新世紀のキャンパス 新E校舎/京都女子大学
10年続くキャンパス整備
京都女子大学のキャンパスは京都市東山区に位置し、清少納言が枕草子においてその美しさを讃えた阿弥陀ヶ峰の山麓に広がっている。周囲を寺社仏閣に囲まれた環境にあるため、京都市の厳しい建築条例の規制を受け、建て替えた場合には規模を3分の2程度に縮小する必要が生じる。また敷地の拡張も難しいため校舎の建て替えが進まず、老朽化・耐震化が課題となっていた。2010年に隣接地約800坪を取得したことを機に、校舎のローリングを含むキャンパス整備計画を策定。新学部設置に伴う校舎の新築や耐震化に取り組みはじめ、以降10年間で8棟の新築、2棟の増築、5棟の耐震 化工事を実現した。本稿で紹介する新E校舎は第二次整備計画の締め括りとなる事業である。
学生主体のキャンパス作り
キャンパスのどこかで常に工事が行われている状況は、在学生にとっては騒音や埃、通行に支障のある迷惑な空間でしかない。そのような認識を肯定的に変化させるため、建築現場で学生が学ぶキャンパスプロジェクトを推進している。課外活動の位置づけではあるが、工事現場の見学や建築のプロから話を聞くだけでなく、特定の空間を題材に活用方法を提案することも課題としている。
2017年竣工の図書館新築工事では学生からの提案にもとづいてカフェを整備し、完成後の運営についても学生が行っている。新校舎においても、学生食堂に求める機能等についてグループワークを行っていたが、コロナ禍の影響により最終的な提案を策定するには至らず、設計者において食堂の空間作りコンセプトに学生の意見を取り入れて整備を行った。
with コロナ時代のキャンパス整備
2018年着工の新校舎はコロナ禍前の設計であり、その影響が分かり始めた時点では既に内装の施工段階まで進んでいた。そのため感染症対応の抜本的な改修は困難であったが、換気量の増強や空気清浄器、サーキュレーターの設置などの追加対策工事を実施し、withコロナ時代に活用する校舎として安心安全な環境整備に努めた。
また新校舎は様々なコミュニケーションが生まれる場所であることをコンセプトに設計されたものであり、緊急事態宣言が明け学生達が再び登校した4月には、コロナ禍で望まれることではないが学生達の歓声が新校舎から沸き起こった。もちろんマスク着用や三密を避けるなどの行動は意識しているが、屋内外の空間をうまく活用し、新校舎でのコミュニケーションを楽しんでいる様子が印象的であった。コロナ禍で学生同士のコミュニケーションの機会が奪われていくなか、改めて大学として様々なコミュニケーションを生み出していくことの大切さを認識する出来事であった。
さらに建築面積を有効に活用するため、外部廊下構造を採用しており、全ての教室が直接中庭に面していることも大きな特徴である。敷地の高低差も大きく、正門を入ってすぐのシンボリックな空間、ステージ状に段差を設けた中庭空間、大きくドライエリアを設けた地下空間等、いずれも教室等の内部空間と外部空間を一体的に活用することが可能な設計となっており、学生達の創意工夫によって、授業以外にも様々な活用が期待される。
女子大学であることの特色
本学が女子大であることの特色として、各階に特徴的なパウダールームを設けており、ここも学生同士の重要なコミュニケーションの場となっている。このような女性の目線に合わせた施設の整備にあたっては、設計者、施工者ともに女性担当者を現場に配置することを意識しており、建築業界で働くロールモデルとして工事現場を活用することも本学キャンパス整備の特色といえる。
本学のキャンパス整備は第三次整備計画に入っており、2024年まで継続する予定である。
階段状に設けられた段差は学生の発表の場としても活用。
京都東山に広がるキャンパス。
2020年、京都女子大学は創基100周年を迎えた。
京都市の厳しい建築規制のなか、京女の新たな顔となる低層校舎。
中庭の様子。
敷地の高低差をうまく利用した地下空間。
フロアごとに異なる内装のパウダールーム。
学生食堂は3つの空間で構成され、学生の利用目的に応じて使い分けることができる。
外部空間との連動性を意識した学生ラウンジ。
コロナ禍に対応した換気設備と床材。
壁面も活用したアクティブラーニングスペース。
全ての教室が中庭に直接面する外部廊下構造。
(文/竹内康弘(法人本部長))
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