企業も大学も新たな人材像を模索中、両者をつなぐコミュニケーションの場が必要(カレッジマネジメント Vol.231 Jan.-Mar.2022)

共に転換を求められる大学教育と日本型雇用

 2018年に策定された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」。その概要のトップに記されているのは、「Ⅰ .2040 年の展望と高等教育が目指すべき姿…学修者本位の教育への転換」である。この実現に向けた、方策として「教育の質の保証」と「学修成果の可視化」への取り組みが課題とされている。各大学は、ディプロマ・ポリシー(DP)を定め、卒業時に何が身についたのか、何ができるようになったのかをできる限り可視化しようと必死に取り組んでいるというのが現状である。

 一方、産業構造が大きく変化するなかで、企業においても生産年齢人口が減少し、日本の相対的な競争力が低下していると指摘されている。優秀な人材の獲得は至上命題であり、大学への期待も高くなっている。また、新卒採用・年功序列・終身雇用といわれる日本のメンバーシップ型採用を支える「三種の神器」が転換を迫られ、45歳定年やジョブ型採用という言葉も最近よく耳にするようになっている。

評価基準とスキルセットの言語化が鍵

 双方の動向を見ていると、入学時の偏差値による評価ではなく、大学時代の学修成果を可視化し、それを採用時によって評価するといった、同じ方向性に向かっているように思える。今回の特集では、School to Work の接続のなかで、その実態はどう変化しているのかを探った。結論からいうと、そうした“新たな接続”のあり方は、まだ緒に就いたばかりという状況だということだ。

 現状では、企業は求める人材像が変化するなかで、評価基準とスキルセットを言語化できていないという実態がある。大学は学修成果を可視化しようと努力しているが、大学個々の取り組みとなっており、それが相対的に比較できるようなものになっていないため、採用現場において現実的には使いづらい状況となっている。成績評価も、GPAを厳格化する大学も増えているものの、採用する側の企業からすると教授間の成績評価のばらつきがあるため評価に使いづらいという状況があるようだ。

なぜ、面接で「ガクチカ」を問うのか

 図は、日本経済団体連合会が2018年に実施した「高等教育に関するアンケート」より、企業に「産業界が学生に期待する資質、能力、知識」を聞いた結果を示したものである。理系では文系よりも「専門分野の専門的知識」が高くなっているものの、上位は「主体性」や「実行力」、「課題設定・解決能力」といった力が上位となっている。これを評価するために、採用場面では「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を問われ、その取り組み姿勢や困難への対応といったプロセスを詳しく聞いているのである。つまり、こうしたことを大学の正課・正課外を通じて取り組みを評価・可視化し、それをフィードバックによって学生に自覚化させることが重要である。

思い込みではなく、しっかりとしたコミュニケーションを

 今回の特集では新たな胎動として、新卒においても理系人材や業種・職種によってはスカウト採用が浸透し始めていること、地域で大学と企業が協働して求める人材像を可視化する事例等をご紹介した。ジョブ型採用についても、まだ企業側も手探りの状況で、欧米とは少し違った日本型のジョブ型雇用が始まっているようにも思える。

 コロナ禍は、将来起こる変化を10年前倒ししたと言われている。そうした大きな変化に対応するためには、思い込みではなく、大学と採用側である企業とのしっかりとした擦り合わせが重要であり、コミュニケーションの場を作っていく必要があると感じている。

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産業界が学生に期待する資質、能力、知識

 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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