新たな学びのデザインは大きなゲームチェンジへの対応(カレッジマネジメント Vol.232 Apr.-Jun.2022)
2014年12月に中央教育審議会は、答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」、いわゆる『高大接続答申』を取りまとめた。この高大接続改革は、2016年3月「高大接続システム改革会議」に引き継がれ、その後大学入試が大きな改革の目玉として取り扱われることとなる。しかし、高大接続改革の本来の目的は、単に入学者選抜改革にとどまらず、社会環境が大きく変化するなかで、高校教育、大学教育、それをつなぐ大学入学者選抜を一体的に変えていこうという2030年に向けた壮大な教育改革である。2030年というのは、高大接続改革のなかで策定された新学習指導要領(高校は2022年度から本格導入)で学んだ生徒達が、大学を卒業して社会に出るのが2030年頃だからである。
社会が変われば求められる資質・能力も変わる高大接続答申にある危機感は、時代が大きく変化するなかでは、求められる資質・能力が変わってくるということだ(図参照)。これまでの日本は、人口ボーナス期の高度成長期に構築された工業化社会に最適化され、欧米という成功モデルをキャッチアップするための社会システムであった。そのため、1 つの正解があるという前提で、それを早く効率的に求める力、いわば『情報処理力』が求められてきた。日本人という同一文化・同質化した社会で、年功序列・終身雇用・企業内労働組合という日本型雇用の“三種の神器”のなかで積み上げるキャリア形成であった。
しかし、これからは、日本が少子化による人口減少社会を迎える一方、人口の軸は欧米から東南アジア・インド・アフリカへ移り、グローバルに多極化する時代がやってくる。デジタル化による技術革新等により、身につけた知識・技能はすぐに陳腐化してしまい、AIに置き換わると言われている。こうした、過去に経験したことのない多様化、複雑化する変化の激しい時代を、人生100年時代と言われるなかで生き抜いていくためには、多くの情報や得た知識・技能を活用して、一つの正解ではなく複数の納得解を見いだしていく力、いわば『情報編集力』が求められる。異文化のなかで多様性を許容し、認め合い、自分のキャリアを自分で切り拓く力が必要となってくる。
根本は主体的に生涯学び続けられる人の育成その根本は社会の変化に対応し、主体的・能動的に生涯学び続けられる人を育成することである。そのためには、時代の変化に対応した「新たな学びのデザイン」が必要となってくる。受動的から主体的へ、teachingからlearningへ、全体最適から個別最適へ、単一から多様へ、課題解決から課題発見へ、文理分断から文理融合へ、入学時の価値から卒業時の価値へ。キーワードを書き出しただけでも、数多くの変化、即ち、様々なモノサシが大きく変わる「ゲームチェンジ」が起こっているのである。現在、中央教育審議会では、こうした新たな時代に対応するため、設置基準の見直しも検討されている。
今回の特集では、新たな学びをデザインしようとする高等教育機関の前向きなチャレンジや胎動をお伝えした。複雑化する社会課題に対応するための学部・学科の新設、21世紀型のリベラルアーツ教育導入や大学院改革。既存の概念に囚われないコンセプトに基づいた20年ぶりの高等専門学校の新設等、取り組みは様々で、決して正解があるわけではない。しかし、共通しているのは、ゲームのルールが変わりつつあることに気づき、それを見過ごすことなく真摯に対応し、未来を見据えて自らの強みを生かした改革を進めていることだ。私は、何度も「大学経営はタンカーの舵取りのようなもの」と主張してきた。社会は刻々と動いている。気づいた時には大きく航路を外してしまっているといったことにならないためにも、まさに今を新たな学びのデザインを構築する好機として捉えるべきなのではないだろうか。
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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長
小林 浩