大学それぞれのビジョンやパーパスの実現に向けてSDGsの視点を(カレッジマネジメント Vol.236 Apr.-Jun.2023)

浸透しているが、身近ではないSDGs

 SDGs=「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」は、2015年9月に国連サミットにおいて、国連加盟193カ国が2030年までに達成するものとして掲げたもので、17の目標と169のターゲットを定めている。既に8年が経ち、我々の日常にもSDGsは大分浸透してきている。まさにSDGsとは、将来を生きる若者にとっては、不可欠な取り組みと言えるだろう。実際、特集内でご紹介したように新学習指導要領で導入された「探究学習」の一環として、SDGsをテーマとして、身近なところから課題を見つけ出し、解決に向けた方向性を議論したり、実際に具体的な取り組みを行っている高校も数多く存在する。

 今回、SDGsに対して、実際どのように認識しているのかについて、高校生にアンケートを行った。すると、高校生の4人に3人がSDGsに「興味・関心がある」と回答している。その一方で、17の目標について日常生活のなかで、大切にしたり、注意して行動しているものを尋ねたところ、3割が「関心があるものがない」「分からない」と回答している。進学先を選ぶ際にSDGsに取り組む大学かどうかを参考にするかという問いについては、参考にする、しないがちょうど5割ずつという結果だった。

 興味・関心はあり、授業での取り組みも始まってはいるものの、現実的には身近なものになっていないのではないか、大学での学びやその先のキャリアとの関係性もそれほど強くないのではないかという現状も見えてきた。

 企業に目を向けると、日本経済団体連合会でもこれからのSociety 5.0の創造・実現を通じSDGsに貢献することを明確にしており(図)、事業戦略立案の重要な要素としてSDGsを置く企業も増えている。また、ESG投資が浸透してきており、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といったサステナビリティに関する取り組みは、ビジネス機会に直結し、企業価値を高める一方、対応を放置しておくことは企業リスクになるとまで考えられるようになってきた。SDGsの社会的認知度や期待が高まる一方で、「SDGsウオッシュ」と呼ばれるような実態を伴わないうわべだけの貢献アピールをする企業も出てきている。

SDGs実現のためには、連携、協働、共創が重要に

 では、大学はどうだろうか。そもそも、SDGsが採択される以前から、当然のように社会課題解決に取り組んできた。そういった意味では、今回の特集でも、これまで取り組んできたことをSDGsという枠組みを使って整理し直して、教職員や学生と共有したり、教育・研究に取り組んだり、社会に分かりやすく発信するという大学が多かった。現在の社会課題はより複雑化し、単独の学問分野では解決しづらいものとなっている。そうした課題に対して、大学が人材育成や研究、社会貢献としてどのように取り組んでいくのかが問われている。現在、政府で議論されている文理融合、横断、複眼教育はその一つの例であろう。学問分野の壁や組織の壁を越えた連携や協働、共創も重要なポイントとなる。そうした意味において、SDGsを独自の特別なものと捉えず、ビジョンやパーパスの実現に向けて、あらゆる意思決定のなかに柔軟に組み込んでいく必要があるのではないか。

 2015年の国連サミットで採択された文章の正式名称は、「Transforming Our World(我々の世界を変革する)」である。SDGsはそのなかの一部に記載されているものだそうだ。SDGsの本質が世界の変革なのであれば、未来社会をどのように「変革」していくのか、大学はその重要な一翼を担っていくという覚悟が求められるのではないだろうか。


図 日本経済団体連合会「Society 5.0 for SDGs」


 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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