「SDGsの達成への貢献」を重点戦略に据え人材育成や地域連携に取り組む/千葉商科大学

画像 水撒きの様子


 2019年に「千葉商科大学SDGs行動憲章」を策定し、第二期中期経営計画(2019年~2023年)において「SDGsの達成への貢献」を重点戦略の一つに据える等、SDGsの推進を経営の軸足の一つに置いている千葉商科大学。その背景や具体的な取り組み内容、成果について、原科幸彦学長に伺った。

千葉商科大学 学長 原科氏、経営企画部長 柏木氏

SDGsの考えに符合する建学の理念

 同大学がSDGsの推進を経営の軸足の一つに置くのは、「建学の理念にぴったりと符合するから」と原科学長は説明する。建学の精神とは「商業道徳の涵養」。商いの目的をお金儲けとするのではなく、社会に何らかの貢献をすることで、結果として利益がついてくるという考えだ。このためには、「義」「勇」「仁」の武士道精神を持って、社会や環境に配慮した良い商いを行うことが必要だ。この考え方は、誰一人取り残さないという配慮の心で、持続可能な社会を作ることを掲げたSDGsの精神に通じる。そして、「義」「勇」「仁」を兼ね備えた人材として、大局的見地に立ち、時代の変化を捉え、社会の諸問題を解決する、高い倫理観を備えた指導者を「治道家(ちどうか)」と名付け、実学を通してその育成を目指している教育の方向性(図1)も、それを実現することがSDGsの達成につながっていくことから、経営の軸足に据えているという。


図1 千葉商科大学で身につけられる力と学びのイメージ


基盤教育を整備し、治道家の育成を強化

 SDGs推進のための取り組みは多様にあるが、原科学長が2017年の学長就任時にまず着手したのが、4つの「学長プロジェクト」だ。以下の4つのテーマで学部を超えてプロジェクトを組み実施している。「会計学の新展開」はDX時代に対応した新しい会計学のあり方の探究、「CSR研究と普及啓発」はCSRだけでなく、真に社会に必要とされるSR(組織の社会的責任)の探究、「安全・安心な都市・地域づくり」はキャンパスのある千葉県市川市国府台地区を防災拠点とするとともに地域の活性化。そして、「環境・エネルギー」は、大学所有の太陽光発電施設による発電量と大学のエネルギー使用量を同量にする「自然エネルギー100%大学」の実現に取り組んでいる。

 最後の「自然エネルギー100%大学」プロジェクトにおいては、2019年に電力に関して100%大学を達成、2020年には電気+ガスの総エネルギーに関して100%を達成した。ただし、後者の達成はコロナ禍でのもので、平常時とは大学の活動が違うため、コロナ収束を期待し、2023年度までの達成を新たな目標としている。

 2021年には、この経験を踏まえ、日本国内の大学において自然エネルギーの活用等を促進することを通じて、大学活動に伴う環境負荷を抑制し、脱炭素化を目指す「自然エネルギー大学リーグ」を設立。現在は11の大学の組織としての加入と、19大学の学長の個人としての加入があり、さらに教職員や専門家、学生、民間企業等が会員として活動している。「持続可能な社会の実現には、地域の環境・風土を活用し、その地域に合った多様な生活文化を営むことが必要。『まず隗より始めよ』の精神で、できる大学から取り組んでモデルを示せば、皆も真似してくれるだろう、そうして世界を良くしていこうという考えで取り組んでいます」と原科学長は話す。

 2019年には、SDGs推進の担い手となる治道家の育成強化のため、全学生に共通する基盤としての教育を行う基盤教育機構を設置した。学部間で重複があり過多となっていた科目数を整理し、全学共通のカリキュラム「基盤教育」を開始。高い倫理観や幅広い教養を身につける「共通教養科目」、千葉商大が「三言語(外国語、ITスキル、会計言語)」として重視する「外国語科目」「情報科目」「簿記会計科目」、人生100年時代を健康に生きていくうえで重要な「体育科目」等、7つの科目区分で整備している。1年次は学部横断的なクラス編成で基盤教育科目を中心に学び、2年次以降は学部ごとに専門的な知識を高めていくカリキュラム構成とした。「専門教育だけでは培われ難い大局的な見地や時代の変化を捉える力、高い倫理観の基礎を、基盤教育によって培うとともに、学部の枠を超えて交流することで、ダイバーシティへの理解も深めてもらいたい」と原科学長はその狙いを述べる。

取り組みの周知等により志願者数が増加

 こうした一連の取り組みが大きな成果として表れたのが、2019年の過去5年間の一般入試志願者増加率日本一だ(週刊エコノミスト12月3日号(34~35ページ)大学「何でもランキング」掲載)。この要因を原科学長は「本学の教育の伝統の周知と、東京23区内の私立大学の定員管理であふれ出した生徒の志願、SDGsの取り組みの目に見える成果、これら3つの要素の掛け合わせで生まれた効果」と説明する。「入学者に随分と学力も、意欲もある学生が増えてきました。入試担当者が高校をまわると、『千葉商大、最近面白いことやってますね』と言われることも多く、良い循環が生まれていると感じます」と続ける。

 SDGsの推進に取り組むうえで重要になってくるのが、教職員をはじめとした学内でのコミュニケーションだ。原科学長は「キャンパスが1つなので、日常的にコミュニケーションをとりやすい」「学長プロジェクトをやってきたおかげで、この6年間で教職員間のコミュニケーションが非常に良くなり、学部を超えてリスペクトし合う関係ができたことが大きい」と話す。他方で、経営企画部長として広報を行う柏木暢子氏は、「学長が建学の精神とSDGsの親和性や、それらの本質について繰り返し話すことで、学生や教職員の中で自分達の活動が社会価値の創出に貢献しているといった納得感が生まれ、SDGs推進に対する意識や活動のスピード感が高まる循環になっています。トップが発信するメッセージが浸透することは、組織にとって非常に重要」と話す。

 2021年からは、「働きやすく、事業優位性があり、SDGsに取り組んでいる企業」を「CUCミライアンス企業」とし、同大学ならではの学びを生かせる就職先として開拓することに着手。さらに今後は、「これまで取り組んできたことをしっかりと強化していくとともに、学生のサポートと留学生の受け入れを強化していきたい」と原科学長は話す。そのリーダーシップの下に進む取り組みに、さらなる期待がかかる。

図2 志願者数の推移




(文/浅田夕香)


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