進化する「AO型入試」高大接続答申における「多面的・総合的な評価」の特徴①概論(西郡 大 佐賀大学アドミッションセンター 准教授)

国立大学法人では来年度から始まる第3期中期目標・計画の策定が大詰めを迎えている。同目標・計画には、「入学者選抜の改善に関する目標」が新たに項目として加わった。もちろん、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体改革について(答申)」(2014年12月22日)(以下、「高大接続答申」とする)が反映された結果である。

本稿では、国公私立を問わず各大学が直面している「多面的・総合的な評価」を個別選抜改革としてどのように考えていくかを整理したい。なお、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」については、技術的な課題や測定領域など高大接続システム改革会議において慎重な議論が行われているため、その点には触れないことにする。

多面的・総合的な評価を重視する考え方は、特に新しいものではない。臨時教育審議会第一次答申(1985年)において、入試の多様化、評価の多元化が推進されたのち、「新しい時代に対応する教育諸制度の改革について(答申)」(1991年)に引き継がれ、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第二次答申)」(1997年)で「総合的かつ多面的な評価など丁寧な選抜」という現在とほぼ同じ表現になった。1990年代中頃までは、「過度の受験競争の緩和」が1つの主旨であったが、「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」(1999年)において、大学全入時代の到来を踏まえた「大学と学生とのより良い相互選択」という考え方と、「入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)」という新たな概念とともに評価尺度の多元化が推進されたのは1つの転換点であった。

その後、「学士課程教育構築に向けて(答申)」(2008年)、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)」(2012年)へと引き継がれ高大接続答申にいたる。高大接続答申では、小・中学校で積み上げられてきた「確かな学力」と「生きる力」を高等学校、大学教育において確実に発展させていくために、多面的・総合的な評価を中心とした入試に転換していくことを求めている。その最も大きな特徴は、「知識・技能」、「思考力、判断力、表現力」、「主体性・多様性・協働性」で構成される「学力の3要素」という具体的な評価対象が示された点であろう。これは、学校教育法第30条第2項で定められている「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度」における「主体的に学習に取り組む態度」を「主体性・多様性・協働性」に置き換えたものである。

この学力の3要素の出現により、「受験生の能力・適性等を多面的に評価する」から、「学力の三要素を踏まえた多面的な評価」という表現に変わった。文部科学省が各機関に毎年通知する「大学入学者選抜実施要項」でも2016年度より、「能力・意欲・適性等の判定に当たっては、学力を構成する特に重要な以下の三つの要素のそれぞれを適切に把握するよう十分留意する」という文言が加わっている。

つまり、各大学における個別選抜改革にとって、この「学力の3要素」を意識した多面的・総合的な評価を検討することが大きなポイントとなる。

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