探究2.0は学びのイノベーション(カレッジマネジメント Vol.233 Jul.-Sep.2022)

ネガティブ・クリーニングによる文理選択

 日本の高校の3校に2校は文理選択を実施している(※)。大半は高校2年生から文系・理系のクラスに分かれるが、高校生はいつ決断しているのか。高校生にインタビューした際に驚いたのは、高校1年生の夏休み前後には、用紙が配られて、文系か理系かを選択するよう指導されているということだ。高校に入って間もないその時期に、将来就きたい仕事がイメージできている生徒はそれほど多くない。ではどうやって、文系・理系を選ぶのか。数学が嫌いだから文系、地理・歴史を覚えるの苦手だから理系といった、いわゆるネガティブ・クリーニングによって嫌いなものを排除する形で選択する傾向が強い。その時点で、排除された教科への興味・関心は薄れてしまう。このようなことをやっているのは、私が知っている限りでは日本だけではないだろうか。生徒本人が意識しないうちに、受動的な形で学ぶ教科が限定され、進路選択が進んでいくのである。

いかに学生の好奇心に火をつけるか

 しかし、その弊害が叫ばれ始めている。一歩、社会に出れば、複雑化する社会課題の解決に向けて、文系・理系の枠を超えた知見が求められる。受験を突破するための文理分断から、社会課題の解決に向けた横断・融合へ、時代のニーズが変化しているのである。そこで、新学習指導要領では、横断的・総合的な学習として「探究学習」が導入された。「探究学習」とは、生徒自らが「問い」を立て、課題解決策を見つけるための一連の学びのプロセスである。文系・理系に拘わらず、身近な課題を発見することが重要で、まさに生徒の好奇心にいかに火をつけられるかがポイントとなる。特集事例でご紹介したように、高校では、探究学習を通じて受動的な生徒を主体的な学習者に変えていけるよう、様々な取り組みを推進している。高校では、TeachingからLearningへの移行が、徐々にではあるが着実に進められているのである。

個と向き合う仕組みづくりにチャレンジ

 2025年には、新学習指導要領で学んだ生徒が大学に入学してくる。その時、大学は、入学した学生のモチベーションに火をつけ、新たなる「問い」を抱かせて、さらなる成長に導けるだろうか。いきなり大教室での座学に放り込まれて、がっかりすることはないだろうか。自ら「問い」を見つけ、研究課題としていく探究のプロセスは、元々大学の本業である。しかし、せっかく大学に入学しても約7万人が退学しているという現状がある。進学校の教員を中心に、せっかく高校で探究学習に取り組んでも、大学入試で評価されないという困惑の声をいただくことも多い。どこかで期待していた大学とのミスマッチが生じているのである。

 そのためには、高校までに培った力を見いだし、入学後の学びとの接続を重視した入学者選抜を導入したり、大学入学後の学びを時代のニーズに合致した形でアップデートできるかどうかが課題となる。学生の興味・関心や探究テーマは、十人十色である。だからこそ、学生一人ひとりが成長するための、個別最適な仕組みづくりが必要になる。文理横断型のカリキュラムや副専攻の導入、カリキュラム・アドバイザーやメンター制度の導入等が様々な大学で取り組まれている。個別最適に向けたLMSの導入や自身の学びを振り返るためのリフレクション、フィードバック機会の創出のため、教育DXの活用も期待されるところだ。そのうえで、学生自身が何を身につけたのかを自覚化することが重要である。確かに手間はかかる。今回インタビューした桜美林大学の畑山学長は、「探究2.0は学びのイノベーションだ」と言い切った。自己肯定感・自己効力感が低いと言われる日本の若者たち。教職員全体で学生達に“小さな成功体験=ガッツポーズ”を経験させられるか。それが学生を主体的な学習者に成長させるポイントではないかと考えている。

※ 2013年3月国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系選択に関する研究最終報告書」

高校・大学を通じて求められているもの

 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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