進路指導の現場は今 後編
2022年度は高校で新課程が本格導入された。新課程対応となる2025年度入試に向けた検討が各大学で進むなか、高校の進路指導の現場はどうなっているのか。東京都高等学校進路指導協議会事務局次長で、東京都立葛飾総合高等学校進路指導部の主任でもある浦部ひとみ先生にインタビューした。
・・浦部ひとみ先生プロフィール・・
進路多様校を中心に、都立高校で長くキャリアを積む。
教育委員会や各種の行政機関、NPO等と連携しながら、進路指導・キャリア教育の充実に取り組んできた。
現在、東京都高等学校進路指導協議会事務局次長も務め、精力的に社会に対して問題提起や発信を行っている。
担当教科は外国語(英語)。
https://souken.shingakunet.com/higher/2022/11/post-3307.html
生徒の多様化への対応に追われる高校現場
恐らく、多くの大学の方々が思う以上に高校現場では生徒が多様化しています。本校は総合学科の高校で、120を超える選択科目から自分に必要な科目を選び、自分の時間割を作って学びます。生徒の多様な進路を支えるべく、キャリア教育を充実させるため、地域連携も積極的に行っています。しかし本当に自分のやりたいことを軸に総合学科で学びたい層と、何となく本校に入学した、という層との差はかなりあります。早い段階で英検2級に合格して学校推薦型選抜を早期に見据えたり、自分のオリジナルカリキュラムを構築して主体的に学んだりする生徒がいる一方、中学校までの基礎学力の定着が十分とはいえずに入学してきたと思われる生徒もいます。本校に限らず、公立高校では家庭環境や経済環境等において多様な課題を持つ生徒も少なくありません。そのようななかでも、奨学金を借りる等、様々な努力を重ねて進学への意欲を維持し受験に挑むケースも増えています。以前とは異なった多様な学生が入学してきているという実態を受けて、より多面的なアプローチで成長を促してほしいと考えます。かつてのエリート育成を担っていた昔のスタンスのままでいる大学はないと思いますが、自律的な若者を前提にした学生支援のままで、十分なのか心配です。確実に高校生を取り巻く環境は変わってきています。
大学は高校での探究活動を適切に評価し、引き継いでほしい
特に探究活動での成果を総合型選抜や学校推薦型選抜の入試に生かそうとする生徒にとって、大学入学後の成果検証がGPAに偏りがちというのは違和感があります。これは高校教育と大学教育の接続の問題でもあるのですが、高校は今、探究を主軸にした新課程シフトが進んでいる。特に難しい点の一つは探究学習の担当部署や運用方法が学校によって様々であり、また、ただでさえ多忙を極めている教員がさらに時間や労力を割いて対応しているということ。本来のコンセプトに立ち返れば、予測不可能といわれる社会であっても、自分の将来を見通して生きていくために必要なことを自分で修得していける人になることが探究の導入目的です。そのことと大学入試との位置関係が十分整理しきれないまま、現場では日々授業が進行しています。探究活動は授業内だけではなく、本人の生涯にわたる問いへと引き継がれていくべきもの。だから、入学後どう継続されているのか、途切れてしまっていないのか、取り組んだ内容について本人の主体性が薄れていないのか等といった点が気になります。また、高校時代の探究への取り組みと大学入学後のパフォーマンスとの相関関係等についても、高校側にもフィードバックを頂けると有り難いです。高校側も特に昨今のコロナ禍も相まって、ある意味試行錯誤で実施しているという側面が否めないだけに、現状どうなっているのかの情報提供が欲しい。卒業生の大学入学後の様子については、担当の方から「頑張っていますよ」と言われることも多いのですが、それだけではなくて、具体的にどういう活動をしているのか、大学でどう評価されているのかを知ることができると、在籍している生徒の指導にも反映させやすくなります。
なお、「高校の探究の授業」ではなくて、大学側もその取り組みをサポートして頂けたら理想ですが、現状は高校生にそこまでしてやらないといけないのかという意見の大学教員もいると聞きます。本来、高大連携は双方向であるべきで、お互いメリットがあるから浸透するはずです。高校からすると、大学のリソースを高校の探究に投入して頂き、高校から大学、そして社会へと人材を送り出していく過程を協働作業と受け止める必要があるという感覚です。今後ますます多様な生徒が大学に進学していきます。大学はこうした側面を現実的なものとして受け止め、高校と連携して人材育成という視点を大きな戦略から捉えてほしい。こうした情報共有の場も足りていないと感じます。多様化した若者を自立へと導くのは、社会全体の責務であり、どこか一箇所で担うものではない、と思います。それが生涯にわたっての学びへとつながることにもなり、大学の教育研究にとっても大変意味のあることなのではないでしょうか。十代後半から二十代にかけて、高校と大学、双方のサポートによって育まれ、自立した若者へと成長し、社会の担い手として活躍する人材となる。かれらがこれからの世の中を支えていく原動力となるという事実と常に向き合いながら、日々の教育活動に取り組むことこそ、教育関係者の使命であり、また学習者本位の教育なのではないかと思います。
高校と大学が一体となって自立した若者を育てる意識を
新課程入試で最も気になることの一つに、教科「情報」の扱いがあります。共通テストに組み込まれていることは分かっていますが、個別の入試でもどのくらい入ってくるのかには注目しています。また、英語外部試験利用入試の状況にも注目しています。外国語活用能力は高校までの取り組み状況がどの程度大学に引き継がれるのでしょうか。共通テストにおいては見送られましたが、ほかの拠り所を探すのは容易ではありません。「資格試験」として考えた時、高校ではやはり英検が一番普及していて、校内で掲示もしていますし、指導もしている点を是非踏まえていただきたいと考えます。また、入試に関する様々な情報は、意図や目的を含め、迅速かつ明確に示していただきたいと考えます。
一方コロナ禍にあって、問題の本質が見えにくくなっている実態もあります。入学後のミスマッチや中途退学等を防ぐ意味でも、高校で展開されている教育を正しく理解したうえで、双方にとってメリットのある高大連携活動についても検討できればと思います。その際個々の学校のニーズに合った汎用性のある連携を念頭に、組織的な運用ができると良いと考えます。また、ICTを上手に活用し、新しい時代の連携の仕方を模索する取り組みも本格化しています。いずれにしてもまずは、高校・大学双方の理解を深めるためのディスカッションの場を設定することが必要です。私ども都高進でも今年度新たな取り組みとして、探究学習をテーマとし大学教員に登壇していただいて双方の理解を深める、大学進学研究協議会を行いました。今の時代に合わせ、効率よく対面方式、オンライン方式を組み合わせながら、これからの若者の自立、育成に向けて社会全体が具体的に動き出す時期です。改めて、若者の自立に無関係の大人は一人もいません。皆が当事者であるという意識をより一層鮮明にもち、力を結集して取り組んでいくというスタンスですね。一緒に頑張りましょう。
文/カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2022/11/25)