進路指導の現場は今 前編


2022年度は高校で新課程が本格導入された。新課程対応となる2025年度入試に向けた検討が各大学で進むなか、高校の進路指導の現場はどうなっているのか。東京都高等学校進路指導協議会事務局次長で、東京都立葛飾総合高等学校進路指導部の主任でもある浦部ひとみ先生にインタビューした。

浦部ひとみ先生
・・浦部ひとみ先生プロフィール・・
進路多様校を中心に、都立高校で長くキャリアを積む。
教育委員会や各種の行政機関、NPO等と連携しながら、進路指導・キャリア教育の充実に取り組んできた。
現在、東京都高等学校進路指導協議会事務局次長も務め、精力的に社会に対して問題提起や発信を行っている。
担当教科は外国語(英語)。

新課程導入:定義や状況が揃わない「探究」

 探究については教員同士の勉強会や研修会も多くありますが、様相的にはある種のバズワードになっているようです。あらゆることが探究という概念に包含され、内容や方法は学校によって差が大きく、温度差もかなりある。いわば、現場の受け止め方はまちまちであると思います。

 探究活動自体は、学力の高い生徒がパフォーマンスを上げていくと大学の研究のように面白くなってくるのですが、そのあたりは生徒の個性や能力、学校としてのスタンスや内容に多分に左右されます。また、私立中高一貫校が6年間かけて育む在り様と、担当教員の異動も多い都立高校が3年間で取り組める内容は必然的に異なるといえます。

キャリア・パスポート:継続蓄積を担保する運用ルールが不徹底な現状

 2020年4月から、初等・中等教育ではキャリア・パスポートが導入されました。「学びの地図」とも称され、小学校・中学校・高校と、児童・生徒が学校生活で取り組んだ内容について記録し、教員からのフィードバックをもらいながら成長の過程を可視化するシステムです。たしかにそのコンセプトは素晴らしいのですが、実際は高校入学時点で生徒からキャリア・パスポートの提出がないために運用が滞ってしまったり、記入状況がまちまちだったり、タブレットで入力する学校もあれば紙で運用する学校もあったりと現場任せなところがあり、結果として運用負荷が高くなってしまっている。もったいない状況だと感じます。都立高校では文部科学省が作成しているひな形をもとに各校独自のスタイルで全校運用していますが、小中学校からの記録の蓄積が不十分であると本来の目標の達成は難しくなります。現在はこれをそれまでの生徒の道筋を理解するのに有効な手段として活用し、実際の教育の場で生かしていく方策を作り出していく過渡期であると感じます。

 ほかにも、学習指導要領の改訂に基づき観点別評価が導入されたことに伴って、通知表や調査書の様式も変更となっています。とりわけ主体性評価等を進学指導とどう繋げていくのかなど、検討や議論を深めていく側面も多いと感じます。

デジタル活用:教育利活用以前のところでスタックするケースも

 GIGAスクール構想で都立高校でも現在の1年生よりタブレットを活用しての授業が可能となりました。もちろんデジタルの力を用いて教育の幅を広げるというコンセプト自体は素晴らしいのですが、実際には「タブレットを出して」と声を掛けると、持ってきていない、充電してきていない、故障しているのか作動しない…といった、教育に入る前段階でてこずってしまう例もあります。普段生徒が使っているスマホと、学習用のタブレットは操作性がやや異なり、BYODを進めるには諸条件が揃わず、なかなか理想通りの状況にはなりません。本校は情報科の専任の教員が2名いるため、授業中以外も教員からサポートを受けやすい環境ですが、もっと底上げというか、基本的な日常的なケアが必要だと思われます。

 また、教員のICTリテラシーにだいぶ格差があります。授業に積極的にICTを取り入れている教員と、ICTの導入に消極的で従来通りの黒板を使った一斉講義形式に拘る教員もいます。

年内入試へのシフトで表面化する「狭間の期間」の問題

 切実な問題としてあるのが、年内入試合格者への入学前の対応です。本校の場合、2022年10月24日現在、約70%の生徒が大学・短大、専門学校に総合型選抜(AO)や学校推薦型選抜で受験または受験申請をしていますが、昔も今も変わらない現象として、なかには合格をもらい、「受験勉強」が終わると一気に気が緩み、高校での学習へのモチベーションが下がる生徒がいます。そうした生徒は一般選抜に向けて勉強している周りの生徒の集中力を削いでしまう原因にもなりかねません。私の経験で、3年1学期までの成績はオール5に近く、学校生活に対しても前向きで素直だった生徒が、推薦の校内選考を通った時点で態度を翻すということさえありました。また一方で、カウンセラーの先生に「校内選考を通ったあと、何のために高校に通ったらいいのか分からない」と相談に行く生徒もいます。相談に行くだけまだいいのかもしれませんが。もちろん高校側もその事態を看過しているわけではありません。大学にはまだ入っていないが、高校での勉強や諸活動はもう終わり、と自己認識してしまういわば「狭間の期間」をどう乗り越えて、次のステップへと繋げるかという接続の問題として大きく捉えているところです。場合によっては大学生活への準備ができていない、むしろ合格後に学力もモチベーションも低下した状態で入学式を迎えることになりかねない。今後年内入試・合格のパターンが増加していくと、それに伴って高校現場でさらなる対応が求められてくる可能性も出てきます。大学にお願いしたいことは、合格後は種々の課題を出して頂いたり、共通テスト受験を課したりなど、進学後も想定した学力・意欲両面での教育的な負荷をかけてほしいという点です。人材育成は高校、受験、大学、と分断された状態で進められるものではありません。教育の一貫した流れの中で人は育まれ、社会を担う人材として受け継がれるものです。

高校から見ると、大学教育に根差しているとは言い難い入試も多い

 入試の多様化が進むと生徒の選択肢は広がりますが、教員の情報収集や指導が追いつかなくなるというのが正直なところです。とある大学では、年内入試合格者の学費納入期限を1次締め切り12月、2次締め切りを2月下旬とし、他大学に合格した場合は全額返還するという仕組みがありました。ここにきて多様な入試制度に加え学費の納入期限の確認まで一つひとつが複雑で毎年の変更点にも目を配るとなると、多くの資料を突き合わせながら高校の進路指導部が全て把握することにはかなりの負荷が伴います。学部学科の改変や入試制度など、データや紙の資料のみならず担当者による「解説」が欲しいというのが本音です。大学選びはその後の人生を左右する大きな岐路でもあるわけですから。一方一部の大学においては上位校を志望する生徒をターゲットとする併願方式に目が向いているのではないか、と思われる点が気になります。総合型選抜でありながら、他大学の一般選抜型入試がうまくいかなかった生徒をターゲットとするとなると、求める学生像(アドミッション・ポリシー)や入学後のモチベーションはどうなるのでしょうか。少子化がここまで進んでくると学生数の確保を優先するのは理解できるのですが、そもそもどのような大学教育を学生に提供するのか、そのために入試でどのような学生を選抜するのかを原点に立ち返って考えてほしいと思います。

進路指導の現場は今 後編
https://souken.shingakunet.com/higher/2022/11/post-3308.html



文/カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2022/11/25)