コンピテンシーを重視した、2階建てから1階建てへの構造の見直し/関西国際大学
今年から3つのポリシー(AP・CP・DP)の策定が義務化され、文科省によるガイドライン策定を受けて、現在大多数の大学は3つのポリシーをどう実質化するかの作業で忙しい。カレッジマネジメント198号では、関西国際大学の濱名篤学長に「三つのポリシーをどう実質化するか」について寄稿してもらい、そのポイントを解説してもらった。その中で学長は、関西国際大学は「既に3つのポリシーの見直しを行い、本年4月には新ポリシーを公表する予定で動いている」と語り、実際に同大学のHPには3つのポリシーが公表されている。今回は、このようにいち早く3つのポリシーの見直しと公表を行った関西国際大学の従来の3つのポリシーについての課題、新しいポリシーの検討と策定をするにあたっての困難や進め方、具体的な内容と特徴、作成することで気づいた新たな発見、そして今後の課題や展望について濱名学長にインタビューを行い、それをリポートする。
コンピテンシー重視で共通教育と専門教育の構造見直し
関西国際大学では従来からかなり詳細な3つのポリシーが策定してあったという。それは、全学共通教育と専門教育という日本独特の方式に基づいて、ジェネリックな能力・スキル修得と専門知識修得との2階建て構造の上に成り立つポリシーである。もともと全学としてKUIS学修ベンチマークが設定されており、それに基づいて全学ポリシーが策定されていた。従って、全学ポリシーをガイドラインとして各学科で教育目標を設定していた次第である。
KUIS 学修ベンチマークに見られるように、関西国際大学はコンピテンシーを重視する大学であり、そこに掲げている大項目(1)自律できる力、(2)社会に貢献できる力、(3)心豊かな世界市民としての資質、(4)問題解決能力、(5)コミュニケーション能力、(6)専門的知識・技術のうち(1)から(5)までがコンピテンシー領域と分類でき、(6)は若干コンピテンシーとは異なった専門領域としての意味が強くなる。しかし、学長によれば、どうしても日本型の2階建て方式の場合、コンピテンシー以外の専門知識という2階部分が細かくなりすぎ、それを実際にアセスメントが可能かということが疑問として浮かび上がってきたという。
新たな関西国際大学の3ポリシー策定を進める上での基本的なコンセプトは、各学科のプログラムを意味する「学位プログラム」である。実際に、もし、学位プログラムに関して2階建て方式のままで3ポリシーを策定するとしたならば、目標が多すぎるため、日常的な教育活動や成果を検証可能とは必ずしもいえないのではないかと考えたと学長は指摘した。そこで5つのコンピテンシーと1つの専門知識・技術を並列にし、特に専門知識・技術においては各学科のディシプリンを重要視しながらも、それ以上に活用する力に焦点を当てることにした(図表1、図表2)。具体的には、学生の出口のイメージを考えて策定していく、そのためにはどのような教育を提供し、どのような学生を入学させ、何が入学時に必要かというようなDP→ CP→ APという順番での作成スケジュールで進められることになった。現在3ポリシーを策定中の大学の中には、APから作成していこうとしている大学もあるかと思われるが、関西国際大学の事例からはDP→CP→APという順番が合理的であることが理解できるだろう。
このようにスムーズに3ポリシーを策定して、公表していると思われがちであるが、それでもやはり策定に当たっては困難に直面したとのことである。作成に当たっては、当初は委員会方式あるいはプロジェクト方式の大人数で開始したが、大人数では合意にも作成にも時間がかかり、まとまりにくいことに気づき、途中から学位プログラムの責任者である学部長・学科長に原案の作成を任せ、学長との10回強にも上るメールでのやり取りをしながら進めてきた。その際には、全学部長・学科長にもCCでやり取りが届くようにした結果、お互いの良い案を参照し、自分のところの作文修正に活かすというような生産的な方向性へと向かった。こうしたプロセスを経て作成された3つのポリシーと後述するアセスメントポリシーは、最終的に学科での審議了承を経て、執行部会議、大学協議会、各学部教授会で審議され、学長決定へと進んだ。会議で原案を作成するよりは、一貫性と整合性のある学位プログラムに基づいたポリシーを作成する上では、このような当事者に直接関与させる方式が有効であったと学長が評価していることが印象的であった。大学という組織は大舞台の委員会方式で、重要な案件には対処し、策定しようとしがちであるが、むしろ、各プログラムに専門知識と責任のある関係者を直接関与させる方が円滑に進捗することを示唆していると思われる。
こうしたプロセスを経て作成されたDPの特長は、全学DPに掲げている前述した6つの教育目標を達成するために設定されているKUIS学修ベンチマークを参照しながら、それらをそれぞれの学位プログラムレベルに落として策定しているとまとめられる。
次に、同大学のCPの特長としては、教育内容と方法、評価が明示されていることである。こ れらは各学位プログラム(各学科)がDPに掲げた目標を達成するために、どのような教育内容や教育方法を組織的に実施するのかを明記するのがCPであるという認識に基づいている。そのために、カリキュラムの体系を示し、科目間の関連や内容の難易度を表現するナンバリングを行い、カリキュラムの構造を分かりやすく提示している。アクティブ・ラーニングやポートフォリオの作成等は教育方法としてどのように使用され、何のために使われているのかも明示されている。評価は、DPを達成するために不可欠な装置として位置付けられ、CPの中でもその仕組みが構築されているが、詳細についてはアセスメントポリシーとして紹介したい。
アドミッションポリシーにおいても、各学位プログラムが求める具体的な要件、例えば、教育福祉学科では基礎的英語力(英検3級程度)を身につけていることが明示されているなど学科による差異はあるものの、全学の教育目標とKUIS学修ベンチマークに沿った形で、各学位プログラムに入学し、教育を受ける力があるかを確認するための要件が明示されているのがAPとなる。
3ポリシーをチェックするためのアセスメントポリシー
さて、関西国際大学の3つのポリシーを可視化するうえで、鍵となるものが、アセスメントポリシーの存在である。3つのポリシーは、PDCAサイクルに当てはめるとPlanに相当し、Doは3つのポリシーを具現化した教育活動である授業、入試、入学前教育などの高大接続が当てはまる。このPlanにもとづき教育活動が実施され、学修成果が上がっているかを確認することがチェックであり、その基本方針がアセスメントポリシーと位置付けられている。全てのポリシーをチェックするシステムそのものがアセスメントポリシーであるとも言い換えられるだろう。
関西国際大学では、(1)大学及び学部・学科を対象とするプログラム評価、(2)サブジェクトレベルでの授業科目を対象とする評価、(3)学生個人を対象とする評価という3層構造でアセスメントの基本方針が示され、それぞれの評価方法が設計されている(図表3)。その際、検証・測定に必要な「観点・基準」と「尺度」のバランス、定量化しやすい評価である国家試験合格率、標準化テストスコアと定量化しにくいパフォーマンス評価であるルーブリックを活用した学修成果の評価や行動評価、eポートフォリオ等が学位プログラム、サブジェクトレベルでの授業科目の検証をするために配置されているかがアセスメントポリシーに則ってチェックされる次第である。
実際に、2年次終了時に、専門分野の基礎知識の到達度を確認するために、専門必修科目に関する内容について到達確認試験を行い、4年次には、卒業研究(論文)についてルーブリックを用いて複数教員が評価する2段階でのアセスメントが実施されている。しかし、こうしたアセスメントはかならずしも学生個人を対象として評価しているのではなく、学位プログラムがDPおよびCPに沿って機能しているかどうかをチェックするプログラム評価であると濱名学長は力説していた。
学生個人を対象とする評価としては、9月末と3月末の年2回行われるリフレクション・デイがある。ここでは、成績表や前学期に受講した科目のレポートやテストの採点結果を学生に返却することで、前学期を振り返るだけでなく、学生が自ら立てた目標をチェックし、今学期の目標と計画の策定を行うことが意図されている。リフレクション・デイでの活動を通じて、学生が授業で目標を立て、それを自覚させることが目的と言い換えてもよいだろう。
学生目線で4年間を設計する重要性を再認識
3ポリシー作成後、どのように学内や学部で共有や具体化を図っているのかという質問に対しては、学長はFDとSDを個々に、もしくはFDとSDを合同に行うことによって学内で3ポリシーを共有し、浸透を図っていると答えた。今年度からはSDが義務化されたが、教職員が共に大学の基本方針を理解し、共有することが教職協同の基本原理でもある。その意味では、関西国際大学では教員を対象としたFDに加えて主に職員を対象としたSDそして、FDとSDを合同で開催することが3ポリシーの浸透に役立っていると思われる。
3ポリシーを見直しすることを通じて気づいたことについての質問に対して、学長は学生目線で4年間を設計することの重要性を指摘した。学科を基盤とした学位プログラムは、日本的なEarlySpecialization( 早期専門履修化)のための仕組みであるが、これを学生目線から126単位1パッケージのシステムという見方で見るとすれば、学生が選択できる様々な学習ルートが存在するはずである。その様々な学習ルートからKUIS学修ベンチマークへ到達することが絶対条件であるが、学生自身にそのルートからKUIS学修ベンチマークの達成の意味を認識すること、そして学位プログラムの基本単位である学科の教員がオーナーシップを持って、学生へのLearning Route Mapを作成することを早急に進めていくことが大事であると認識したという。
このLearning Route Mapの作成は関西国際大学の今後の展開の方向性や課題に対しての取り組みにも大いに関係している。教育単位の中での“つながり”をどう実現していくかが重要な課題であるとの認識のもとで、学内での“つながり”をいかに様々な学外での活動につなげていくかを教職員全体で取り組むことが次の段階であるとの印象を受けた。具体的には、高校から大学へのつながり、大学から企業、社会、地域へのつながり等である。米国には、正課課程のカリキュラムとコカリキュラム、エクストラカリキュラムをつなげるという実践が行われている高等教育機関も見られるが、こうした概念に近い学内外のつながりをどう3ポリシーに照らし合わせながらすすめていくかということになる。そのためには、科目の精査を常時行いつつ、新しい3ポリシーが各学位プログラムの中で機能しているかをフォローアップしながら、PDCAを回し、改善を行うということになるとのことであった。
重要なのは大学の教育目標に則った整合性あるポリシー
関西国際大学は、3ポリシーの義務化に伴い、全学のポリシーを見直し、KUIS学修ベンチマークを参照しながら、学位プログラムを明確にしてきた。以前から大学としてコンピテンシーを重視する大学であることを公言していたが、その姿勢、方向性がKUIS学修ベンチマークには反映されている。こうした明確な大学の目標があるという基盤の上に、新たな3ポリシーが一体的にかつ整合性を持って策定されていることが当該大学の強みともいえよう。
大学によっては、コンピテンシーではなく、専門知識の習得と活用を重視する大学もあるかもしれない。800近い高等教育機関があれば、各高等教育機関の目標も多様である。また、濱名学長のように、高等教育政策や世界での動向に関心と造詣の深い学長や執行部ばかりではないかもしれない。しかし、重要なことは、各大学の教育目標に則って、整合性のある3ポリシーを策定していくことが基本的なステップであることを認識することである。そして、教育を提供する側としての大学・教員は、3ポリシーのもとで、実現と測定・分析つまり検証ができるかどうかを意識しながら、教育を提供していくことが肝要である。もちろん、教育の受け手である学生自身が、3ポリシーが明示されているなかで、教育を通じていかに成長を実感し、社会に対して具体的に説明できるようになるかが、大学全体に求められている課題である。それを意識しながら3ポリシーを具現化していくことが次のステップであるといえるだろう。
(山田礼子 同志社大学教授)