へ
新しい学習指導要領で推進が求められている「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング、以下AL)の視点による授業改善の取組体制は、組織として対応している学校が61%であった。この割合は調査を重ねるごとに増え、2014年の21%から約3倍となっている(図表は割愛)。
図表8は授業改善に取り組む学校に具体的に状況をたずねたものだ。「今年度までの変化」は【教員】「教材開発や授業設計力の向上」39%が最も高く、以下、【生徒】「学びに向かう姿勢・意欲の向上」37%、【教員】「教員の授業観の変化」36%、【生徒】「主体性・多様性・協働性の向上」34%と続く。1つでも選択した割合は85%で、多くの学校でALの視点による授業改善での変化が実感されている。
「次年度以降強化・注力したいこと」(※20年度調査のため21年度以降)では、上位を【生徒】の項目が占める。「思考力・判断力・表現力の向上」59%が突出し、以下「学びに向かう姿勢・意欲の向上」49%、「主体性・多様性・協働性の向上」47%、「基礎的な学力(知識および技能)の向上」45%と続く。
「これまで」と「今後」の差で比較すると、【生徒】の「思考力・判断力・表現力の向上」、「基礎的な学力(知識および技能)の向上」の2項目で特に差が大きい。
さらに授業改善を推進するための課題としては「教員の指導スキルの向上」「教材開発や授業準備の時間の確保」があげられるものの(図表は割愛)、これまでの【教員】の「授業設計力の強化」や「授業観の変化」の段階を経て、その成果としていよいよ【生徒】の資質・能力の向上を目指す段階に入ったといえるのではないだろうか。
探究による向上は「主体性・多様性・協働性」7割、「基礎的な学力」3割
新しい学習指導要領でカリキュラム・マネジメントの中核への位置づけが求められている「総合的な探究の時間」は、既に93%の学校で取組が進み、大短進学率の高い層ほど組織的に取り組んでいる(図表は割愛)。
図表9は既に探究に取り組んでいる学校に4つの力を提示し取組による生徒の変化をたずねたものだ。「そう思う・計」の割合で変化(向上)を比較すると「主体性・多様性・協働性」70%、「思考力・判断力・表現力」62%、「学びに向かう姿勢・意欲」58%で、これら3つの力は半数以上で変化(効果)が実感されている。一方「基礎的な学力(知識および技能)」は29%と、探究と基礎的な学力をどうつなげていくかは模索中の学校が多いと思われる。ほかにもフリーコメントからは、学び合いの姿勢や自己肯定感の向上等、様々な生徒の変化が感じられている。
進路選択への影響トップは「前向きな進路選択の醸成」と「地域や社会への興味・関心」
では探究活動は、生徒の進路選択にどのようにつながっているか(図表10)。98%が「進路実現につながる」と感じており、具体的には「前向きな進路選択の態度の醸成につながる」61%、「地域や社会への興味・関心が高まる」60%が拮抗して高く、2大効果といえる。
大短進学率別に比較すると特徴が見られ、進学率の高い層では「志望校や志望分野選びにつながる」、70~95%未満の高校で「総合型選抜等、入学者選抜に活用できる」が高く、進路選択への直接の影響が想定されている。70%未満の層では「地域や社会への興味・関心が高まる」が高い。なお、「前向きな進路選択の態度の醸成につながる」は進学率に関係なく6割前後と高く、探究活動を通じて自らの生き方を考えるキャリア教育的な効果は、
調査を通じて見えたことは大きく2点。まずコロナ禍の影響について、プラス面はICT活用が計画以上に進展したことで、新学習指導要領の全面実施に向けた取組が積極的に進められようとしている。マイナス面は進路指導。高校では影響を最小限に留めるべく優先度高く取り組んだが、縮小を余儀なくされた。“高等教育機関のリアルな学び”を知る機会を逸した今年度の新入生への丁寧なフォロー、現高校2~3年生に向けた情報や経験の提供が重要になるだろう。第2に高大接続改革の流れを受けた入学者選抜改革と新学習指導要領の取組の方向性がつながってきたこと。授業改善、探究を中心に未来社会に向けて高校生に必要な資質・能力をいかに育むかという本質的な改革が進み、変化の兆しが表れている。
教育改革の嵐で「変わるべき」と言われ続けてきた高校。掲載できなかったが、「コロナ禍の危機を“機会”として前向きに捉え、試行錯誤から工夫が生まれ、業務の見直しや改革を進めることができた」という声も寄せられた。入学者選抜改革への対応、新学習指導要領への準備に加え、コロナ禍、GIGAスクール構想…と大きな変化を経験した2020年。「変化対応力」が試され、改革推進に苦心惨憺しながらも意志を持って前に進もうとする高校の動きが浮かび上がってきた。高等教育機関側も高校の変化や期待に応え、対応していかなければならない。
「高校教育改革に関する調査2021」結果詳細は http://souken.shingakunet.com/research/2019/02/post-9b3b.html/ でご覧いただけます。