蓄積を基盤とし、さらなる輝きを目指す/青山学院大学
最近はそうした機会もなかなかないかもしれないが、ろうそくで灯りを点すことになったとしよう。恐らく、多くの方が燭台の上に置かれることだろう。まさか枡の下に隠すことはしないはずだ。が、実はわれわれは気づかぬうちに枡の下に置いてしまっているのかもしれない。では、灯りを燭台の上に置いたら、どうなるのかが今回の話である。
CASE1としてご紹介するのは、青山学院大学である。“青学”といえば、音に聞こえたブランド校であるので、筆者の説明など要しないと思われるが、あえてご紹介すれば、2019年度現在で、11学部12研究科を擁する、全国的にも著名な私学のひとつである。東京都渋谷区という都会のまっただなかにありながら、静謐さも併せ持つ青山キャンパス、神奈川県相模原市にある閑静かつ美麗な相模原キャンパスと合わせて、約1万9000人の学生が学んでいる(2019年5月現在)。
本特集の調査が明らかにした通り、青山学院大学は高校生の目に魅力的に映っている。この結果をもたらした、青山学院大学が築いてきたものについてうかがうべく、初夏の青山キャンパスに三木義一学長、田中正郎副学長、橋本修副学長を訪ねた。
高校生の目に魅力的に映る大学の姿とその背後にある仕掛け
本特集の冒頭の調査解説記事の通り、青山学院大学の「志願したい大学」としてのポジショニングは極めて良好である。男女別に見ても、男子では例年の4位から3位に浮上し、女子でも2位から1位へと躍り出た(P8)。文系では、2018年度の1位をはじめ、常に3位以上となっている。理系でも10位台前半を保ち、健闘を続けてきている。
多くの方が、青山学院大学を、日本に古くからあるキリスト教系大学のひとつとしてご存じのことだろう。陸上競技がお好きならば、大学駅伝三冠(2016年度)、箱根駅伝4連覇(2015~2018年)の新鋭としてご存じかもしれない。才気にあふれる選手達のコメントの様子を記憶されている方もいるに違いない。
しかし、多くの方は「便利な地にあり」「雰囲気がよくておしゃれ」というイメージで捉えているのではないだろうか。たしかに、このイメージも高校生にはしっかりと共有されている(P10~「図表4 イメージ項目/関東」)。
では、こうしたイメージはどのようにして生まれるのだろうか。たしかに、オープンキャンパスに来た高校生が、キャンパスや界隈を歩けば、便利でおしゃれと認識するのもそう不思議なことではないかもしれない。
キャンパス内で特に目を引くものとして、AGU Book Cafを挙げることができるだろう。正門近くの7号館1階にあるAGU Book Caf、通称「ななCaf」では、人文系・社会科学系の専門書や文庫、新書、語学書にとどまらず、洋書も揃っており、青学らしいラインナップである。
(あえてこう言うが)イマドキの高校生なら「青学TV」からも大学の雰囲気を感じとるかもしれない。2017年にスタートし、2019年7月現在で視聴回数150万回に上る「青学TV」では、大学の日常風景が分かるチャンネル(「今週の青学」)や大学に縁のある話題の人物を取り上げるチャンネル(「青アンテナ」)等、多彩な情報発信がなされている。「青学TV」のコンテンツは、学生が中心となって制作されているからか、短いもので1分、長くても6分程度と、スマホ等で動画を見るのが当たり前になった世代にとっては見やすいつくりだ。
さらには、青学OBのYouTuberとのコラボも行っており、大学構内で隠れんぼをしたり、学園祭に潜入したりした動画の視聴回数は、合計10万回を超えている。オープンキャンパスに来られず、代わりとして見た視聴者がいたら、現地に行かずとも青学を身近に感じた者もいたことだろう。
さて、しかし、これらの取り組みは確かに親近感や好印象を与えるけれども、それだけでは「ここで学びたい」という意欲にはつながらない。お察しの通り、青山学院大学では両者を架橋する工夫がなされている。
前述の「青学TV」には、青学での教育や研究を紹介するチャンネル(「アオ・ガク・モン」)がある。「今週の青学」等の動画に交えて、青学での最新の研究や学べることも分かるようになっている。あるいは「青アンテナ」で取り上げられる在学生やOB・OGの姿も、高校生にとっては、自身の未来の姿、ロールモデルとして、隠れたキャリア教育の効果を持つことだろう。
また、「ななCaf」も、書籍売り場が段々と狭まることで品揃えもハウツー本等に限られてしまい、売れず、ますます狭まるという悪循環に陥っていたのを打破することを企図として整備されている。専門書や洋書が改めて取り揃えられたのも、ブックカフェであるのと同時に、それまで知ることがなかった知に出会う場所として、学びへの期待が込められているのである。オープンキャンパス等で店舗に立ち寄った高校生のなかには、学びへの期待を感じ取る者も出てくることだろう。
これらの取り組みは、三木学長の言葉を借りれば、「おしゃれで素敵な大学」であったのを「おしゃれで素敵で“知的な”大学」へと変えるものであった。近年の青山学院大学が展開してきた打ち手の根底には、教育と研究へとつなげ、好循環を促そうとする視点が息づいている。
前進を促すビジョン「AOYAMA VISION」
さて、こうした好循環を促そうとする試みはほかにもあり、かつ、確立したビジョンがそれを支えている。
法人全体でかかげられている「AOYAMA VISION」を受け、大学では10のアクションに取り組むことが2017年に定められた(図表1)。いずれもご紹介したいところだが、紙幅の関係から、今後のブランディングに特に関係してくるものを取り上げることとしたい。
ひとつは、ACTION2「先端研究への挑戦と次世代研究者の育成」に基づいた、統合研究機構の設立である(図表2)。30年の歴史を持つ「総合研究所」に、「総合プロジェクト研究所」を併せるかたちで2018年4月に設置された。「総合研究所」は学内資金で、「総合プロジェクト研究所」は競争的外部資金に学内資金のマッチングファンド方式で運営される。図表2で分かる通り、バラエティに富んだ、そして興味を引く研究が並んでいる。「これからの研究の最先端となるもの」(橋本副学長)が選ばれている(ちなみに、青学TVを発展させたプロジェクト研究所も設置されている)。また、これから産学連携がますます重要となることに鑑み、「イノベーション・ジャパン2018」への出展や産学連携イベント「Meetup in AGU」の学内開催(相模原キャンパス)等、青山学院大学の研究成果について企業の理解も得るべく、積極的に打って出ていることを橋本副学長は教えてくれた。学内で取り組まれてきた研究を可視化し、さらなる発展の土壌となる点でも、統合研究機構というプラットフォームの役割は大きい。
ACTION3「地球公共精神の涵養と社会を支えるリーダーの育成」も進展が見られており、全国の14の自治体と包括連携協定が結ばれている(2019年7月現在)。なかでも岡山県総社市に注目したい。同市は、2014年3月に文部科学省の教育課程特例校(英語教育特区)の認定を受けて以来、英語教育に力を入れてきた。同年10月に結んだ「英語の青山」との連携協定は実を結び、英語教育研究センターの研究蓄積を基に、特例校の児童生徒の英語力は伸びてきている。例年、教育支援ボランティアとして足を運んでいる学生達の貢献も大きいことを見逃してはならないだろう。
英語つながりで若干の脱線をお許しいただけるならば、この「英語の青山」としての貢献はほかにも行われており、品川区における義務教育段階の英語カリキュラムには青山学院大学教員の提案が採用されている。平成29年版学習指導要領では、小学校での「外国語」が新設されたこともあり、この領域で経験豊かな青山学院大学が果たし得る役割は従前よりも大きくなっている。
外向きだけでなく、学内にも英語学習のさらなる推進の目は向けられている。英語での専門講義科目は全学で約200科目に上っており、既に経営学研究科には英語のみで修了できるコースが設置されている。海外大学との協定は150校を超えており、教育研究における連携を通じてグローバル・プレゼンスをますます高めることだろう。こうしたレガシーを基盤に、キャンパスの国際化を一層推進し、留学生を増やすために、2017年度、国際学生寮を開設し(ACTION1)、英語専門科目を300まで増やす予定(ACTION4)。「受験生のイメージと比べると、まだまだ強化しないといけない」(三木学長)との認識を語ってくれた。その歩みは止まることがなさそうだ。
2019年4月には、ACTION5「多様化する教育ニーズへの対応」に基づき、11番目の学部として、コミュニティ人間科学部が設置された。地域をいかに支えていくかという、今後の日本社会において極めて重要な問題に、日本の各地を支えるコミュニティ・リーダーの育成を以て取り組み始めている。同学部では、実践知を育むフィールドワークが重視されている。というのも、地域が直面している、未だ答えが見つかっていない問題と格闘し、地域に向き合える人を送り出したいからだ。また、ここでも、青学の培ってきたものが生かされている。「国際社会のことも理解でき、そして地方に根付く。そういう人材の育成を目指している」(橋本副学長)。
さて、こうした取り組みは教育研究の魅力をさらに高めていくわけだが、その魅力が広く伝わり出している可能性、その兆しは、本特集の調査結果にも見て取ることができる。『学びたい学部・学科がある』が3位に上がってきている(前年度4位)。今年度調査から始まった分野別志願度を見ると、「外国語」で1位のみならず、「教育・保育」及び「人間・心理」でも1位を取っている。その他の文系分野でも軒並み4位以上、理系も7位以上である(いずれも関東エリア、P40~)。既に良い結果なのだが、上述の通り、あぐらをかくことはない。ますますその魅力が伝わっていくに違いない。
おわりに─燭台の上で輝く「光」
ただし、ここでわれわれが誤解してはならないのは、上述の取り組みのいずれもが学内に萌芽が見られたものを掬い上げて始まった、という点だ。「基本は既にあるもの、ありながらも発見されていないものを、見えるようにするというのがわれわれ執行部の思い」だったと田中副学長は言葉を添えてくれた。新たに始まったものは、青学の学生や教職員が積み重ねてきたものを掘り起こし、さらに前進していくための足場を強めるしかけを付け加えたところであり、あくまでも内にあるものを大切にしたアプローチだ。
青山学院大学のスクール・モットーである「地の塩、世の光」とは「あなたがたは地の塩である」「あなたがたは世の光である」と主イエス・キリストが弟子に向かって語られたことに基づいている。点した灯りを枡の下ではなく燭台の上に置き、「あなたがたの光を人々の前に輝かせる」こと、つまり、人々に「あなたがたの立派な行いを見せる」ように説かれる。
筆者は宗教学者でもクリスチャンでもないが、少し踏み込むことをお許し頂けるなら、青山学院大学の学生、教職員は、集まったその時から「地の塩、世の光」なのだろう。であれば、学生、教職員一人ひとりの取り組みが放った「光」によって浮かび上がったものが、大学のブランドであると捉えたい。青山学院大学が「周囲の人からの評判が良い」(2位、前年度3位)のも、そうした一人ひとりの「光」が人々の前で輝きを増してきた結果ゆえなのかもしれない。
青山学院大学の人々は、今までのように国際社会へ、また、これからは日本の各地にも、培ったものを携えて訪れ、きっとそれぞれによき隣人となるのだろう。灯りは燭台の上に置かれている。
(立石慎治 国立教育政策研究所高等教育研究部 主任研究官)
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