多様な留学生ニーズに対応した 多様な教育プログラム展開/立命館大学

立命館大学 国際関係学部教授 国際部長 中戸祐夫氏

 日本学生支援機構(JASSO)調査で2022年度2698名もの留学生を受け入れている立命館大学(全国3位)。大学としてどのような課題意識を持ち、施策を展開しているのか。国際関係学部教授で国際部長の中戸祐夫氏、衣笠国際課長の片岡龍之氏、総合企画課長の岡本香織氏にお話を伺った。

大学が根差す精神に照らした多様性獲得

 立命館における国際化のモットーは、「世界に開かれた立命館」である。近年の関連施策を図1に概観するに、「留学生のニーズに応じてバラエティー豊かな教育プログラムを開発する」「そのために海外大学との連携枠組みを積極的に活用する」といった方策が見えてくる。

 では、大学として留学生獲得に注力するのはなぜか。「自由と清新を理念に掲げる立命館は、多様性の創造が清新(イノベーション)を生み出すという考えのもと、多様な国際プログラムを展開しています」と中戸氏は述べる。留学生を獲得することは多様性の実現に寄与し、自分と違う見方・考え方を学び、異なるアイデアを組み合わせることがイノベーションにつながる。「同質性の高い状態よりもキャンパスが活性化し、豊かな教育・研究につながると考えています」。また、卒業後自身による広報効果も見逃せない。「立命館良かったよ、という卒業生の声が、継続的な留学生獲得の基盤には欠かせません」。そうしたネットワーク効果を生むためにも、留学の満足度を高める必要がある。だから、留学生ニーズに即した多彩なプログラム開発に余念がない。具体的に見ていこう。


図1 近年の国際関連施策ピックアップ、図2 SKPの3つのトラック


留学生のニーズに対応した多彩な教育展開

 立命館独自の措置として注目されるのが、国際関係学部アメリカン大学・立命館大学国際連携学科(ジョイントディグリー・JD※1)とグローバル教養学部(デュアルディグリー・DD※2)の存在だ。紙幅の関係で詳細は割愛するが、いずれも国内屈指の海外連携による教育実現であり、特に海外からの期待が大きい。「認知課題はまだまだありますが、国際的に稀有な価値として評価されています」と中戸氏は述べる。

 もう一つ、教育の幅を広げる役割を果たすのがSKP(Study in Kansai Program)だ。学位取得を目的としない留学プログラムで、期間は半年~1年程度。参加者のニーズに合わせて、図2に示す3つのトラックを用意している。2023年度秋学期の履修生はIJL97名、RCE71名、RCJ15名の計183名。コロナ禍が明けてから円安も手伝ってか履修生数は右肩上がりだという。その多くが交換留学生で、出身は25カ国・地域に及ぶ。「本学全体で見ると留学生出身は中国・韓国が8割を占めますが、SKPは出身の幅が広く、キャンパスの多様性に貢献しています」と片岡氏は説明する。

 SKP生が立命館を選んだ理由を聞くと(図3)、①関西にある大学で学びたい、②先輩や所属大学の担当者に推薦された、③幅広い科目が履修できるが上位で、特に①は半数以上の学生が答えるという。背景には日本文化への関心の高まりがあるようだ。③は、学部・研究科の壁を越えて様々な科目がとれるSKPの特徴がそのまま評価されている。欧米を中心にしたメジャー・サブメジャーといった履修システムに馴染みやすいプログラムでもあるようだ。

 一人ひとりのニーズに応じた横断的な履修が可能なのは、教員陣のバリエーションと履修相談に対応する職員のパワーに支えられているからである。「立命館では学生サポートを、組織縦割りではなく横断的に行う体制があります。慣れない外国で不安の多い留学生にとっては、こうした親身な対応は嬉しいのではないでしょうか」と岡本氏は述べる。教職協働が支える居心地の良さと、多彩なニーズに応える教育提供。その結果、一度母国に帰ってから立命館の大学院に再留学してくるケースも出てきているという。教育・研究の幅を担うのみならず、SKPをステップにした展開を担うポテンシャルもあるのだ。


図3 立命館大学を選んだ理由


日常的な国際共修の実現

 また、片岡氏が強調するのが「国際共修」という概念だ。「日本人学生が多様な出身の学生と直にピアラーニングできる環境がキャンパスで実現できること。留学生同士が知り合って化学反応が起こることも多い。そうした学び合いが生まれることが重要です」。よって、日常空間における国際化と学び合いが自然発生する環境こそが肝となる。その仕掛けとして、グローバルコモンズ「Beyond Borders Plaza(BBP)」や、各キャンパスの国際寮「インターナショナルハウス(I-House)」がある。前者では日本人学生と留学生の共修や交流機会がスタッフにより常時提供されており、後者では日本人学生が務めるレジデントメンター(2024年現在58名)が生活サポートやイベントの企画・運営を行う。そのほか、学生団体が留学生と交流する機会に対して大学が支援を行うこともある。「共に取り組む機会を多く創ることで、国際共修がキャンパス内外で日常化することを期待しています」と岡本氏は話す。片岡氏は、「教育・研究で成果を出す基盤を作るよう意識することで、国際部のみならず全学的に持続可能な展開になるようにと考えています」と述べる。

グローバルな『次世代研究大学』の実現を見据えて

 では現状の課題は何か。中戸氏は、「本学は学園ビジョンR2030において新たな価値を創造するグローバルな『次世代研究大学』を掲げています。今後を見据えると、現状学部生やSKPに支えられている留学生獲得の軸足を大学院にもシフトし、国際的に優秀な大学院生を確保することが優先課題です」と話す。

 片岡氏は、「SKPはアラカルト的履修になりやすいため、ニーズに対応しつつ体系化できる科目提供、特に英語開講科目のバリエーションは引き続き課題です」と意気込む。学部生の英語履修が可能な学部・学科については、SKP生についても門戸をさらに開けないか協議しているという。これは「非正規生の教育にどのような価値や役割を見出し、どの程度教育リソースを割いていくのか」という問題でもある。岡本氏は、「SKPのプログラムの多彩さが留学生の多様性確保につながり、それが大学院における国際展開につながり、これまで図らずも起こっていた好循環を戦略的に構築していくフェーズに来ている」とまとめる。立命館の国際化は新たなフェーズに差し掛かっているようだ。



(文/鹿島 梓)





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